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り う 𓂃 𓈒𓏸
御約束通り
初夏、蝉時雨に元来輝に群がる蛾が蜘蛛の意に絡まる熱帯夜にはつくづく不満を抱えていた。
虫が悦びを表すであろう季節に響く耳障りな鳴き声には悪寒がしそうであった。顔は青い。それだけれども未だ滴る汗が地に着くコトをやめないので、布団に潜るのもやめにして、ただ文を読むコトとした。非常に読みづらいので、何度か文の主には口を辛くした。然しながら筆跡というものは良くも悪くも治らぬもので、この文も届いてからというもの、良くわからず終いである。放置するのも目覚めが悪いので、調べものをしながらに文の一文一文を読み解いていく。これこそが、神獣、朱雀から蘆屋道満へと届く文の確認法であった。このような日の気紛れにはそのような文を読み解き朱雀との御約束通り日を過ごす以外に他はない。安倍晴明は初夏始まりから陰陽師としての名を名乗り精進している様子であった。道満はそれをみすみす見過ごす気もないものの、休息も修行の内であると心得ていた。晴明に飼われているはずの四神の一神である朱雀は極力己を呼ぶコト不成。と晴明を諭している場面を何度か目撃した為、晴明の手にいる四神は現用事に限り、三神であるコトを理解していた。気の短い道満にはこのような所業はあまり向いてはいない。半分は矜持の意を介して行動に移しているようなものである。文を読み解くにつれ、筆を動かし、読み解けた部位を示してゆくと、段々と見えてくるものがあった。それは分かりすらすれば極めて容易な文。道満は筆を文机へ置き、ほほん。と喉を鳴らした。
以下、朱雀、蘆屋道満への結び文。
「神獣朱雀、慎みて蘆屋道満に白す。薫る風吹き抜けふる新緑の候、如何御過ごしでしょふか。大殿思ふと若葉揺れ動き森林思わせり、風にて悪戯に吹かせ笑ひまする御姿容易に見まほしふ、堪へ難きに恋故、紛らわせたく存ずる。酉の刻、見慣れたる通ひどころにて御待ち致する。謹みて白す。具ならず。」
詰まりどころ、逢瀬のお誘いである。
道満は、朱雀からの文を読み解く為、筆を走らせたその紙をくしゃりと握り締め、そそと逢瀬への準備を今直ぐにでも始めようとしていた。酉の刻。翌日の午後五時、七時の一辰刻のコトである。
終。
コメント
1件
ああっ、すごく雅で美しい文体…!✨ 最初は文語調にちょっと戸惑ったけど、読み進めるうちに古文みたいな趣きがあって、逆に新鮮だったよ〜!道満が朱雀からの文を一字一句読み解くシーン、ほんとに集中してる感じが伝わってきた。最後に「逢瀬のお誘い」って分かった瞬間の、道満がすぐ準備始めるところ、思わず微笑んじゃった😊 ツンデレなのかな?笑 続きが気になる〜!