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<数日後>
仁人「最近さ」
仁人が突然言う。
「避けてる?」
勇斗「は?」
仁人「俺のこと」
勇斗「……別に」
形だけの否定はしたものの、
でも、完全に否定できる自信は
俺にはなかった。
仁人「そっか」
それ以上、何も言わない。
その距離が、余計に苦しかった。
帰り道、俺は一人で歩きながら考えていた。
答えはもう出ているのに、
でも、認めたくない。
認めたら、戻れなくなる気がしたから。
次の日。
教室に行くと仁人がいた。
でも今日は、なんとなく空気が違う。
いつもの場所に座った。
仁人「佐野」
静かに名前を呼ばれた。
仁人「今日さ」
勇斗「うん」
仁人「ちゃんと話そう」
勇斗「……なにを」
わざとらしく聞いた。
自分でも女々しいと分かっている。
仁人はまた、まっすぐこっちを見た。
「俺のこと、どう思ってる?」
まっすぐで素直な問い。
その中に垣間見える不安。
もはや俺に逃げ場はない。
時間が一瞬止まって、
もう何を言っても
元には戻れない気がした。
勇斗「……ずるい」
やっと出た言葉は、それだった。
「なんでそっちから聞くの」
少しだけ強がってみたものの、
でもやっぱり声は思ったより弱い。
仁人は、少しだけ視線を落とした後
いつもより、ほんの少しだけゆっくり
顔を上げた。
仁人「だって、」
そこであいつの言葉が止まる。
喉の奥で引っかかるみたいに。
「……わかんないから」
その声は静かに、そして微かに揺れていた。
よく見ると、目元が、わずかに滲んでいる。
今にも零れるほどじゃない。
でも、確かにこらえているのがわかる。
仁人「佐野が、何考えてるか」
小さく息を吐いて、
「全然、わかんなくて…」
言葉を選びながら、続ける。
仁人「避けられてる気もするし、」
「でも、違う気もするし」
首をかしげながら、苦笑みたいな表情。
でもそれは、余裕からくるものではない。
#ご本人様とは一切関係ありません
Kira
仁人「俺だけだったら、どうしようって」
最後の一言は、ぽつりと呟いていて
ほとんど独り言みたいだった。
その表情を見た瞬間、
胸の奥で、何かがほどけた感覚がした。
・・・ああ同じなんだ。
俺も、俺が好きなこいつも。
自分だけが揺れてると思ってた。
自分だけが、怖くて、迷ってると思ってた。
でも違った。
目の前にいるこいつも、
同じところで立ち止まって。
苦しんで。嘆いていて。
それが、どうしようもなく伝わってくる。
勇斗「……好きだよ」
気づいたら言ってしまっていた。
もうきっとこれ以上隠せない。
勇斗「たぶん、ずっと前から」
声は震えているだろう。
でも止める理由も、そこにはなかった。
「だから、最近変だったのも、全部それ」
流れ出す沈黙。
でもさっきまでと違って、怖くない。
仁人「……そうなの?」
力が抜けたみたいに笑う。
でもちょっとだけ、目元はまだ赤かった。
仁人「俺だけじゃなかった?」
勇斗「うん。」
照れくさかったけど
それを聞いて、仁人は
やっと安心したみたいに、
少しだけ目を細めた。
仁人「……じゃあさ」
声が少しだけいつものように戻ったけど
でもどこか柔らかい。
勇斗「これからも、隣いていい?」
仁人の震える声を遮って、言った。
これだけは、
仁人より先に言わせて欲しかった。
仁人「うん…!」
「逆に…俺でいいの?」
勇斗「・・・お前だからいいんだよ。
俺は、横に居るのは仁人がいい。」
2人で一緒に笑いあった。
仁人「佐野」
名前を呼ばれた。
何度も何度も聞いてきたはずなのに
今日はなんだか特別に響く。
仁人「明日も放課後ここ居る?」
夕日が差し込んで、
机の影が長く伸びている。
何日もすごした場所。
なんでもなかったはずの時間が
気づけば1番大事なものになっていた。
少しだけ考える。
ここに来れば、
また同じ時間が流れるだろう。
何も変わらないまま名前を呼ばれて、
笑って、帰るだけの時間。
それもきっと、悪くは無い。
でもーー
勇斗「・・・ううん。
もう来ない」
仁人は少し目を見開いた。
「…そっか」
すぐに戻した声は、その奥にあるものを隠しきれずほんの少しだけ寂しそうだった。
やっぱり自分の選択は、
間違っていなかったと思う。
勇斗「だってさ」
仁人の所まで歩く。
今までより少し近い距離。
勇斗「もう、ここじゃなくてよくね?」
仁人「……どういうこと?」
俺はそんな仁人を見て、
少しだけ笑った。
勇斗「これからは」
「お前がいるじゃん」
また時間が止まったけど、
今度はじわじわと何かが広がっていく。
照れくさかったのか何も言わず、目を伏せて、
それから困ったように笑った。
「……なにそれ、ずるい」
勇斗「何が?」
仁人「全部」
仁人は短く息を吐いた。
でもその顔はさっきよりもずっと、
柔らかいものだった。
仁人「じゃあさ」
「次はどこ行く? 」
勇斗「さぁ」
「どこでもいい」
仁人「適当すぎ〜」
少し背の高い俺を見る上目遣いと
適当さに対するちょっとムスッとした睨み。
やっぱり可愛い。
勇斗「いいじゃんそんな感じでさ。
適当で行こうよ。俺らは」
そんなやり取りをしながらドアに向かう。
教室を出る前に、1度だけ振り返る。
夕焼けの中の教室。
なんでもなかったはずの教室。
でも確かにここで、全部が始まった。
仁人「佐野」
もう一度名前を呼ばれた。
仁人「行こ」
その一言に小さく頷く。
夜の端で名前を呼ばれる場所は
もうここじゃなくていい。
どこに居てもいい。
隣にいるのが、お互いである限り。
2人で教室を出る。
ドアが閉まる音がして、
その場所はただの教室になった。
でも、あの時間が消えることは無い。
呼ばれた名前も、交わした言葉も
全部そのまま残っている。
これからは、場所じゃなくて
“誰と居るか”で世界は変わる。
その1歩目を、2人で踏み出した。