あぁ、死ねない。
生に対する執着は、今の僕には無い。なのにも関わらず、今持つこの呪いは死ぬ事が出来ない。これが他者から受けた呪いなのか、そんなことは分からない。この僕に生きて欲しいと願う者がいたのか、はたまた僕が大犯罪を起こして、死ぬ事が許されなかったのか。でも、多分生前の僕もこんな呪い望んじゃいない。僕は死にたい。生きているに意味を見いだせない。やっと死ねたというのに、黄泉の国で暮らす?みんなで協力してお呪様を倒そう?確かに素敵だね。ただ、苦しいんだ。なんでかなんて分からない。なんでこう思うのか、理由が思い出せないんだ。思い出そうとすると、苦しくて、苦しくて、泣き出しそうになる。自分がのうのうと暮らしていることに、罪悪感が湧いて呼吸が荒く なる。それでもどこか、死んではいけないと感じた。それはこの呪いのせいだろうか…?死なずに苦しめと呪いが囁いてきているように感じる。どちらにせよ僕には死ぬ事が許されていない。誰か、
僕を殺してくれないか?
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目を覚ませば、目の前では大きな戦いが巻き起こっていた。さっきの人は……。まだ来ていないのかな?
「いっ…づ」
メキメキと言った音をたてながら、体の傷が塞がっていく。この感覚には一向になれない。服は血まみれ、それでも傷は塞がるし、僕の呪いが死ぬことを許さない。とにかく2人に加勢しないといけないかな…。2人は死にたいなんて微塵も思っちゃいないだろう。僕の自殺願望に二人を巻き込むわけにもいかない。ひとまず立ち上がった。あのお呪様は、首が長い。僕のかまがちょうどいいだろう。僕は、 死ぬためにこの仕事に出向いていると言ってもいい。いつか、僕を殺してくれるようなお呪様に出会えることを願って。でも、このお呪様は僕を殺せない。物理的に体をエグるだけじゃ、到底僕を殺すことなんてできない。だから、お呪様には祓われてもらう。
貴方の呪い、僕の呪いで上書きしよう。
例にももれず、今回は苦戦している。祓い屋の方を見てみれば、あまり好ましい状況ではないようだ。俺の触手が奴には効きにくい。首が鉄のように硬い。攻撃をするたびに、こちら側にダメージが入る。祓い屋の方といえば、札が奴の手足で全て散り散りにされる。正直、これだとダメージなんて微塵も入っちゃいないだろう。ユウレイの方と言えば…悲惨すぎてみてられない。いつもは2人で片付くお呪様討伐が、3人がかりでも全員が疲弊し、ユウレイに至っては負傷している。ユウレイの呪いがなんだかは知らないが、あのままだと普通に死ぬ。鉄骨が体を貫いているなど、確実に死ぬだろう。俺の呪いは、基盤となる呪いを改良し、触手として顕現させたもの。実験の末に、本来人間がたどり着いてはいけないような領域にまで達してしまった狂気の実験の賜物。基本的に物理攻撃しかできない。他にできることは、俺には理解が及んでいない。今は実体。人間の身体能力じゃ、ユウレイを助けるなんてことできない。祓い屋にも余裕が無いし、このままいけばユウレイのように悲惨な状況に陥ることだろう。それだけは絶対に避けなければいけない。…さっきの人間が増援を呼んだようだが全く持って来やしない。あの人間も逃げたくなったんだろう。気持ちは分からなくはない、あの人間はまだ生きている。まだ先があって、これからも未来に向かって突き進んでいくんだろう。だが、この状況からするとさっさと増援を呼んで欲しいもんだ。
なんて流暢なことを考えていると、隣で大きな音を立てて祓い屋が吹っ飛んできた。
「いっでぇ…!」
よくよく見てみれば、祓い屋の体には多くのガラス片が突き刺さっている。
「おい…触手やろう…。おまえの攻撃も効いちゃいないんだろ。」
「…否定ができないことに腹が立つな。」
そんなふうに話している間にも、お呪様からの攻撃は止まない。
「結構やばいんじゃねぇのか?俺の札は届かねぇし、お前の触手じゃダメージを与えられない。このままだと、ユウレイも、俺もお前も…確実に死ぬ!」
祓い屋からは、普段見ないような焦りを感じた。あまり見ない表情に、少し笑ってしまう。
「何笑ってんだよ気色悪ぃ…。」
「お前がこんなに焦るところなんてあまり見た事がないもんでな…その間抜け面がより際立つ。」
「お前っ!こんな時にバカにしやがって!もっと状況をだな…!」
そんな会話を遮るように、2人の間にお呪様の手足が突き刺さるように通り抜けた。
「っと、っぶねぇ!危うく当たるところだったぜ。」
「少し気合いが入ったんじゃないか?さっきよりも動きが早いぞ?」
「そうかもな…。弱音を吐いてる場合じゃねぇし、さっさとコイツを倒してユウレイ連れてくぞ!」
「言われなくても分かってる。俺に指図するな。」
両者、バチバチににがみあっている。だが、そこには確かに互いに対する信頼があった。
「おら触手野郎、行くぞ!」
「少しは学べ…俺に指図するな!」
そうして、ふたりが突っ込んでいこうとしていた時だった。硬い、まるで鉄のようなものが地面に落ちる音がした。そちらを見てみれば、血にまみれた鉄パイプが横たわっている。そして、すぐ近くには身体にぽっかりと穴があいているユウレイが立っていた。
「ばっ…か、お前!!そんなことしたら本当に死ぬぞ!」
「ユウレイ…お前、死にたいのか??」
その問いかけに、ユウレイは否定も肯定もしない。ただ、死に対する恐怖というのはその表情からは読み取ることが出来なかった。
「祓い屋くん、触手くん。君たちには僕の呪い、見せたことがなかったよね?じゃあ、お披露目といこうか!僕の呪いを…。」
ここで俺は違和感を覚えた。ユウレイのヤツ、やけに笑っていて、まるで自分の今の惨状を理解していないような…?
「って…は?」
「どうした祓い屋?」
「おい、ユウレイの身体よくよく見ろ。」
そう祓い屋に言われた俺は、ユウレイの体に目を向ける。服は血まみれ、だがおかしい。さっきまで体に空いていた傷が、どこにも見当たらない。まるで、元から空いていなかっかかのように。
「ユウレイ…お前。」
「そう、これが僕の呪い。至って単純、なんの捻りもない。君たちみたいに攻撃なんてもってのほか、僕にできることなんてさほど何も無い。でもね、僕には僕なりの作戦ってのがあるのさ…。」
ユウレイは、口元に笑みを作っている。
そして、そんなユウレイにも攻撃が来る。
ユウレイは避けようとしない。
その時、祓い屋の霊と、触手の霊。2人の幽霊の声が、この都会にこだました。
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