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今朝も同じ毛布の中で添い寝をしていたリィラとゼンティは同時に目を覚ます。
「リィラちゃん、おはよ……いただきまぁす」
寝たままの体勢でリィラはゼンティに口付けられて軽く毒を吸われる。朝の一服が終わると、ようやく二人は起き上がる。
「リィラちゃん、今日はこのドレス着て!」
ゼンティはクローゼットから黒いドレスを取り出すとリィラの方に広げてみせる。
リィラはゼンティと同室なので、クローゼットの中には二人の服が収納されている。
この時、リィラは裸である。いつも就寝前には衣類を全てゼンティに剥がされてしまうので、朝は服を着るだけ。
「このドレス、いつもより豪華ね。今日は何かあるの?」
手渡されたドレスを着たリィラは、フリルが重なった黒薔薇を思わせるスカートを摘んでゼンティに見せる。
ゼンティはリィラを着せ替え人形のようにして、毎日違う色のドレスを着せて楽しんでいる。
「ふふ、綺麗だよ。リィラちゃんの紫の髪には黒もバッチリ似合うね」
「だから、ゼンティ……」
「ん? あぁ、今日は僕の両親に会ってもらうよ」
「両親?」
ゼンティの両親という事は、ベスティア王国の先代の王と王妃。ゼンティは人の体を得たその日に王位を継いだ。
今は城下町に隠居しているゼンティの両親が今日、この城に来るという。
リィラは急に緊張してきた。人の姿をしていても、この国の者の正体は魔物。ゼンティの元の性格だって荒々しい。
「私も会わなきゃダメなの……?」
「両親に結婚の報告をするのは当然でしょ」
結婚式も挙げていないので、リィラは未だにゼンティが夫であるという実感がなかった。
ゼンティも黒の貴族服をしっかりと着て王子様スタイルになると、リィラと一緒に寝室を出た。
朝食を終えると、二人は食堂を出てそのまま別の部屋へと向かう。
見上げるほどの大きな扉の前に連れて行かれたが、リィラはここに来るのは初めてだった。
「ここは何の部屋なの?」
「謁見の間。玉座のある部屋だよ。中で両親が待ってるから」
扉の両側に控えていた二人の兵が、重い銀色の扉を開けていく。
扉が全開となり道が開かれると、ゼンティとリィラは真っ直ぐに伸びた赤い絨毯の上を並んで歩く。
まるでヴァージンロードのようにゆっくりと進む二人の先には、ソファのような横長の赤い椅子。
二人掛けの玉座には、王と王妃らしき人が並んで座っている。
(あの二人がゼンティの両親……? なんで玉座に?)
リィラは前方だけを見て歩きながらも色々と不思議に思う。今のベスティアの国王はゼンティなのに、なぜ両親が玉座に座るのか。
やがて玉座の前まで来るとゼンティと共に立ち止まる。
同時にリィラは思わず目を丸くする。父も母もゼンティと同じく銀髪で赤い瞳。驚くほどゼンティにそっくりな容姿であった。
ゼンティは今日も天使のような笑顔で両親に向かい合う。
「父さん、母さん。彼女が僕のお嫁さんだよ」
「あ、リィラです。ゼンティの妻……です。初めまして……」
リィラは慌ててお辞儀をして名乗る。再び顔を上げると、父親の眩しい笑顔と目が合った。
黒いスーツに黒いマント。容姿はゼンティをそのまま少し老けさせた感じだが、その笑顔は若々しい。
「おぉ、君がお嫁さんだね? 私はゼンティの父、ベスティだ!」
妙に明るく軽い口調でリィラは反応に困ってしまう。
視線を泳がせていると、ベスティの左隣に座ってニコニコとしている母親と目があった。
「あらぁ、うふふ、可愛いお嫁さんで嬉しいわぁ。私はゼンティのお母さん、スティアよ。よろしくね~」
スティアの方も独特な口調で妙に明るい。そして、やはり容姿はゼンティにそっくり。
黒のシンプルなロングドレスで、長い銀色のロングヘア。ベスティにぴったりと寄り添う姿には妖艶さがある。
ゼンティの年齢から考えて両親は40代くらいだろうが、見た目も口調も若々しい。
リィラはその時、ある事に気付いた。
「あ、ベスティアって国名は、もしかして……?」
「そうそう、父さんと母さんの名前を足したんだよ!」
先代の獣魔王ベスティと、王妃スティアの名前を足してベスティア王国。それは納得したが、不思議なのは両親の容姿がゼンティにそっくりな事であった。
おそらく獣魔は適当な人間を捕食して体を得るのだろうから、単なる偶然で容姿が似るとは思えない。
そんな事を考えている間にも、ベスティはニヤニヤしながらゼンティとリィラを見て何かを言いたげだ。
「ところでゼンティ、もうリィラちゃんに種付けは済んだのかな?」
「うん、バッチリ交尾してるよ!」
「あらぁ、初孫が楽しみだわぁ~」
リィラは顔を赤くして俯いてしまった。魔物の会話は言葉を伏せるという事をしない。
その様子を見て、ゼンティはリィラの肩を抱いて引き寄せた。
「じゃあ、父さん。母さん。僕がいない間、ベスティア国をよろしくね」
「……え?」
リィラは顔を上げてゼンティの美しい横顔を見つめる。
この言い方だと、ゼンティはどこかへ旅立つのだろうか。そんな話は聞いていない。
いつの間にかベスティもスティアの肩を抱いて寄り添っている。ゼンティと同じ事をするのは、さすが親子である。
「ふぅ、まったく。せっかく隠居してゆっくりできると思ったのになぁ、また王様かぁ」
「まぁ、いいじゃないの。王様のベスティも素敵よ~」
「スティア……王妃のスティアも素敵だよ、愛してるよ!」
「うふふ。もう、ベスティったら、息子夫婦の前で恥ずかしい~」
急にイチャつき始めた先代の王と王妃の前でリィラは遠い目をする。仲が良い夫婦なのは充分に分かった。
先代の二人が玉座に座っていたのは、ゼンティが不在の期間はベスティが再び王位に就くのだと理解した。
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