冬休み初日。私たちは森の中を走っていた。「はぁッ…はぁッ、も、むり…」
そこらへんに落ちていた木の棒で杖をついていた小林は地面に思いっきり倒れ込んだ。
「こば、はぁ、し…まだ…3分の1だぞ…はぁッ」
倒れ込んだたこばやし(タコみたいな小林)を地面から掬い上げて背負った。
そう。私たちは走って港町へ向かっている。全力ダッシュとかいう馬鹿みたいな距離を馬鹿が考えることをしている。そしてこれの最も馬鹿な方法で走っている。そう。二人三脚走だ。私は池田とチームだったから良かったものの、木内と組んだ中山くんが可哀想である。
「ねッ、いけ、だぁぁ…ちょ、と休憩ッ」
池田が背負って走ってくれるのはいいが、揺れて胃が気持ち悪い。
「うっぷ…」
慌てて口を押さえる。朝食に食べたおにぎりが口から出てきそうになっている。今ここで吐いたら絶対に池田に殺される。そう思った時。
ガサッ
目の前に池田が袋を出してくれた。その袋を受け取る前に限界がきて…池田の悲鳴が森中に響き渡ったことだけは覚えている。
一方その頃。木内達はというと、中山に木内がしごかれていた。
「木内〜、これぐらいでへばんなや〜」
「へばって、ねぇ…」
「ほんまぁ〜?俺まだ全然走れんねんけどなぁ〜?」
倒れている木内を足でちょいっと蹴る中山。
「うそ、だろ…はぁっ…はぁ…」
「ん、じゃあ休憩はさもか、そこん岩に荷物置いて、ちょっと歩いとき」
足を括っている紐を手で千切り木内が背負っている荷物を平らな岩の上に乗せた。
「なかや゛ま…なんでおま…そんな、」
「『走れるか』って?今日から一兎からのお願いでな、もう演技やめろって言われたわ」
ははっと笑いをこぼす中山の目には何を映しているのかわからない真っ黒な目だった。その目を初めて木内に向けた。その黒い目が、全てを見据えているかのようなそんな目に少し恐怖のようなものを覚えた。
「もう先に欠片に言っとくわ。俺はな?お前らの教育係なんよ」
「いつもサボって悪かったなほんまに、これからもっとサボるからよろしくやで」
急に何かを言われても酸素の足りない脳が処理してくれない。
「そう、かよ…」
酸素が足りないせいか、視界が暗くなってきた。そのまま木内は地面に倒れ込んで寝てしまった。
「あらら、やりすぎちった。」
中山はそういうと、荷物を持ち木内を背負って風のように走っていった。その時。森から何かがのぞいていた。が、その視線はすぐに闇へ消えていった。
(どうする?追うか?けど今行くのはリスキーになる…けど追わんかったら……)
すぐに消えていったその何かに動揺するが、
(今は木内優先)
まずは仲間を先に港町へと運ぶことを決意した。
数時間後
「やっと…ついた!!」
港町まで全力ダッシュを遂に池田小林ペアは終わらせた。
「じぬ゛ッ…」
顔が真っ青になりながら地面に倒れ込んだ池田。この寒い季節だが、潮風が心地いい。吐いたせいか余計にお腹が空いてきた。
「お前…まじで…、このジャージ、どうすんだよ…」
池田のジャージにゲロったため、ジャージが悲惨なことになっている。
「それは…ごめんちょ…」
琉夏精一杯のあざとかわいいというものをした途端に、池田に鬼の形相で睨まれた。
いつも通りギャーギャーと騒いでいると、声をかけられた。
「お、池田さぁん小林さぁん待ってましたよぉ〜」
そう駆け寄ってきたのは大怪我したはずの白菊である。
「白菊っ!?おまっ!?」
「あ〜、怪我っすかぁ?あの怪我ぐらいなら2日で治しましたよ」
「怪我って全身複雑骨折、右腕破損、左目破損の…?」
「はい」
さすがと言っていいのか、いけないのか…バケモノの血が入ってると言ってもあの怪我だったら1ヶ月は安静にという話だったが。
「オレ元が元なんで、さ、早く本拠地に行きましょ、ここじゃ寒いっすよ」
「基地があるのか早いな」
「はい、黒井さんが途中来てくれたから今日中に何とか終わりました。」
「リーダー…まじか」
和気藹々と池田と白菊が話している3メートル後ろに小林がひっそりついて行く。そう何を隠そう小林。めちゃくちゃ人見知りである。グループに入った今現在は慣れてきたから良かったものの初対面の人では無理である。絶対に。話しかけてくれるまで。
「あ、んでそこの小林?さぁん」
「アッハイ」
話しかけてくれることにびっくりして声が裏返った。
「んっふ」
池田が笑いかけている。馬鹿にしてるなコノヤロウ。
「半袖寒くねぇっすかぁ?あんた一応女子だし、長袖着てくださいよぉ〜」
「アリガトウゴザイマス…」
「ぶっはははっ」
とうとう耐えきれなくなったのか大笑いの池田。ジャージを投げ渡す白菊。それを見事にキャッチできなくて海に落ちてゆくジャージを見ることしかできない小林。
それを後ろから見ていた中山が大笑いしたことは今でも覚えている。
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