あれから5日が過ぎた。
地下秘密基地では充実した環境が整い、俺とシロ以外は下の個室へ移り生活をはじめている。
スマホのレピーター・テレビアンテナ・Wi-Fi・100Vコンセントなどといった諸々の配線工事は終了済。
テレビや洗濯機、扇風機といった家電製品に加え、パソコンも追加で2台、予定どおりに購入してきた。
(ビールもストック済ですよ。ぷっは~♪)
これらとは別なのだが、マリアベルがどうしてもスマホが欲しいと言っている。
まあ、当然だわな。
家族と連絡をとるのに自分のスマホは絶対に必要だろう。
メアリーの方はスマホと言われても、なにそれ??? な感じだったのだが。
これにフウガが喰いついた。
「これからの諜報活動には是非とも必要なものです。自分とキロの分で2台お願いしたいのですが……」と言ってきたのだ。
これはまあ確かに、情報収集にはパソコンと並んで欠かせないものだよね。
そこで俺は茂 (しげる) さんと交渉し、3台のスマホを借り受けることができた。
スマホの機種代金と使用通話料は当然こちらが支払うようにしている。
それにしてもだ……、相変わらず、他の金銭は一切受け取ってもらえない。
唯一負担してるものといえば、お米のみである。
ご飯はみんなこちらで頂いてるし、お茶を頂くにしても大人数なので気が引けてしまうのだ。
茂さんの家に負担をかけていることは明らかなので、請求書を回してもらえれば本当に助かるのだが。
ほとほと困ってしまってマリアベルに相談したところ、
「じゃあ、お賽銭にでもしたら~」であった。
うん、まあ、それでもいいか。
純金の米粒をパラパラとぽち袋に入れて、賽銭箱に放るようにした。(一粒0.4g)
そのことに賽銭を回収していた紗月 (さつき) が気づき、
「かわいい!」とか言って金の米粒をキャンディーの空き瓶に入れて集めているようだ。
これでなんとか一安心というところかな。
まぁ考えてみれば、
茂さんの方からしてみても、心苦しいものがあったかもしれない。
茂さんが使う偃月刀をはじめ、紗月の短槍・クナイ・各種ポーション・マジックバッグ・その他、ダンジョン探索に必要な装備品はほとんどこちらが提供している状態だからね。
その辺の線引きは曖昧な部分が多いので、今後ともコミュニケーションはしっかり取っていきたいと思っている。
それはそうと、茂さん。今のステータスがこちら、
シゲル・シンリョウジ Lv.3
年齢 43
状態 通常
HP 38⁄38
MP 11⁄11
筋力 16
防御 11
魔防 12
敏捷 13
器用 17
知力 11
【スキル】 魔法適性(聖・土) 魔力操作(1)
【称号】 神官、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
うん、順調に伸びております。苦しい時期もようやく乗り越えたみたいだね。
体力も底上げされてきて、だんだん顔色も良くなってきたみたいだ。
今は朝ダンジョンに加え、夕食後もちょこちょこダンジョンに潜るようになった。
オーバーワークじゃないかと心配しているのだが、本人たっての希望なので、今は見守ることにしている。
(ダンジョン探索が面白くなってきたんだろうね)
周りのに居る子たちに触発されたのかもしれない。
メアリーや紗月の戦いぶりを見てしまうと……、どうしてもね。
『レベルの違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる!』
どこかで聞いたようなセリフを呟いてたなぁ。
あまり無茶しないで地道にレベルアップしてほしいところだ。
パソコンといえば……、
「ゲンパパ、デビルマンかっこいいねぇ。今度【デビルビーム】教えてね!」
「…………」
パソコンを増やした弊害が出てきてしまったようだな。メアリーの場合、嫌味じゃなく本気で言ってるからこわい。
なーんかマリアベルと楽しそうにパソコン見てると思ったんだよね~。
適当にぶっこんでいたメアリーへの知識が暴露されようとしている。(汗)
そういえば、昨日ダンジョンで、ゴブリン相手にチョップしていたし。
あれ絶対デビルチョップだよな。
(正直に話さなければならない時が来たのかもしれない)
今度ツタヤに連れていって、DVDを借りてやろう。
まだあるのかな~? デビルマン。
………………
困ったことといえば……、
フウガがパソコンにハマってしまったことか。
理由はお察しだろうが、エッチな画面が開きっぱなしになってオタオタしている姿が意外に新鮮だった。
なにを検索していたのやら。(笑)
――フウガ31歳男でござる。
しかし、それだけでは終わらなかったのだ。
数日前のことだったか。
配線工事を終えた俺は、地下秘密基地のリビングでパソコンやスマホ、テレビなどの動作チェックをおこなっていた。
すると開けたままのリビングの入口から、
「ご主人。入ってもいいか?」
フウガである。
俺はソファー越しに後ろを振り向きながら、
「フウガか。何かあったのか?」
そう言って先を促すと、
「買ってほしい物があるんだ。こちらの金で10万円程かかるのだが用立ててはくれまいか」
「それで何が欲しいんだ?」
するとフウガは一枚のコピー用紙を俺に見せてきた。
んんっ、なんだ?
