コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
東京都立呪術高等専門学校。私、刻扇 霧弦(ときおうぎ きりつる)はそこで一年生の副担任を務めさせてもらっている。
呪術師の家なら珍しくもない、男女差別も甚だしいクソみたいな実家を飛び出して、フリーの術師でぷらぷらやってた私が何故、前途有望な少年少女を教え、導く立場に立ってしまっているのか。
経緯は良く分からんが、そろそろ高専の教師が死ぬほど足らんから、ある程度の術師を見つけて即雇え、という理由に基づいていきなりスカウトされたのだ。
色々厄介と噂の高専だが、こっちだってそれ相応のメリットを感じたからその場で即座にその話を受けた。
理由は、ほんの少しでも安定した生活を送りたかったから。ただそれだけ。
不安定な人生が嫌なら呪術師なんて辞めちまえ、と散々言われたものだが、別に好きでこんなことやってるわけじゃない。
クソ親父譲りなそこそこの呪力量と頑丈な身体。あとはまァ……呪力コントロールの要領が上手かったってくらいか。
要は、才能だけはあった……というよりも、これくらいしか才能なかったって話だ。
もし料理の才なんかがあれば、呪術から全力で離れて定食屋でもやってるさ。
閑話休題
そんなわけで、いつ依頼が入ってくるか分からんフリーの術師を続けるよりも、任務を斡旋してくれる高専に居た方がまだマシなのだ。
別に教師の才能は持ち合わせちゃいないので、私程度が何を教えれるんだって気持ちはあるが……まァ、曲がりなりにも一級術師。
若い彼らが少しでも死なないための力を育てられたら良いなと思う。
……さて、と。
そう自分を見つめ直したところで現実に帰る。この、始業時間にがっつり寝坊したこの現実に。
「……やべーな、これ。私、五条さんにブチのめされないかな……」
ふと、独り言にしていて自分でゾッとするような言葉を呟いてしまう。
五条 悟にブチのめされる。ま〜平たく言えば死ぬって事なんだが……。流石に同僚への情があることくらいは信じたい。
「いや〜、されそうだ……あの人、自分はちょくちょく遅刻するくせに人に遅刻にうるさいもんなァ……」
自分の置かれた絶望的な状況に頭を抱えつつ、ひとまず布団から起き上がって洗面台へと向かう。
顔洗って、歯ァ磨いて……朝食食べてる時間は無いな。スマホ、充電器、財布に鍵と、必要なものだけカバンに放り込み、超駆け足で玄関へと走る。
そして、心底憂鬱な気分で扉を開け放ちながら、覚悟の意味も込めてこう言った。
「いってきまぁす……」
私史上、最悪の朝の始まりである。