この作品はいかがでしたか?
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街も静まり返った夜に、小さな仕立て屋をノックする者が現る。「おーい、真宮?」
少し幼いような声容をした青年が勝手にドアを開けて店に侵入する。
すると、ヒールの音が店内に響く。
「あのですね?先に連絡してくれたからよかったですけど、あまり灯りの付いていない店に相手の了承なしにはいるものではないですよ?」
大人びた顔立ちをした店長と思われる人が困ったように語る。
藍色の髪を結い、妖しげに深紅の瞳が揺れる。
ふわりと微笑む口元がとても美しい。
「いいじゃないか、だって君だもの。」
侵入者――江戸川乱歩は店長に負けず劣らず美しい新緑の瞳を覗かせる。
「まあいいでしょう。奥へどうぞ。」
黒手袋の先が深い深い闇へと誘う。
支える人が居なくなったドアが音を立てずに閉じた。
「で、ご相談というのは?」
店の奥の薄暗い作業場へ案内される。
縫器や、服の構想が描かれた紙が机の上に置いてある。
丸椅子に座り、脚を組む。手元には備忘録があった。
少し面倒臭そうにも見えたが、瞬きの間にその顔は仮面の下へと隠れてしまった。
「嗚呼、実はひとつ手袋を作って欲しくてね。」
「手袋ですか。」
「僕と同じくらいの大きさでいいよ。お好みでアレンジをどうぞ。」
自らの手をなぞるような仕草をしつつ侵入者は語る。
鉛筆を握った黒手袋が動く。
「わかりました。納期は?」
「別にそこまで凝ったものでなくていいから、今すぐ出来たりしないかい?」
「貴方本当に……わかりました。では少々お待ちください。」
少々乱雑に鉛筆と備忘録を机に置き、彼は立ち上がる。
作業場の布置きへ歩いていく後ろ姿を眺めながら、侵入者は深い夢へと誘われてしまった。
店主は何度も侵入者の名を呼ぶ。
「江戸川さん。起きてください。」
「んん……?眠ってた?」
「ええ、そうですよ。手袋もできたのでそろそろお帰り願います。」
侵入者が起き上がろうとすると、肩から毛布がずりおちる。
どうやら店主がかけてくれたようだ。
「ありがとう、またこの手袋をあげる子を連れてくるよ。」
「ええ、またの来店をお待ちしております。次は、日が昇っている間に。」
「わかったよ。じゃあね〜!」
嵐のような侵入者は明るい脚取りでこのヨコハマの街を歩いていった。
「えーっと、ここでしょうか。」
あくる日、扉の外から少年の声が聞こえる。
今日は予約がない日な気がしたが、誰だろうか。
そんなことを考えながら、店主は縫器を止め、店の扉を開く。
「いらっしゃいませ。どんな御用でしょうか。」
扉の外から白髪がゆらりと現れる。
「あ、え、えっと、真宮凛さんでしょうか。乱歩さんからここへ行けと言われたんですけど……」
探偵社の子だろう。だが見たことの無い顔だ。
「ああ、なるほど。」
店主――真宮凛は手元を見て気がついたようだ。
彼こそがあの日の手袋の持ち主だと。
「ええそうです。私はこの仕立て屋『CloveR』の店主、真宮凛です。お見知り置きを。」
煌々と輝く藍色が下へ垂れる。
「えっと、これを渡して欲しいと言われまして」
白髪の少年は持参した紙袋を差し出す。
「どうも、ありがとうございます。」
「お名前を聞いても?」
花のように微笑む凛に見惚れそうになった白髪の少年は慌てながら答える。
「な、中島敦……です。」
「中島さんですね。わかりました。江戸川さんにありがとうとお伝えください。」
「はい、それでは。」
「ええ、またの来店をお待ちしております。」
探偵社にて、虎の少年は、江戸川乱歩と会話する。
「真宮さん、ありがとうですって。」
「嗚呼、ありがとね〜。」
駄菓子をつまみながら江戸川乱歩は答えた。
「あのですね、乱歩さん。少し真宮さんについて気になることがあったんですけど……」
「なんだい?」
視線を彷徨わせながら虎の少年は答える。
「真宮さんから仄かに血の匂いがしたんです。」
新緑の瞳が虎の瞳に映る。
虎の嗅覚は、深い闇を嗅ぎつけてしまったようだ。
店の中で彼は髪を解いた。
貰った紙袋も放り、服も着替え、裏口から暗い暗い闇を歩いて行く。
そして血塗れた死体の倒れた路地裏へ辿り着く。
煙草を銜えた1人の青年に声をかけた。
「兄者、血腥いよ。」
「ごめんね?ちょっと粗大ゴミを回収してたんだ。」
そういいながら艶やかな黒髪が振り返る。
「後で風呂入ってね。ていうか、俺にも火頂戴。」
シガーキスをして、彼も煙を吸う。
さっきまでの仮面が崩れ落ちたように表情豊かに語り出す。
「はぁ……またアンタの同級生くんが無茶振りしてきたんだけど?」
「乱歩は仕方ないさ。でも、面白い奴だろ?」
ふわりと煙が宙を舞う。
「面白い奴だけどね?限度もあるだろ。折角寝ようとしたところに……!!」
「はいはい、それはもう聞いたから。家へ帰ろうよ。」
彼らの会話は闇へ溶けた。
2話…♡500⤴︎で気分が乗れば
コメント
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体調崩してベッドから離れられなくなったので暇になって書きました。 設定がよわよわなままなので終着点はありません。