餅の絵でも描いてもってきたのかと思っていたが、とんでもなかった。
一番上には『稟議書』と書かれた日本語の文字が……。何故に?
日本のパソコンなので、向こう (クルーガー王国) の文字は対応していないからである。
それで稟議書を読み進めていくと、
使用者は○○○、場所は○○○、何の為に○○○、これらで得られる情報や利益などが、こと細かく書かれていた。
そして、購入する物品名・数量・価格・購入先などが表図になってまとめられている。
備考欄には、その物品の平均価格までが記載されてあるのだ。
「う~~~ん」
俺は唸ってしまった。この稟議書の出来栄えにだ。
ワープロ機能を覚えるだけでも1週間や10日では無理だろう。
それをパソコンを触りだして3日だぞ。
普通ありえんやろ!
でも、ちゃんと出来ているのだ。
購入する物品と使用目的も、よく練られているようだし。
――完璧だ。
もしかして、俺はフウガにとんでもないモノを与えてしまったのかもしれない。
それはまあいい。
しかし、スパイカメラや盗聴器なんかをどこで見つけてきたんだ?
無線機も海外仕様のやつだよな。
通販などで売っている海外向けの無線機は出力規制がないため、よく飛ぶのだ。(日本国内での使用はできません)
――わかってるじゃないか。
そんな訳で自由に使えと30万円渡してやった。
自由といってもお小遣いではないので、何に使ったかは報告書を上げてもらうようにしたが。
ただし、武器は買うなと言っておいた。
各種ナイフ・ボウガン・スタンガン他、ついつい買ってしまいそうになるが、これらのものは結構シビアに管理されており、足がつきやすいのだ。
この手のモノは、ダンジョン・カンゾーと共同開発していこうじゃないか。
スタンガンなんて、魔石で動く【魔道具】にしたら最高じゃね。
そのための資料や専門書籍はこちらで十分揃うのだから。
フウガも『影の軍団』の幹部である。諜報活動においては余念がない。
情報収集にパソコンやスマホの他、デジカメ・ドローン・無線機などを使い始めたのだ。
これからの諜報活動を、どのように発展させていくのか楽しみである。
そしてここで、フウガより重要な情報がもたらされた。
その情報とは、
『暗号が暗号になっていない』
暗号が暗号???
初めは何を言ってるのかさっぱり分からなかったが、話を聞いていくうちに恐ろしいことがわかってきた。
つまり、”シルバーイヤリング:多用途言語翻訳” を使用すると、暗号文までがしっかりと翻訳されてしまい、暗号自体が意味をなさなくなるということだ。
――なんじゃそりゃ!(汗)
それにだ、パスワードが必要なサイトやサーバーにアクセスする際、『パスワード入力』と念じるだけでパスワードが頭に浮かんでくるらしいのだ。
まあ、これにより何でもハッキングし放題となったわけだが、中には不正アクセス元を追跡するようなプログラムも存在するので、十分注意して事に当たらなくてはならないそうだ。
その追跡プログラムについても、ハッキング行為と並行して研究を進めているのだとか。
う~ん、フウガはいったい何処へ向かおうとしているのか?
そして、本日午後2時過ぎ。
いよいよ待望の幹部自衛官が、こちらに見えられたのだ。
玄関にて出迎えた俺たちに、軽く敬礼をして敷居をまたいでくる幹部自衛官のお二人。
「春日駐屯地から参りました。第4師団司令部、3等陸佐の荒木です」
「同じく、春日駐屯地から参りました。第4偵察戦闘大隊所属、1等陸尉の吉田です」
二人は帽子を取りながら挨拶してくれた。
「春日駐屯地の荒木さん、そして吉田さんですね。私はこの神社の宮司で真領路 (しんりょうじ) 茂 (しげる) と申します」
「私はゲン ツーハイムと申します。このようなナリですが日本語で話してもらって構いません。研究者をやっています」
茂さんの案内で居間にお通しすると、紗月がみんなにお茶を出してくれる。
「まずはお礼を言わせてください。あなた方から頂いたメモは住民の避難や誘導に大変役だったと聞いています。本当にありがとう」
「いえいえ、日本の国民として当然のことをしたまでです。お役に立てたのならこちらも嬉しい限りです」
茂さんがそのように返す。
「それでなんですが、この間は地方協○本部の鈴木と佐藤がこちらにお伺いしたと聞いております。宜しければ、我々にもその辺の事情を詳しくお教え願えませんでしょうか」
俺は深く頷くと、二人を前に話しはじめた。
「なかなか信じがたい話になりますが、どうぞ最後までお聞きください」
8月12日 (水曜日)
次の満月は8月28日
ダンジョン覚醒まで25日・85日
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