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ー名前をつけてからあの子は、『名前、呼んでよ。』
銅さんは、名前を呼んで欲しいとずっと言ってくる。
『銅さん。これでいいか?』
自分が考えた名前なので、恥ずかしい。
名前、変じゃないだろうか。
『琥珀がいいな。』
『どっちでもいいだろ、そんなの。』
何が違うというんだ?
苗字か名前かの違いだ。
『琥珀がいいな…』
何でだよ…
『ま、いいか。琥珀さん.な、りょーかーい。』
適当に言う。
『琥珀がいい…』
めんどくさ!
『琥珀!これで満足か!』
よくわかんないけど、さんをつけた方がいいのでは?
『うん、満足だよ。』
『あぁ、そうか…』
満足したんだ…
本当によくわからない奴だ。
やっぱり、わから.ない子に変えようかな。
『んで、甘以外に俺の名前は考えたのか?』
甘、は嫌だ。
『色々考えたよ?でも、甘ちゃんがいい。』
『はあ?ならお前はわからない子だぞ!』
『それはいや!』
『俺もいやだ!』
くそめんどうだなコイツ!
『甘ちゃんって、呼ばせてよ…』
琥珀さんは、泣きそうだった。
『くっそ…!』
泣けば許されると思ってんのか?
もう、どうでも良くなってきた。
『わかったよ。好きに呼べ。』
『ありがとう、甘ちゃん。』
『・・・』
その名前にこだわるのはなぜなんだろう。
まぁ、いいか。
『銅.甘ちゃん、だよ?』
『は?』
銅?
『違う、銅はお前…琥珀のことだぞ。琥珀が、銅.琥珀だ。』
『甘ちゃんのみょーじ?は、私と同じ銅がいいな。』
勝手な…
『はいはいそうだな面白いな。』
色々、決められていく。
『もう、私は頑張って考えたのにぃ。』
頑張ったのか…
『ほら、次の授業は別の教室だろ?行くぞ!』
準備して、移動する。
『ま、まってぇ〜』
いい子なのかと思ってたけど、めんどうな子なんだな。
『甘ちゃんのパパとママってどんな人なの?』
琥珀が訊いてきた。
『本当の親は…もういない。今の親は大嫌いだ。』
本当の親が今もいたら、どうなってたんだろう。
もっと、マシだったんじゃないだろうか。
『甘ちゃんもなの?』
『え、』
も?
それは、
『私もなの。パパとママ、ころされちゃった。今のパパとママは、怖いの。』
『・・・』
ころされた…
ほんとかはわからないけど、
もし、本当なら…
そして、新しい親はクズみたいだ。
琥珀は、暴力を振るわれたりしているみたいだし、辛いだろうな。
『優しい家族、欲しい…』
この子が俺に、同じ苗字をつけたのは…
『パパとママに、会いたい…』
甘ちゃんというのにも、何かあるんだろうな。
『辛いな…』
だから、そうしたかったんだろう。
『いいか?これが人を傷つけるということだ。人が傷つくということだ。』
父が冷たい声で言う。
酒瓶が、割れていた。
そんな簡単に割れるものじゃないだろう。
視界がぼやけ、倒れそうだった。
でも、必死に耐える。
『お前なんか必要ない。見ているだけでイライラする。邪魔なんだよ、うざったい。』
父が吐き捨てるように言う。
・・・
俺だって同じだ。
お前らは本当の親じゃないくせに。
言いたいことは沢山あった。
でも、それを言っても無駄だ。
余計に酷くなるだけ。
『出ていけ、』
俺は何も言わず、出ていく。
『お前なんか人間じゃない。』
声が聞こえた。
うるさい。
ドアを閉め、
真っ暗な中、街灯の光を頼りにある場所へ歩く。
最近、父が暴力を振るってくるようになった。
父は俺のことが嫌いだった。
だから、限界だったのだろう。
月が細く光っている。
外は静かで誰もいない。
そしてすぐに、目的の場所に着く。
あの公園。
子供にとって、一番と言える場所。
でも、今は真っ暗だ。
キィ…キィ…
ブランコの揺れる音が聞こえる。
風はないのに、
なんだろう。
近づいてみる。
ブランコに人影がある。
『だ、だれ?』
女の子の声がする。
もっと近づいてみる。
『ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』
女の子がずっと謝っている。
この声、聞いたことがある。
『俺だよ。』
俺は声をかける。
『え?甘ちゃん?』
やはり、琥珀だった。
『何やってんだ、こんなところで。こんな時間に。』
今は夜の21時くらい。
普通、子供なら家にいるはずの時間。
『追い出されちゃって』
琥珀もか。
『甘ちゃんは?』
逆に訊かれる。
『俺もだよ』
