テラーノベル
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感情が、色で可視化されるようになった 。
そんな異能にかかった当初は、それはそれは混乱した 。
殺傷性が無ければ、害が無い訳でも無い 。
便利とは云えず、不便とも云えない 。
「 なんだか、面倒くさいことになったな…… 」
様々な色の霧のような物が漂う人達を見ながら、ため息を吐く 。
本当に、感情が色で可視化されているらしい 。
太宰さんが居るから、こんな異能は直ぐにでも消滅することができるだろう 。
しかし、普段見えない感情が「見える」という新鮮さから、そうするのも勿体ないと思った 。
どうせ、いずれ消える 。
何かあれば、その時に太宰さんを頼ればいい 。
そう決めた僕は、
先ずは、何色がどの感情を表すのかを理解することに重心を置くことにした 。
【 さっさと仕事をしろ太宰!! 】
〈 矢駄なぁ、国木田君。あんまり怒ると、其の内、痔にかかるよ? 〉
【 同じ罠に引っかかると思うな此の唐変木 】
「 …… 」
怒りは、赤色 。
国木田さんの周りには、赤色の霧が漂っていた 。
探偵社の人達をこっそり観察していると、其の色……もとい、感情は、多種多様で 。
黄色は、楽しさ
緑色は、退屈
青色は、悲しみ ………
おかげで、虹に含まれる色くらいは覚えた 。
「( へぇ…橙色とか、水色もあるんだ…! )」
行き交う人々を横目で見ながら、横浜の街を歩く 。
てっきり七色くらいかと思っていたが、其れは大きな間違いだったらしく、何十種類もの色が街を満たしている 。
感情が色で可視化される異能にかかってから、早二日 。
色んな色が視界に映る此の環境にすっかり慣れた僕は、積極的に新しい色を探しに行くようにしていた 。
その中に、ひとつ
見慣れた黒い影が………
「 ……げ 」
ほぼ反射的に出た声に、目の前の男は更に眉間の皺を深くする 。
『 ため息を吐きたいのは此方の方だ。何故、休暇の時にも貴様に会わなければならない 』
「 否、其れはこっちの台詞だから! 」
目が合えば恨み言を吐き、一度手を出せば半殺しまでやり合う此奴……芥川は、休暇中だったらしく、珍しく私服を着ていた 。
否、そんなに厭がるなら、無視して通り過ぎればいいだろ 。
心の中で悪態を吐きつつ、口を開こうとすると
「( …あれ…? )」
______桃色
芥川の周りに漂う、霧の色 。
其れは、彼奴のイメージとは正反対の、桃色だった 。
『 ……先程から何故僕の顔を見ている。減るから止めろ 』
「 減らねーよ! 」
「 お前、ほんっと口を開けば愚痴だよな!! 」
『 其れ以外の言葉等、貴様相手に出てくると思った自分を恨め 』
「 はぁ…… 」
何度愚痴を云っても、芥川の周りを漂う霧の色は変わらず、ゆらゆらと揺れていた 。
桃色は、今まで見た事がない色だったから、何を表すのかは判らない 。
でも、此奴の僕に対する態度を考えれば、「嫌い」か「殺したい」の二択だろう 。
「 ……お、お前、さぁ……何か善い事でもあった……? 」
『 急に何だ。休暇中に貴様に会っている時点で善い事など無い 』
「 否、其れを抜きにして!ほら、何か、さ…… 」
でも、桃色に「嫌い」という否定的なイメージはあまり無かった 。
もしかしたら、僕に会ってもダメージを受けない位の、凄く善い事があったのかもしれない 。
……其れは無いか 。
『 ……貴様……遂に頭が狂ったか…… 』
「 だから!!口を開けば愚痴なの止めろよ!! 」
うん、矢っ張り有り得ないな 。
「( 桃色……桃色、かぁ…… )」
報告書を書きながら、あーだこーだと思考を巡らす 。
桃色は王道な色の筈なのだが、今まで一度も其の色を見た事が無かった 。
考えれば考える程、どんどん判らなくなっていく気がする 。
【 ……敦さん?如何かされました? 】
「 え?あ、あれ、ナオミちゃん?急に如何したの? 」
【 先程から、パソコンに意味が判らない文字を打っているものですから…何か悩んでいる事でもあるのかと思いまして 】
え?と思ってパソコンを見やると、見事に文書は意味が判らない文字の羅列で埋め尽くされていた 。
僕、そんなに深く考えてたのか……と自分で自分に驚く 。
「 あ、嗚呼、否……そんなに大した事じゃないんだけど、一寸考え事をしてて…… 」
【 考え事…… 】
ナオミちゃんなら、善いヒントをくれるかも?
という淡い期待を抱いて、勇気を出して口を開く 。
「 ナオミちゃんは、” 桃色 “ に対して、どんなイメージを持ってる? 」
【 桃色…? 】
「 ほ、ほら、色で感情を表す事ってあるでしょ?一寸気になっててさ 」
【 成程……ふふ、桃色でしたら、簡単ですわ! 】
「 え? 」
【 桃色は、「好き」という恋愛的な感情を意味していると思いますわ 】
「 ……へ? 」
思わず、素っ頓狂な声が出た 。
僕の耳が正しかったなら、「好き」と訊こえた筈だ 。
【 あら、敦さんにはイメージが湧かないかしら? 】
【 恋愛漫画や遊戯の表紙には、桃色が高確率で使われているでしょう? 】
「 あ…た、たし、かに……? 」
ひとまず肯定はするが、僕の心臓は未だに落ち着かない 。
もし、其れが正解なら、
芥川が、僕に抱く感情は_____
「( ……いやいやいや!!ないない…… )」
思い切り顔を横に振って、邪な思考を蹴散らす 。
会えば愚痴を吐く奴が?殺してくる奴が?
