「では、鍛錬を始めよう」
「ほ、本当にやるのでござるか……?」
「もちろんさ。そのために、他の部員が帰るのを待っていたんだから」
龍之介が頷く。
その前では、セツナが不安そうな表情を浮かべていた。
「ではセツナ、目隠しを」
「わ、分かったでござる……」
セツナが渋々といった様子で目隠しを受け取る。
そして、彼女は目元にそれを当てた。
(ふふ……。目隠しした剣道美少女は最高だぜ!)
龍之介がほくそ笑む。
現在、2人が何をしているのかというと――
「うむ。これで準備完了だ」
剣道の鍛錬準備である。
時刻は夜。
セツナ以外の剣道部部員は帰宅済みであり、桃色青春高校の剣道場には龍之介とセツナの2人しかいない。
「龍殿ぉ……某を辱めないで欲しいでござるぅ……」
セツナは目隠しをしている。
その状態で木刀を持ち、龍之介と対峙していた。
「心配しなくても大丈夫だ。俺に邪な気持ちはない。これはれっきとした鍛錬だからな」
「ううぅ……。某はただ、強くなる方法を相談しただけでござるのに……」
セツナが恨めしそうに呟く。
彼女は、龍之介にアドバイスを求めていたのだ。
剣道の地方大会では上位常連だが、全国大会には手が届かない。
そのため、どうすればもっと強くなれるのか……と。
「では、セツナ。剣を構えろ。俺と勝負だ」
「……視覚のハンデが大き過ぎるのではござらぬか?」
「そうでもしないと鍛錬にならないだろう?」
「むぅ……」
セツナは渋々といった様子で木刀を構える。
そんな彼女は、剣道着を身に纏っていた。
(ふふ……。やはりセツナは剣道着が似合うな)
龍之介は露骨に笑みを浮かべる。
セツナが目隠しをしている今、誰に遠慮することもない。
(とはいえ、貧乳であることに変わりはないが……)
そう。
セツナには大きな胸の膨らみはない。
今までスカウトした美少女たちの中で、彼女ほど小さな胸の持ち主はいないだろう。
アイリとノゾミは標準サイズ。
ユイはサラシを巻いて誤魔化していた時期もあったが、その中身は巨乳である。
強いて言えば、ミオがやや貧乳だろうか。
しかし彼女は、身長自体が低めだ。
一方のセツナは、なかなかの高身長。
バスト自体の体積や重量という面では互角だったとしても、その身長との比率で言えば断然小さい。
よって、貧乳というジャンルにおいては頂点に近いと言えるだろう。
(それにしても……)
龍之介はセツナの胸元へと目を向ける。
そこにあるはずの膨らみはなく、ただ平らな大地が広がっていた。
「あのぉ……龍殿? 何か侮辱されているような気がするでござるが……」
セツナが訝しげに問いかける。
どうやら、龍之介の考えは彼女に伝わってしまったらしい。
「そ、そんなことはない! そ、それでは……行くぞっ!!」
龍之介は動揺しつつも、セツナに向かって駆け出す。
そして、木刀を振り上げた。
「せぇいっ!!」
「感じるでござる……龍殿の気配を! はああぁっ!! そこぉっ!!!」
「あべしっ!?」
龍之介の木刀が空を切る。
それと同時に、セツナが反撃に出た。
龍之介はダメージを受け、その場に倒れ込む。
「ま、待て! 実力が違いすぎる! ハンデが足りないって!!」
「何を言うでござるか! 某は既に目隠しという大きなハンデを背負っているのでござるよ!?」
「でもさ、セツナの心眼がここまで凄いとは思わなかったんだ! さすがは『心剣流星』と呼ばれるだけのことはある!!」
「ふへっ……。そ、そうでござるか?」
セツナは嬉しそうに口元を緩ませる。
彼女は、褒められることに弱かった。
自分で付けた二つ名を認められたので、なおさらである。
(よし! この調子だ!!)
龍之介は心の中でガッツポーズをする。
彼はさらに言葉を続けた。
「ああ! セツナを相手にするには、目隠しだけじゃ足りない!! だから、もう一つハンデを増やそう!!」
「な、なにをするつもりなのでござるか!?」
「こうするのさ!!」
ガバッ!
龍之介はセツナの剣道着の胸元を掴む。
そして、一気に左右へ引っ張った。
「ちょ……!? 龍殿!? なにをするでござるか!?」
セツナが動揺する。
だが、龍之介は止まらなかった。
そのまま彼女の剣道着を左右に強く引っ張る。
そして――ポロリ。
セツナの胸が露出した。
「きゃああっ!?」
セツナが悲鳴を上げる。
彼女は胸元を隠しながら龍之介に抗議した。
「な、なな……!? 龍殿! これはいったい何事でござるか!?」
「これは鍛錬のためのハンデだ。変な意味は何もない!」
「むぅ……! そ、そうだったでござるか……」
セツナは納得してしまった。
初対面時なら拒絶していただろうが、この数日で彼女は龍之介に心を許している。
そのため、彼からの提案を無下にできなかったのだ。
「それじゃあ始めるぞ! セツナ!!」
「わ、分かったでござる……」
2人は距離を取り、木刀を構える。
そして、同時に動き出した。
「くくっ! 動きが鈍くなっているぜ? そこだぁっ!!」
「ひゃんっ!? ど、どこを突いているで……にゃぁぁぁ!?」
龍之介がセツナの弱点を攻める。
こうして、2人の鍛錬は続いていくのだった。