テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私には娘がいる。名を「花」という。
友人の紹介で出会った妻と二人で考え、考え抜いた結果この名前になった。
元気でいつまでも笑顔の花が咲き誇る子であってほしい、という願いから決めた。
生まれて暫くすると頬っぺたが餅のようにふっくらとして、くりくりした妻によく似た目になってきた。
ある程度大きくなると性格もはっきりしてきた。
家中をドタドタと走り回ったかと思えばソファででんぐり返しをし、次に相撲をしよう!なんて言ってくる。
だがしかし、外では少し人見知りをするようで、幼稚園の先生なんかには絶対に笑顔を見せない。
バスを降りて私を見つけたと思えば途端に笑顔になり駆け寄ってくる。
こんなことを言えば完全に親バカというやつになるのだが、それが大変可愛い。
私がそのことを花がすっかり寝ついた夜に妻に話すと、
「そうね。でも先生はね、花ちゃんがお友達と話しているときに近づくと途端に喋らなくなるんです、それがちょっぴり寂しく思うんです、と言うのよ。大人になってもそんな風なら、心配ね」
と言った。
今花が大人になったときの話をされても、私はどうにもピンと来なかった。
彼女の毎朝のルーティンは決まっている。
まず、ベッドで寝転んでいるままの状態の花に妻が引きずりながら服を着させる。花はその間も半目のまだまだ寝足りません顔をしてぼぅっと天井を見ている。
やっと起きてきたかと思えば既に七時。幼稚園の送迎バスが七時半には家の近くにやってくるので相当アブナイということになる。
ダイニングテーブルに用意された牛乳のかかったシリアルを弱々しくスプーンで掬い食う。
おはよう、というと「おはよー」となんとも軽い返事が帰ってくる。
「それで間に合うのか」
「まいにちこれでまにあってるよ」
「来年は小学生なんだぞ。そろそろちゃんとお姉さんしないとな」
「花にしたのきょうだいはいないもん」
お姉さんの意味がわかっていないらしくむすりとした顔で私のことをちらりとも見ずに話す。
私としては本当にこんな生活リズムで果たして小学生という六年にも及ぶ務めをやっていけるのかと心配なのである。女の子とはもっとちゃんとしていないと嫁入りができない…というのは典型的な「ショーワ」の考えだろうか。
花が朝ごはんを食べたあとのことは知らない。私は基本的に彼女よりも先に家を出るからだ。
まあどうせゆっくりゆっくり支度をして、急いで急いでバスに走ってゆくんだろう。
記憶にはない筈の偽物の何かがそんな情景を私の脳裏に色濃く焼きつかせる。
朝にめっぽう弱い花はそうして私が話しかけてもシカトをするが、会社から帰ると彼女は飛んで玄関に来て
「おかえり!!」
と大きな声を上げる。かと思えばどたた、っと足音を立ててリビングへ走り出し「ママ〜」と即不倫される。この子は将来人たらしになるぞー、と、自分でもわけのわからない思いをその晩に飲む缶ビールの酔いにぬるく溶かすのである。