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次第に、タクシーの中からでも、都会特有の煙たさが車内からでも感じられるようになり。坂沼は、改めて外出したことを実感した。
まさか外へ出ることになるなんて、思いもしなかった。引きこもりのような鑑定業を営んできた坂沼には、都会の空気は重苦しい。苦さまで感じる。
代々坂沼家が守り抜いてきた『鑑定士』なんていう『最高に金にならない』職を家族の猛反対を押し切って。半分縁を切ったような状態で、自分も鑑定士を目指すと決めてからというもの。死ぬまで玄関を跨ぐことはないと思っていたのに、なんだか変な感覚だ。18年前はこんなこと考えもしなかった。・・あれ、なんで、18年前なんだっけ?ーー18年・・。
『何かなんでおるみてーじゃな』
「みてーじゃな…って。時代語と語彙がグチャグチャだぞ??それ」
『んぅ、うるさい!!』
顔を真っ赤にする妖狐なんて、なかなか乙(オツ)なもんだな。ヨミカが見たらなんていうだろうな。あいつ、自分よりカワイイ人間嫌いだから…まぁ、人間っていうか、ケモミミ娘なんだけど。
『気高き出雲に住う一族の末裔であるわたしが』
「いまは車内だけどな」
『揚げ足をとるでない。出雲に住う一族の末裔であるわたしが悩みを聞いてやるという破格の待遇をしておるのじゃ、感謝するがよい』
「俺の家は代々続く鑑定士の名門一族なんだけど.」
『そんなことは聞いておらん。悩みはないのか?と聞いておる』
はぁ。家族に見捨てられた上に、とうとうこんな幼妖狐ロリにまで説教されるのか。
「…不憫だ」
『不憫ノ塊』(フビンノカタマリ)
「中臣鎌足みたいにいうんじゃねーよ」
『じゃあ、不憫塊子』(フビンノカタマリコ)
「小野妹子みたいにいうなっ…つーか、色々と勘に触るからやめろ」
『たしかに、お前のような輩(ヤカラ)と一緒にされてはたまらんな』
「おい!」
『…で。悩みは見つかったか?』
悩みか…たしかに、出雲の神様(つっても。妖狐ならぬ“幼狐“だけど)に直接的に悩み相談してもらうなんて、こんな機会はなかなかないのかもしれない。悩みかぁ・・。ここ数十年なりふり構わずやってきたから、考えたこともない。そもそも悩みなんてものは、それなりに成功した奴が持つもんじゃないか。悩みが何かわからないヤツだっているから。俺みたいな…俺みたいな、何もない奴が持っていいものじゃないんだ。きっと。
『ニヒリズムが激しい奴よのぉ』
「…いつの神様だよ。お前」
『兎にも角にも、悩みはないのか?』
「俺なんかが、悩みを持っちゃいけないんだよ」
『んぅ?』
「大抵の人間が悩みを持つのは“現状を理解してる“からだ。つまり、まぁまぁできる奴が持つものなんだよ。・・でも、いまの俺は悩みがなんなのかすらよくわからない」
『悩みがないことが悩み…奇怪極まりないのぉ』
「たしかにな」
よくよく考えてみれば。アウトサイダーの手本的な人生を現在進行系で生きてる自分は本来なら、悩みで溢れかえって埋もれるほどに苦しいはずだ。多分、悩みがありすぎるせいで何を悩みと呼ぶのかすらわからなくなっているんだろう。というのが坂沼(サカヌマ)の現状俯瞰(フカン)だ。ミラーハウスに『悩み』と一緒に放り込まれたらまさに、そんな感じだろうな。悩みが悩みであるためには、唯一性が多少なりとも必要で、『これ』と呼べる悩みがあるから。それは悩みなわけであって。全てが…たとえば、生きている事自体が悩みだとしたら、それはとても悩みとは言い難い。何が悩みか悩むなんて、奇妙な感覚だ。本当に。
『着いたぞ』
「何が?」
『すかいつりーじゃ!たわけ』
「ああ」
いよいよ会えるのか。“あの2人”にーー。