そう言って、隣のブランコに座る。
『甘ちゃん、頭、ケガしてる、』
琥珀がこっちに来て頭を優しく撫でる。
『痛い、』
瓶で殴られた後だ、まだまだ痛む。
『あ、ごめんなさい…』
『そういう琥珀も、ケガしてるだろ?』
琥珀の片方の頬が赤くなっているように見える。
学校でも殴られたりしているが…今の親に殴られたのだろう。
指も傷だらけ。
『んん…』
琥珀が今にも泣き出しそうな声で言う。
『今日の夜は一緒にいよ?』
琥珀が俺の手をとってねだるように言う。
まぁ、1人になっても何もすることはない。
『あぁ』
返事をする。
視界がさっきから酷くぼやけている。
耳鳴りがして、琥珀の声が聞こえなくなっていく。
『ーーー?』
だめだ、何も聞き取れない。
琥珀が、こちらに来て、
抱きついてきた。
『だいじょうぶだよ。』
耳元で、優しい声が聞こえた。
しばらくして、
耳鳴りが収まってくる。
痛みも、和らいできた。
『もう、大丈夫。』
琥珀が俺の顔を見る。
『ほんと?』
心配そうな表情。
『あぁ。』
もう、大丈夫だ。
きっと。
夜の公園は、虫が鳴いているだけでとても静かだった。
琥珀は、ブランコに座って夜空を見上げた。
俺も見上げる。
細い月と、その周りに小さな星が光っている。
綺麗だ。
ふと、琥珀を見る。
琥珀は目を輝かせていた。
まるで宝石のようなその目が、とても綺麗だった。
『私も、星になれるかな?』
あの子が遠くを見て言った。
星、か。
目だけじゃない。
他だって、綺麗だと思う。
この子が、普通の人間だったら、本当に幸せな生活を送れてたんだろうな…
と、琥珀と目があった。
『どうしたの?私の顔に、何かついてる?』
琥珀は、不思議そうな表情をした。
『何もついてない。なんでもない。』
俺は歩く。
『おりゃっ!』
琥珀が座っているブランコを揺らす。
『ふぎゃあ!』
高くまで揺らす。
琥珀は、怖がっていたけど、
いつのまにか楽しそうに笑っていた。
そうやって、日が昇るまで遊んでいた。
今日も、学校へ行く。
相変わらず、いじめはなくならない。
どころか、前より酷くなっている。
暴力を振るわれる。
!
琥珀が、ホウキで叩かれていた。
でも、数人に押さえつけられてしまい、止めに行けない。
『っ!』
何度も殴られて、蹴られて。
休み時間が終わるまで続いた。
痛い…
教室に向けて歩く。
ふらふらする。
歩くことが難しい。
なんとか、教室につく。
教室に入り、自分の席に座ろうとした。
だけど、
あれ?
琥珀がいない。
どこに行ったんだ?
教室にはいない。
と、
数人から笑われた。
嫌な予感がした。
探しに行こう。
どこにいるのかはわからない。
物置部屋や廊下の角、階段の下など、いそうな場所を探した。
『琥珀!』
女子トイレに向けて声をかける。
返事はない。
校舎裏を見てみる。
姿はない。
外から、色々見回す。
他に見てない場所…
いくつもある。
でも、また、
嫌な予感がする。
それは、なんか…
本当によくないことな気がする…
-『パパとママに会いたい…』-
-『私も、星になれるかな?』-
まさか‼︎
俺は走った。
『うぐっ!』
何度も、階段でつまずく。
けど、早くいかないと間に合わない、
そんな気がした。
そして、扉の前についた。
この先立ち入り禁止、と記載されている紙が貼られている。
でも、その扉のドアノブをひねる。
扉を押すと開いた。
光が差し込み、眩しい。
風が俺の髪を揺らす。
俺は扉のあった先へ歩くと、1人の女の子が立っていた。
その後ろ姿を俺は知っている。
綺麗な10円玉のような色の髪が、揺れている。
琥珀の後ろ姿は寂しそうで、誰かが慰めに来てくれるのを待っていたかのように、そこに立っている。
『ごめんね………。』
少しだけこちらに顔を向ける。
でも、よく顔が見えない。
頬にキラリと輝く何かが落ちていく。
それだけが見えた。
でも、それだけ言って、前を向く。
前には小さな子でも登れてしまうほどの段差があるだけで、フェンスはない。
ここは屋上だ。
学校の屋上…
俺は、琥珀の方に歩く。
『こないで、』
琥珀が小さな声で言った。
俺は咄嗟に歩みをとめる。
琥珀は段差の上。
段差の奥に、何があるのだろう。
俺の予想が当たらないことを願う。
俺は気付かれないよう、ゆっくりと近づく。
琥珀が、いつ向こうへ行ってもおかしくない。
間に合ってくれ!
!?
すると、急に強い風が吹く。
琥珀の身体が少しずつ斜めになっていく。
俺は走って、手を伸ばす。
間に合え!
