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「おはよ〜、潔〜!!聞いてよ、昨日ね…」
「ごめん、疲れてんだ。後でいいか?」
「え、あ、うん。寝不足??」
食堂に黒名と並んで入ると先に来ていた蜂楽が駆け寄ってきた。
「まぁそんなとこ。昨日変な夢見た気がして」
「大丈夫か?今日が糸師冴との練習の日だぞ」
「潔とチーム離れちゃったのは悲しいけど俺頑張るからまた合流しよ!!」
蜂楽は俺の目を嘘偽りのない眼差しで見てくる。
いつもならこの明るさに助けられていたのかもしれない。
でも今は痛くて仕方がなかった。
「それじゃあまた後でね!」
「あぁ、また。」
冷たく蜂楽に背中を向けて行く。
蜂楽の反応が気になるも振り向けなかった。
黒名が慌てて後ろを追いかけてきた。
「潔、様子が変だぞ。蜂楽と何があった?」
「別に。何もない。」
「あるだろ。話せとは言わないけど練習に私情を持ち込むなよ。」
「分かってる。」
黒名の言葉さえも張り切ってトレーの上に朝ご飯を並べていった。
このトレーの重みをしっかりと感じているのは罪悪感と後悔に苛まれているからだ。
「では第一グループは指定された部屋まで進め。」
絵心の言葉に第一グループの6人が立ち上がった。
蜂楽、千切、國神、烏、乙夜、雪宮の6人だ。
(雪宮はあの2人と組んでたのか…トップ6のメンバーだし強さを基準にするなら雪宮が選んでもおかしくない2人だ。)
「潔、俺たちのグループまで後2時間くらいある。練習、するか?」
「…する。 」
「それで凛君と蜂楽くんが2人で残ってサッカーをしてたのを見てもーたってことやな。」
「だから蜂楽にそっけなかったのか。」
「ガキっぽいのは分かってるけど苦しかったんだよ。腹が立って仕方なかった。」
氷織から送られたボールの中心を思いっきり蹴ってシュートが決まった。
「うん、コースはいいわ。けどその怒りのせいで力が余分に入っとる。休憩にしようや。」
氷織が俺と黒名を交互に見てそう微笑んだ。
黒名は黙って頷いてベンチに置いてあるスポーツドリンクの容器を手に取った。
「潔くんが凛くんを気にかけとったのはライバルってだけやなかったんやね。」
「…あぁ。正直自分の気持ちが分からなくなってる。何考えてるか分かんねぇし。」
黒名の方を向くとベンチに座り靴紐を結び直していた。
氷織は落ち着く声で言葉を吐いた。
「告白ってゴールを定めるから辛いんや。小さいゴールを決めるだけでも変わるんちゃう?」
「小さいゴール…?」
氷織は俺に対して頷いた。
「ただ話すってことを目標にするとするで。達成できたら次の目標。好きな人を聞く…みたいな小さいのでいいと思うけどな。」
氷織の目はどこを見ているのか分からない。
澄んだ瞳が思い浮かべるのは誰なのか、何故氷織が俺に協力するのか。
正直それさえも分からなかった。
「僕自身もサッカーには本気で向き合いたい。潔くんの力が必要なんや。」
「…そうだよな。私情なんかで夢終わらせたくはねぇし。ごめん、氷織。」
「頑張って、もうここにおられるのも長くはないんやから。」
氷織の言葉を重く受け止めた。
ブルーロックがいつまでも活動する保証はない。
U20日本代表戦でブルーロックは勝ったものの、世界に届くまでそう遠くはないのだ。
高校生活の半分を削られたこのブルーロックで凛と出会えた事自体凄いことなんだ。
(蜂楽に謝ろ…流石に冷たすぎたかな。)
「あ、潔くん。あと30分後くらいには練習始まるから準備しててね。」
トレーニングルームから出ると帝襟アンリさんと鉢合わせした。
「了解です。今日の特別練習、糸師冴から希望した理由とかって聞いてますか…??」
「ごめんね、教えてあげたいんだけどわからないんだよね。それに内部の情報は選手には提示できないの。」
「ですよね、ごめんなさい、無理言って!」
アンリさんは軽く頭を下げると急ぐようにして駆け足で行ってしまった。
糸師冴がこの練習を希望するメリットはなんだろうか。何か目的があるのか?
凛を見にきた…いや、それなら個人の単体だけでいくらでも見れるだろう。
凛…大丈夫かな。
(…って何もう許してんだよッ!ほんとこの単純な性格直したいってんのに。)
あれから凛とは話せてない。
蜂楽にも謝る機会はもう少し先になりそうだ。
5分後くらいに黒名、氷織と合流すると待機場所の部屋へと戻った。
「主役が集まったな。それじゃあ第二グループ…と言いたいところだが一部棄権者が出た為変更する。」
モニターに映る絵心は何かを見ながら第二グループのメンバーを読み始めた。
俺、黒名、氷織…そして。
「糸師凛、蟻生十兵衛、時光青志。以上6名を第二グループと変更する。指定された部屋へと進め。」
立ち上がると同時に凛と目が合った。
久しぶりに見た澄んだ瞳に吸い込まれそうだ。
動揺を隠さずおろおろとしていると凛は目を逸らしてしまった。
「…潔くん、これをチャンスと思うかは潔くん次第やと思うで。たださっきも言った通り時間がない。このプロジェクトも終われば位置的に遠距離になるのは確定やろうし。」
「だな。糸師凛の性格からして攻略が難しい上にその後の扱いも慣れるのに時間がいる。」
黒名と氷織が俺を挟むようにして耳元でそう言ってきた。
分かってはいたもののいつかは凪達のいうように”告白”をしなければ始まらない。
歩き出した凛の背中に追いつくように俺も足を前に出した。
「凛、」
凛がゆっくりと振り返る。
「…頑張ろう。一緒に。」
凛に手を差し伸べると驚いたような顔になる。
俺の手は受け取らなかったが代わりに俺の肩を強く前に押し出した。
「うっせぇよ、自分の心配でもしてろ。」
さっきまで真剣な悩むような顔つきだった凛がいつのまにかいつもと同じように戻った。
あれを押す力も弱い。
凛なりに何か変わるきっかけができたのかもしれない。
そのきっかけに俺が関係しているのかも…なんて夢を見てしまうのを2人は許してくれるだろうか。