自分が発した言葉が部屋を一周し、自分の耳に返ってきて漸く事態の深刻さに気づいた。
なんてことを言ってしまったのか。
慌てて彼の方に目をやる。
流石の彼も、私の方をまん丸な目で見ながら硬直していた。
まずいと思い、訂正しようと思ったが、上手く言葉が出てこない。
必死に頭を回転させている私は、鯉のように口をパクパクしていたかもしれない。
「…どういう意味?」
どういう意味、とはどういう意味なのか。
思っていた角度とは違う跳ね返り方をした話題に、虚をつかれた。
「結婚、するの?俺ら」
え、しないの。
ていうか、私はしたいの?
思い描いていたプロポーズとはかけ離れた現状に気持ちと頭がついていかない。
「いや、ほら、もう3年も一緒に暮らしているわけだし」
「3年暮らしたら結婚するもんなの?」
いや、知らない。ていうか年数なんて関係ないとは思う。
ただ、自分が放った話題にも関わらず戸惑い、焦る私とは対照的に彼の表情が次第に曇っていくことだけはわかった。
「嫌ならいいんだけど。」
今なら何事もなかったことにできるのではないか、という僅かな希望にかけてなるべく冗談っぽく拗ねたように言ってみた。
おおよそ、ここから彼が焦りだし、機嫌とりがてらスキンシップが始まる。
そのままいつものように儀式に雪崩れ込み、今日を終える。
いつものことじゃない、と必死に自分に言い聞かせながら笑顔で彼を見た。
その彼の目を見て、私の甘い考えは打ち砕かれた。
ようやく、絶対に開いてはいけないパンドラの箱を開いたのだと理解した。