思いもよらない展開にびっくりし過ぎた私が二人を交互に見つめてみると、
「何?」
「何だよ?」
二人から同じタイミングで問い掛けられた。
「あ、ごめんね。何ていうか、びっくりしちゃって……」
まさか二人に和解する機会が訪れるなんて思わなかった。
まあ、喧嘩していた訳では無いから『和解』という表現もおかしいのかもしれないけど、嬉しかった。
大切な二人の間にあった蟠りみたいなものが解消されたのだから。
「だってさ、葉月と一緒に住んでる以上、小谷と関わる機会もあるだろうし、話を聞いてイメージもだいぶ変わったからさぁ、やっぱり謝っておきたいなって思ったのよ」
「そっか」
「それはそうと、ストーカーの件よ! 小谷、葉月から聞いたわ。それが理由で一緒に住んでるって」
「ああ、うん」
「私としては警察に相談すべきだと思うけど、やっぱり警察に相談しても無意味なの?」
「まあ、俺もそれは考えたけど、されたのは嫌がらせの類と尾行くらいだから、その程度じゃ相談したところで『気を付けろ』とか『パトロールを強化する』とか言われて終わりなんじゃねーかと思う」
「そうなのかな……ねえ葉月、本当に心当たり無いの?」
「無いよ……。あったら警戒してるし……」
「小谷、アンタは? 葉月の事迎えに行ったりもしてるんでしょ? 葉月のバイト先で怪しい男見掛けたとかさぁ」
「見掛けたらとっくに警戒してる」
「……まあ、そうよね。やっぱり客のだれかなのかしらね」
「うーん、それっぽい人なんていないんだけどね……」
未だに姿の分からないストーカー相手。
居酒屋を辞めても嫌がらせは無くならなかったから、居酒屋に訪れたお客さんじゃ無かった事は確かだろう。
ファミレスも私が休みだしてからは嫌がらせが無くなったと店長から報告を受けたし、付け狙われる事もピタリと無くなった。
そうなると、残ったのは今働いている本屋だけだけど、ここは大学入学少し前から働かせてもらっているし、お客さんにもおかしな人なんて見当たらないと思う。
だけどそれは私が気付いていないだけなのだろうか。
そんな中、小谷くんが少し言いづらそうに口を開く。
「……これは言おうか迷ったけど、一人怪しい男を知ってる」と。
「え!?」
「はぁ? 誰なのよ、そいつは!」
小谷くんの言葉に驚く私と、それに食って掛かる杏子。
怪しい男がいるなんて聞いてない。
それなら何故もっと早くに教えてくれなかったのか。
「誰なの? その怪しい男って」
小さく深呼吸をした私がそう尋ねると、
「……あれだよ、この前祭りの夜に会った……同じ職場の男」
「……え?」
小谷くんは怪しい男が同じ職場の男である事を告げた。
お祭りの日に会った同じ職場の男の人と言えば、思い当たるのはただ一人。
「……もしかして、関根さんの事?」
「そう」
「どうして? 関根さんがそんな事する訳ないよ」
「お前、この前もアイツの事庇ったよな? お前に気があるんじゃねーかって俺が言った時も」
「いや、確かに言ったけど……それは別に庇うとかそういう事じゃ……」
「ちょっとちょっと、誰なのよ、その関根ってのは!」
私と小谷くんが口々に言う中、話の見えない杏子が割って入って来る。
「あ、関根さんって言うのは職場の先輩なの。入った当時から優しく教えてくれて、良い人なんだよ。そんな人が、あんな事する訳ないよ……」
関根さんを庇うつもりはないけれど、あの人は本当に優しくて、困った時はいつでも親身になってくれる、社員の中では一番頼れる存在の人。
小谷くんに関根さんは私に気があると言われた時は驚いたけれど、正直それだけで怪しいと決めつけるような事はして欲しく無い。
「それで、小谷はどうしてその関根が怪しいって思う訳?」
中立な立場にある杏子が今度は小谷くんに質問を投げ掛けると、
「……まず一にアイツは由井に気があって俺に敵意を向けて来た事、それから……これは確かじゃないけど、前のアパート周辺で何度かアイツに似た男を見掛けた事があったのを思い出した事、それと、職場の上司なら住所も調べられるだろうし、シフトも全て把握出来るから、色々と都合が良いんじゃないかって思ったからだよ」
関根さんが怪しいと思う根拠を挙げたのだ。
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