俺の手が琥珀の手をとらえるが、
『ぐっ‼︎』
強い衝撃が、腕にかかる。
『いたぃ、』
琥珀も同じなのだろう。
片腕だけで琥珀を支える。
持ち上げられない。
少し動くだけで俺も落ちそうになる。
もう片腕で、落ちないよう支えているため、どうすることもできない。
と、
『どうして助けたの?』
え、
『もう、楽にさせてよ!助けても生きる意味なんてない!助ける意味もない!だから手を離して!』
琥珀が、大声を出した。
何を言ってんだよ。
『たとえ!琥珀を苦しませても!それでも!生きていて欲しい!意味なんてなくても!助けてはいけない理由になんかならない!』
たくさん苦しんで、たくさん辛い思いをしていたのを、俺は知っている。
でも、
『生きてはいけない理由になんかならない!』
生きてて欲しい。
そう、勝手に口から出ていた。
『生きたって、辛いだけだよ!もういやだよ!苦しみたくないよ!』
だけど、あの子は嫌がった。
気持ちは、痛いほどわかっている。
『生きていても辛いだけで、何もないの…だから、しんだ方がいいの…私がいない方が、みんな喜ぶの…』
琥珀が、涙を流していた。
だけど、
『なら、俺のために生きて欲しい…辛いなら俺が守る!だから生きろ!俺の願いは、琥珀に生きていて欲しい!生きる理由ならそれだけでいいだろ‼︎』
自分勝手なことだ。
生きれば、苦しむことなんてわかっている。
これからも、傷つき、辛くて死にたくなることなんてたくさんあるだろう。
でも、
『俺だって辛いし、死にたいと思った。でも、俺は、お前を見て、一緒にいて、生きていたいと思えたんだ。』
琥珀が、目を大きくした。
『このままじゃあ2人まとめて落ちるぞ!そこの、隙間を…』
琥珀がもう片方の手で、小さな隙間に手をのせた。
少し、楽になった。
『うううっ‼︎おっっりゃあああ‼︎』
琥珀を引っ張り上げる。
琥珀のからだが、どんどん上がってくる。
はあっ、はあっ、
『ううっ!』
琥珀の手を掴んでいた右手が痛い。
でも、琥珀は助かった。
『ごめん…なさい……』
琥珀が謝った。
言いたいことはたくさんあった。
せっかく出会えたのに、
友達になれたのに、
守りたいと思たのに、
でも俺は、
『生きて、くれ…』
それを言った。
俺も、涙を流していた。
小学3年生の子供が抱えるには、あまりにも重すぎる悩み。
それを、どうやって解消すれば良いのかなんてわからない。
でも、放ってなんかいられない。
『私は、甘ちゃんのために生きていいの?私といて、嫌じゃないの?』
『もちろんだよ。俺も、琥珀のために生きる。嫌じゃないよ。』
きっと、1人だったら、
俺はもう生きていないだろう。
『友達だろ?嫌なことがあったら、遠慮なく相談しろよ。』
今があるのは、
きつくあたったのに優しくしてくれた、
琥珀のおかげだ。
だから、琥珀には生きていて欲しい。
俺の、クソみたいに最低な理由。
でも、
他人のことを信じてこなかった俺にとって、これでもかなり考えて言った。
『嫌。甘ちゃんは、自分のために生きて。私のことは考えなくていいよ。』
『嫌だ。考える。』
琥珀を、手放したくない。
『甘ちゃんは、優しいんだね。そんな甘ちゃんと、ずっと一緒にいたいです。』
琥珀が、抱きしめてくる。
『優しくなんて…いや、もうやめよう。』
琥珀なら、信じられる。
だから、優しくしよう。
『あれ?止めちゃったんだぁ、つまんないの〜』
っ!
本当なら、胸ぐらでも掴んで、殴りたいくらい。
でも、
『はい、止めました。人の命は一つしかないから、大事に扱わないとダメですよ?』
俺は、優しくする。
『は?お前らは人間じゃないだろ!いっしょにすんな!』
『お前なんかしんじゃえばいいのに。』
俺は、ソイツらに近づく。
『甘ちゃん!』
『来ちゃダメだよ。』
俺は、琥珀を止める。
と、1人に、胸ぐらを掴まれる。
『調子にのってんのか!』
『そんなつもりはないですよ?でも、嫌な思いをしたならあやま…』
強く引っ張られ、
俺の身体は、空中にあった。
そして、地面に落ちて、転がる。
階段から落とされたみたいだ。
なんで、
なんで、何もしてないのに苦しまなきゃいけないんだろう。
なんで、嫌なことばかりされるんだろう。
なんで、死にたいと思ってしまうんだろう。
『甘ちゃん‼︎』
琥珀の、悲鳴みたいな声が聞こえた。
いつも、声が小さいのに、
強く響いた。
『ははははっ、』
アイツの笑い声だろうか。
いや、違う。
笑っているのは、
『はっはっはっは!』
俺だ。
俺は立ち上がって、アイツらを見た。
『楽しいですか?面白いですか?俺も、やってみてもいいですか?』
階段を登る。
『は?なんだよ、それ!』
『ありえない、こっちに来るな!』
視界が左右に揺れながら、ゆっくりと上がっていく。
アイツらが、怖がっていた。
『どうしたんですか?怖がらなくてもいいですよ?』
俺は優しく声をかけたが、
アイツらは、走って逃げてしまった。
『あぁ、残念だ。』
本当に、残念…
視界が、ぼやける。
そして、暗闇になる。
『甘ちゃん?甘ちゃん!』
声が、聞こえた気がした。
でも、水の中にいるみたいに聞こえる。ー
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