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レイナ
80
#夏コラ
夢語りの浮浪者
123
フィオレ
105
誰もいない教室の窓辺に、一人腰を掛ける少女。カーテンが揺れ、暖かい風が頬を撫でる。
ショートの髪が風で揺れるのを、耳にかけて阻止した。
どこも授業中のため、静かだ。
鼻歌を歌いながらも、目はうつろだった。
スカートのポケットから、カッターナイフを取り出した。
長さを出すと、所々赤黒い染みがついている。
「新しいナイフ買わなきゃな」
そう言うと、左腕をひっくり返した。
そこには、古傷と新しい傷が交互についていた。
親指で傷口をグッと抑え込むと、血がじわっとにじむ。
ずきっと痛みが走ったが、同時に気持ちも和らいだ。
「足りない」
少女は太陽に向けて腕を伸ばし、手慣れた手つきでカッターナイフを手首に抑え
スッと手前に引いた。
ぽたっぽたっ。
白いカッターシャツに赤い染みがついてしまった。
垂れてくる血を口で塞ぐ。
まだ心がざわざわしている。
口に含んだ手首を、おもいっきり噛んだ。
鉄の味が口中に広がる。
痛くて顔を歪める少女だったが、何とも言えない爽快感に口元が緩んだ。
「何してるの?」
その声に驚いて振り返ると、春の制服をビシッと着込んだロングヘアの同級生だった。
口から血を流しながら「えっと・・・誰だっけ?」
この問いに、同級生は目をカット開き、怒ったように近づいてきた。
「渡辺夏。広江モモさんが、トイレから戻ってこないから、先生に見て来いって言われたの」
鼻息荒く説明してくれた。
その姿がちょっと面白くて、顔をそむけ、わからないように笑った。
また夏の顔がムッとした。
が、顔をそむけ笑うモモの左手首から血が滴っているのを見て、すぐに目を細めた。
急に左手をグイッとつかまれ、モモは驚く。
見つめあう二人。
しかし、夏だけは怒っている。
どうしてこんな顔をしているのか、モモには理解できなかった。
夏は何かを言いたそうに口を開いたが閉じてしまった。
沈黙が流れる中、暖かい風は相変わらず体をさするように優しくふいている。
ぽたっぽたっ。
ずっと夏に腕をつかまれているため、血がよく流れる。
「そろそろ、離してもらってもいいかな?」
この言葉にようやく夏が「なんで自分を傷つけるような事をするの?」と問うてきた。
モモは少し力強く腕を引っ張って、夏の手を振り払った。
血が夏の手のひらについたが、そんな事知ったことではない。
また気持ちがもやもやする。
反射的に、手首の傷を開かせようと、もう片手で抉っていた。
足りない。こんな痛みじゃ、まだ足りない。
頭がおかしくなっちゃう。
ついには、手首に噛みつき顎にめいいっぱい力を入れた。
肉に食い込んでくるのがわかる。
そうすると、少しづつ体中の力も、頭のモヤモヤも、気持ちのモヤモヤも落ち着いてきた。
快楽に身を浸していると、夏の引いた視線がささった。
ネチャッと口元を外すと、手首にくっきり歯形が残っている。
歯が皮膚に突き刺さっていたせいか、さきほどよりも血がしたたり落ちていた。
ふぅと息をはく。
すっかり自分の世界に入っているモモに、夏は理解できない状況に頭を悩ましていたが、手首が異常ではないぐらいの血が流れているのを見て、ようやく体が動いた。
スカートのポケットからハンカチを取り出し、モモの手首にあてた。
ピンクのハンカチはあっという間に血に染まってしまった。
「早く保健室に行かないと」
焦る姿に、モモは可笑しくて仕方がなかった。
「こんな傷、いつもの事だから大丈夫だって」
「こんな事をする為に、授業を抜け出したの?」
「こんな事かぁ」
必死に血を止めようとする夏の頭を冷ややかに見つめた。
「薬と一緒だよ。どうしょもない時は、こうして抑えているだけ。まぁ、渡辺さんに言ってもわからないか」
皮肉たっぷりな言葉を浴びせたが、夏はまったく気にしていないようだった。
「どうしょもない時は、カラオケとかゲームセンター、買い物とか行けばすっきりするんだよ。こうやって自分を傷つけるのは間違ってる。」
ハンカチが搾れるぐらい血を吸ってしまっている。
モモは笑いもせず、違う生物を見るかのように黙って夏をみおろす。
「もし、行く相手がいないなら、私がついて行くから。だから、もうこんな事はやめて。こんな事、弱い人間がすることだよ」
そう、弱い人間。
そんな事、貴方に言われなくてもわかっている。
ニコッと見上げたほほ笑みに、モモは奥歯を噛みしめ笑い返した。
「渡辺さんは、優しくて残酷な人だね」
「残酷?」
眉間にしわを寄せる夏に、「そう、残酷。だけど優しい」と言って、目にかかっている前髪を優しく撫でてあげた。
腑に落ちない夏ではあったが、「血が止まらないから、保健室行こうかな」
モモがそう言うので、何だかモヤモヤする気持ちを押し込め「私もついて行く」そう言って後をついて行った。
コメント
2件

暖かいコメントありがとうございます😊頑張って、続き書きます🔥
うわあ……この第1話、引き込まれました。モモの自己破壊的な行為にゾッとしつつ、その背後にある「どうしょもなさ」が痛いほど伝わってきました。夏が自分の正しさを押し付けるでもなく、ただ「ついて行く」と決めたラストが、静かな希望のように見えて、泣けそうです。続き、早く読みたいです。