僕に?
考えれば考える程、無駄な事は判っているのに、顔はなんだか熱い 。
【 うふふ、お役に立てたようならなによりですわ 】
お礼すら云っていないのに、満足そうに笑ったナオミちゃんは、颯爽と其の場を去っていった 。
あれからまた二日 。
僕は、直感した 。
” 異能が解け始めている “
という事に 。
霧が段々とぼやけ、色が薄くなっているのだ 。
遂には、目をよく凝らさないと見えない迄に薄くなった 。
あれから、芥川には会えていない 。
それもまあ、仕方がない事だ 。
前に会った時も偶然だった訳だし 。
でも、確かめたい気持ちがあった 。
まだ確定はしていないし、唯の勘違いかもしれないけど 。
ナオミちゃんが云っていた事は本当なのか、
彼奴は、僕の事が_____
『 何をしている 』
「 ……! 」
今度は、向こうから話しかけてきた 。
神様の悪戯なのか、運命なのか、其れは判らない 。
僕は、後ろを振り返った 。
「 芥川…… 」
目を凝らす 。
矢っ張り、彼奴の霧の色は桃色 。
「 …お前から話しかけてくるなんて、何かあったのか? 」
『 貴様が血走った目で探し物をしていた故 』
…僕、そんな目してた?
過剰表現に若干の苛立ちを覚えつつも、直ぐに冷静になって問いかける 。
「 ……その、さ 」
『 何だ 』
「 ……… 」
「 ……お前、さぁ 」
「 僕の事______」
「 うわあっ!? 」
突然、雰囲気に似合わない電子音がポケットから鳴る 。
覚束無い手で取り出すと、「国木田さん」と書かれた一件の着信がきていた 。
「 なんでこのタイミング…!?あーもう…… 」
切る事も無視する事もできず、電話と芥川の顔を交互に見る 。
芥川も、遂に痺れを切らしたのか、
『 …続きは後で訊こう 』
『 僕は帰る 』
そう云って、くるりと背を向けた 。
否、お前から話しかけてきたんだからそこは待っとけよ!?
というツッコミは、なんとか堪える 。
待て、お前にまだ確かめてないんだ 。
もう少しだけ待ってくれ 。
そんな気持ちが先行した僕は、
ええい!もうどうにでもなれ!!精神で、芥川に向かって叫んだ 。
「 ……僕は!!お前の事が好きだから!! 」
「 変な桃色の霧出してるお前はさ!!僕の事好きなの!?!? 」
『 …………は? 』
………あれ?
【 やっと戻ったか。今まで何処に行っていたんだ 】
「 あー…えと…す、すみません……? 」
先程の出来事があまりにもショッキングすぎて、思わず疑問形で謝る 。
…先刻の僕、物凄く余計な事云ってなかった?
というか、思ってもいないような事を云ってなかった?
なんであんな事を云ったんだ?
〈 ……なんだか君”達”、面白い事になってるねぇ 〉
太宰さんは、何かを含んだ目で此方を見下ろしていた 。
……一体、何処迄察しているのだろうか 。
『 ………… 』
一人、残された路上 。
瞬きだけはしながら、躰が冷凍庫にでも入れられたかのように静止していた 。
彼奴の、逃げ台詞のように吐き捨てられた言葉の中に、
自分と同じ感情が混ざっていたのは、気の所為だったのだろうか 。
もし、気の所為でないとするならば、
『 ……実に重畳 』
少し熱い気がしなくもない、緩みそうな頬を抑え、
ぽつりと、そう呟いた 。
明日、どんな顔をして、彼奴に会おうか 。
コメント
5件
芥敦~!!! 物凄くストーリーも素敵ですし! 相変わらず 語彙力や表現力が豊富で 読んでいて とても その場の情景を脳内に浮かべる事ができました!!!桃色が【 好き 】という感情なのでしたら……矢張り 芥川さんは……😊 そして それを見透かしている太宰さんも素敵です! コメント失礼致しました!
え、芥敦初めてだっけ?! 解像度…高くね????😳 愉快な異能力だね😇💖 敦くんも楽しんでるの可愛い🫶🏻🌼 最後芥川くん視点になってて好き🙀💕💕 そして…最後のセリフは芥敦の気持ちどちらも示唆しているのかな…😇🩷 凄く良い…これからの展開が楽しみになる最後だった🎀
出したくて出したくて出したくて仕方なかった芥敦をようやく出すことができました!✨️ テラー初めて2年でやっと最推しカプを出すという前代未聞のことをやってしまいましたが、楽しんで頂けたでしょうか…😖 距離感が気まづい芥敦にキュンときた方は、ぜひぜひハート、コメント、宜しくお願いします!🙏💞