テラーノベル
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通りかかったペットショップ。そこで見つけた綺麗な猫に気付けば ぼくの目は奪われていた。
彼とよく似たその猫は「にゃあ」と思っていた通りの綺麗な声で鳴く。嗚呼、何時ぞやの彼も猫の真似をして「にゃあ」と鳴いていたな、と少し思い出す。だが実際の猫の鳴き声を聞くと全く似ていない、彼は存外鳴き真似が下手らしいとクスクスと笑ってしまう。
「ぼくに、飼われたいですか?」猫を見つめて聞けば また「にゃあ」と鳴いた、ぼくの言葉が分かるのだろうか?不思議なものだとその後もしばらく猫を見ていれば、先程までソワソワとぼくと猫を見ていた店員に「綺麗な猫ちゃんですよね!」と声を掛けられた。
雨の降っている今日は他に客もいないようで、ぼくが声を掛けられるのは必然なのだろう。
「ええ、そうですね」
「猫を飼われたことは?」
「ありませんね、鳥ならいますが」
「ええ、勿体ない!
ペットがいると仕事終わりの疲れが
ドッと吹っ飛びますよ!」
それからも必死に押されに押されて結局ぼくはその猫を飼うことにした。彼とよく似た猫を見かけた時点でぼくの中でも決まっていたのかもしれない。そして猫の名前を「オサム」にした。
─「オサム。ほら、ご飯ですよ」
お気に入りのフードを器に入れてあげれば上品に食べ始める。
共に暮らし始めてからというもの利口な猫に苦労する事はなかったと思う。ご飯を零すこともなく、トイレに失敗することもなく、変に虫を捕まえてくることも、ただ一つ困った事と言えば、よく犬に喧嘩を売ることだけだろう。そんなところも彼とよく似ていた…
──しばらくして、どれほど猫を見つめていただろうか?ぼくからの視線に気付いたらしいオサムは首を傾げて不思議そうな視線を返していた。
ハッとしたようなぼくの顔を見て何を思ったのか、ぺろり ぺろり と少しざらざらとする舌で顔を舐めてきた。少し擽ったいな。
「んふふ、君は本当に可愛らしいですね。
ご心配をお掛けしてすみません」
まだ舐めようとしてくる猫を抱き上げ、頭上へ掲げてからゆっくりとぼくの隣に下ろす。手に顔を擦り寄せて来るオサムからは甘えたようにゴロゴロと喉を鳴らしているのが聞こえる
『にゃあ』
猫の鳴き声と彼の鳴き真似が重なって聞こえた気がした。嗚呼…君が彼なら良かったのに。
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