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夢を見た。あの花が咲く丘で君とまた出会えた夢を見た。

あなたの顔は靄がかかっていて見えない。百合の花が満開に咲く広い丘の真ん中にポツンと立っているあなた。 どこか懐かしいあの百合の香りを纏っているあなた。

ふと空を見上げると青黒い世界に一面に光る小さな白い粒たち。

その粒に照らされる私たち。私はあなたを知っている。まるで広い世界に私たちだけが取り残されているようなとても懐かしい気分になるのはなぜだろう。

離れてはいけない。衝動的に思った。この人と一瞬だけでも離れてしまったらもう二度と出逢えないような気がしてわたしは走った。あなたがいる百合の丘に走った。

ープツッ

そこでなにかが切れた。ゆっくりと目を覚ますと、すぐ目の前にお母さんの顔があった。お母さんはなぜか険しい表情で私を心配そうに見つめている。

背中の感触が柔らかい。目線を下げるとその理由がわかった。どうやらわたしはソファに横たわって寝ていたらしい。

お母さんはまだ険しい顔のまま私を見つめている。どうしたのだろうと思った次の瞬間、お母さんの手が私の顔の前まで伸びてきた。私は反射的にギュッと目を瞑る。

お母さんの冷えた指先が私の涙袋をなぞっていく。何事かと思ったけれどお母さんが発した一言でやっとその理由が分かった。

「あんた泣いてたけど怖い夢でも見てたの?」

『泣いていた』

どうやらわたしは知らず知らずのうちに泣いていたようだ。

「ごめん…私変なこと言ってないよね?」

もしかしたらと思って聞いてみた。万が一、もしかしたら…。私は期待していた。あなたは私のなんなのか。どうして私をこんなに懐かしく、悔しく、幸せで苦しい気持ちにさせるのか。あなたの正体が知りたかった。

「うーんとそうねぇ、あきら…だったかしら。あ、もしかして失恋したの?」

『あきら』

どんな人だったのかは覚えていない。でも確かにこの名前には聞き覚えがある。そしてこの名前を聞いた瞬間、胸が高鳴り同時にギュッと締め付けられるように痛くなった。

途端に、また頬に熱いものがこぼれ落ちてくる。ああ、またか…と惨めな気持ちになる。本当に最近は泣いてばかりだ。特に彰と出会ってからは…。




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