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「こんな田舎の屋敷に閉じ込められるなんて、正直信じられません」
ガラルトとロナメアは、ザルパード子爵家の別荘に閉じ込められていた。
人里から離れたその場所は、まず人が寄り付かない。そんな場所に閉じ込められることは、二人にとって屈辱的なことだった。
「まったくだ。父上は一体何を考えているのだか……よりにもよって、あのギルバートに家を継がせるなんて信じられない!」
ガラルトは、妾の子が子爵家を継ぐという事実に未だに納得できていなかった。
彼はずっと、自分が次期当主になると信じて疑っていなかった。そんな彼にとって、父の判断は意味がわからないものだったのだ。
「……仕方ないことではありませんか」
「……何?」
「別に妾の子だからといって、家を継げない訳ではありませんよ。血が流れているなら、貴族は当主に選びます。血は何よりも大事ですから」
「な、なんだと……」
そこでガラルトは、驚くことになった。ロナメアが、自分に同意しなかったからである。
今まで彼女は、ガラルトに従順だった。それが崩れたことも、彼にとっては信じられないことだったのだ。
「ロ、ロナメア。一体何を言っているんだ。妾の子だぞ? そんな存在が、子爵家を継いでいい訳がない。父上は間違っているんだ」
「……間違っているのは、ガラルト様の方ですよ。こんな所に閉じ込められたのも、もとはと言えば誰のせいか……」
「ぼ、僕のせいだというのか!」
ロナメアに向かって、ガラルトは叫んだ。
その叫びに対して、ロナメアは不機嫌そうにする。その態度がまた、ガラルトを苛立たせた。
「驚いたな! 君がまさかそんなことを言うなんて、信じられない裏切りだ!」
「駆け落ちをしようなんて言い出したのは、ガラルト様でしょう? その責任があなたにはあったんです! あんなボロボロの家に駆け落ちしようなんて、無理な話だったんですよ!」
「君も同意したじゃないか! わがままな女だ……君がそんな奴だとは思わなかったよ!」
二人は、そこで初めて喧嘩をした。
お互いに今までため込んでいたものが、辺境の別荘に追いやられたことによって溢れ出してきたのだ。
「それはこちらの台詞です。あなたはもっと、知的な方だと思っていましたが……とんだ馬鹿者だった訳ですね!」
「なんだと? 僕を侮辱するのか! 大体、君はわがまま過ぎるんだ! 甘やかされて育ったんだろうな!」
「それも、そちらの方でしょう! まったく、あなたという人は最低です!」
ガラルトとロナメアは、激しく言い争っていた。
一度溢れ出してきた感情は、抑えることができなくなっていた。二人はどんどんとお互いの不満を打ち明けていく。
こうして、二人の間には大きな亀裂が生まれたのだった。
◇◇◇
結果だけ考えると、私とラルード様との間に交わされた契約は、それ程意味がないものだったような気がする。
私達は、仲が良い夫婦になった。そんな私達の間に、離婚する際の取り決めなどは、必要ないものだったのである。もちろん、それは結果論でしかないのだが。
「まあ、こういうものは保険のようなものですからね。使わないくらいで丁度いいのでしょう」
「ええ、私もそう思います……それにしても、不思議なものですね。浮気されて婚約破棄された私達は、こんなに幸せに暮らしているというのに……」
「ええ、これに関しては僕も驚いています」
ある日、私とラルード様の元へある知らせが届いてきた。
それは、ガラルト様とロナメア嬢の破局の知らせである。何があったかはわからないが、二人は上手くいなかったらしい。
「あまり耳に入れたいとも思っていませんでしたから、二人のことはよく調べていませんでしたが、なんだか色々とあったみたいですよ」
「色々?」
ラルード様は、私の前で苦笑いを浮かべていた。
その表情だけで、二人があまりいい末路を歩んだ訳ではないことがわかる。
「ええ、駆け落ちしたり色々とあったそうで……ああ、ちなみにザルパード子爵家は、ガラルトの弟であるギルバートが継ぐみたいですよ」
「ギルバート……ああ、確か妾との間にできた子の……」
「ガラルトの方は……今は何をしているのか、定かではありませんね。子爵家からは、出ていったようですが……ロナメア嬢も、どうやらセントラス伯爵家を追放されたようですね……これからは、修道女として生きるとか」
「なるほど、二人も色々とあったんですね……」
ラルード様の説明に、私は驚いていた。
なんというか、数奇なものだ。あの二人は、私達と婚約破棄してまで結ばれたというのに、何故か結局悲惨な結果に落ち着いてしまったようである。
「まあもっとも、二人がどうなると最早私達には関係がないことですからね……」
「ええ、まあそれはそうですね」
私の言葉に、ラルード様は深く頷いた。
あの二人とは、色々とあった訳ではあるが、正直彼らが今どうしているかなど私達にとってはそれ程重要なことではない。もう私達と彼らは、関係がないからだ。
「僕達には僕達の生活がある訳ですからね……これからも、幸せな生活を続けましょう。この契約書の名の元に」
「ええ、もちろんです。私達はあくまでも円満な契約結婚ですから」
そこで私とラルード様は、笑い合った。
これからも私達は、二人で穏やかな生活を続けていくだろう。婚約破棄された者同士、円満な結婚生活を続けていくのだ。