『触れすぎ』つづき
R18表現ありません
sm視点
あの日のことはもう忘れてしまおうと決めた。ただ、きんときから何通もLINEが送られてくるので、俺の頭の中にはずっとあの日の彼の感触があった。そんな状態で会えるわけもないので、彼からのお誘いにはなにかしら適当な理由をつけて全て断っていた。
しかし、ついにグループでワイテハウスに集まる日になってしまう。今行かなかったら、これから先、一生行けなくなってしまうかもしれないから、行くしかない。他のメンバーもいるし大丈夫、と強く思い込み、俺は準備を始めた。
自分の財布が見つからずグダグダ探していると、電車に乗り遅れ、ワイテハウスには予定時刻より結構遅れて到着してしまった。
ガチャ
「わるい、遅れた。」
ドアを開けると、不覚にもきんときと目が合ってしまった。心臓が少し鼓動しながら、俺はきんときの前を通る。
彼の前を通り過ぎ、ふぅと胸をなでおろしたとき、突然彼にグイッと腕を掴まれる。
「これ、お前の…。」
熱が顔に集まる。意味がわからない、なぜこんなことになっているのか。少し触れられただけなのに。
「え?」
「…や、これは違…。わるいちょっとトイレ。」
俺は急いでトイレに逃げ込む。そしてその場にしゃがみこんだ。頭では全く理解できない、まるで自分の体じゃないみたいだ。心臓の高鳴りが収まらない、顔も火照ったまま。
しばらく頭を抱えていると、やっと心が落ち着きだした。メンバーを長い間待たせるわけにもいかないので、すぐにトイレから出て、メンバーの元に向かった。
外が暗くなってきた頃、今日やるべきことが全て終わり、帰る準備を始めた。
俺はきんときと顔を見合せたくなかったので、早く帰ってしまおうと、急いでドアに向かう。
すると、なかむから声をかけられた。
「ちょ、スマイル?今日6人でご飯行く予定だったよね?」
「…あぁ、わりぃ、ちょっと体調悪いからもう帰るわ。」
「まじか、分かった。お大事に。」
ご飯には行きたかったが、これはどうしようもないことだ。少し早歩きになりながら急いで外に出る。空を見上げると星が綺麗に光っていて、ゆっくり夜道に浸る。いい夜だな、なんて考えていると、ふと聞き慣れた声が聞こえてくる。
「スマイル!ちょっと待って…。」
振り向くと、そこにはきんときがいた。やばい、と内心焦りながらも、彼に気づかれないように冷静そうに振る舞う。
「…どうした?」
「これ、財布…!結局さっき渡せなかったから。」
「あ、ありがとう。」
探してたやつ!と明るい気持ちになりながら、彼から財布を受け取る。
そして、腕の位置を元に戻そうとすると、彼の手がそれを追ってきて俺の腕を掴んだ。
「なっなんだよ!」
顔が一気に熱くなる。
「ふはっ、いや、その、ね?」
「は?!なんだよ!」
くすくす笑うきんとき。自分の顔が赤くなっているということを明確に理解する。 はー、本当にだるい、なんなんだよこの体。早く落ち着いてくれ。
赤い顔を冷まそうと必死に別のことを考えていると、なぜか彼の顔が俺にゆっくり近づいてきた。
彼の手が自分の肩に触れ、目を見てにっこり微笑まれる。俺は、そんな彼の様子を見て、彼が今から何をしようとしているのか察する。
え、ちょっと、待って。
どんどんどんどん近づいてくる。
待って。
距離があと数センチと近づいたところ、俺は慌てて彼の口をむぎゅっと自分の手のひらで塞ぐ。
「お前、な、なにしようとしてるんだよ!」
「…んんー、んーんんー。」
「一旦俺から離れろ!離れたら離してやるから。」
彼は落ち込んだ様子を見せて、俺からスっと離れていった。そして俺も押さえつけていた自分の手のひらをどける。
「…ふぅー。えー、やっぱり駄目?」
「駄目とかじゃねぇけど、いや、駄目だけど、なんで何も言わずにやろうとするんだよ!」
俺は今明らかに冷静じゃない。混乱している。だって、だって。
「じゃあ、今からします。やっていい?」
「そういうことじゃねぇんだよ!いや、その…。」
辺りがシーンと静かになる。
「ああもう、わかったよ。いいよ、諦めるよ。早く駅に向かおう。」
「…うん。」
ふぅ…良かった…。
心臓がバクバク言って止まらない。絶対今も顔真っ赤だ。そんなことされるなんて思ったこともねぇよ。
しばらくは胸の音が収まることはなかったが、彼と世間話をしながらゆっくり歩いていると、徐々に気持ちが穏やかになっていった。
そして、駅にそろそろ着くかなというころ、それは突然起きた。
ちゅっ
は?なにが起きた?今のは…?
「…っ。」
俺は驚いて、身動きが取れなくなってしまう。
「ごめん、我慢できなかった。」
「…。」
「じゃあ、今日はバイバイ、またね?」
「…。」
きんときがプラットホームに消えていく。
数秒経つと、ぶわっと一気に全身が紅潮する。
え…、今何が起きた…?俺は、え…?
さっきの出来事が軽くフラッシュバックする。
俺は、あいつとキスをしたのか…?
おかしいと思ったんだよ、あいつは諦めたりなんかしねぇ。油断した俺が悪かった。くそ。
なんて思考がぐるぐるしても、“キス”という言葉が頭の中で反芻する。
あっ。
自分が今駅にいることに気づく。急いで改札を通りホームに向かう。電車に乗ったあとも、家に着いたあとも、さっきの出来事を早く忘れたいのにすぐに思い出されてしまい、ずっと脳内に縛り付けられていた。
コメント
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今上がってるはやてさんの作品全部拝見させていただきました…めっちゃ好みです😌💗 続き楽しみにしてます✨