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ノヴィウムらの突然の思わぬ形による訪問でエルフ族の国の重鎮たちは大きな混乱に陥っていた。それもそうである。長年にわたり同盟を締結していた4大帝国のうちの一つであるノヴィウムの帝国が急に攻撃を仕掛けてくるなど夢にも思わない。
国の防御システムである結界による防御は流通するエネルギーをエルフ族の固有魔法である『結果』により巡回させているものなので、とんでもなく頑丈というほどではない。彼らほどの強者であればすぐに突破されることは考えなくてもすぐにわかるというほど明確であった。
固有魔法『結果』はその空間自体を操ることができる魔法である。空気を圧縮してバリアとしての空間を作成したり、それを足場にしたりなど応用も効かせることができる。もちろん他の属性魔法でも魔力を圧縮してそれに近しいことはできても、『結界』には遠く及ばない。
それに結界は空間を召喚することで視認をかなり軽減することができ、エルフ族は結界を駆使してはるか昔から王国を守ってきていたのであった。
「王妃、ノヴィウムらはもうすでに目前まで迫ってきています故、早急にご判断を!」
アエテルータはかつてないほどに頭を抱えていた。このまま自分たちがノヴィウムらに攻撃を加えると本当に戦争になってきてしまう。しかし何もしないというわけにも決していかなかった。彼らの結界はすでに彼らによって攻撃されておりこのままでは国民が逃げ遅れてしまう。それだけはなんとしてでも阻止しなければならなかった。
「真っ先に国民全体を帝都に移動させ、被害をできるだけ最小限に抑えましょう。国中の結界師を集め今すぐにできる限りの結界の強化をしつつ、隣のヴォグデイ様の王国に避難要請を。」
苦虫を噛み潰したような表情でアエテルータは呟く。元々平和を強く望んでいた彼女は今目の前で起こっている事実を認めたくはなかった。手元のパネルに映し出された結界にぶつかり続ける灼熱のマグマ。その炎が誰のものなのかはアエテルータたちが1番よく知っていた。
「なぜなの…ノヴィウム伯爵…共に平和を誓い合った仲ではなかったのですか。」
遠い目をしながらほろりほろりと小さな声で呟くアエテルータ。心ばかりか彼女の目にはわずかな水滴がこぼれかけていた。
「アエテルータ様、お気持ちお察ししますが我々にそのような時間は残されていません。我々も覚悟を決めましょう。彼らの怪しい動きは今に始まったことではなかったではありませんか。」
彼のいう通りであった。以前から国付近に彼らの部下と思われる影が結界付近を彷徨いていたのは私も知っていたでしょう。そうアエテルータは自身に言い聞かせる。
「王妃!ヴォグデイ様からの伝言でございます。すぐに避難を受け付ける。健闘を祈っておるぞアエテルータ殿。とのことです!」
「わかりました。国民全体の脳波に敵襲があり、今すぐに帝都に向かうよう忠告をなん度も促しております、もう直に避難が始まることでしょう。ヴォグデイ様には感謝しかございませんね。私たちも彼らを迎え撃つ準備を整えましょう!」
アエテルータは王妃としての責務を全うするために自らを奮い立たせる。本当は争いなどしたくないなど今は言ってられないのだ。
「お母様?何が起こっているの?」
冷静な表情を保ちながらも明らかに動揺している我が娘を見つけたアエテルータは、その瞬間動揺した素振りを見せたが、やがて決意を固めた表情で彼女に託すように言葉を授ける。
「聞きなさい、私の愛おしい娘よ。私は今日を持ってあなたにこの王国の王女という立場をあなたに譲ります。」
娘は母親によって発せられた情報過多な言葉で頭の中が混乱しながらもすぐに言い返す。
「何を急に意味不明なことを言い出すのですか、お母様!そんなことをいきなり言われても国のみんなが困ります。」
娘の意見はど正論であり、同時に全国民の心の声を代弁したものだったと思う。しかし、アエテルータの覚悟は本物であった。
「私はこの国と共にあるのです。ノヴィウムはきっと国の王女である私が見つかるまでこの国を攻撃し続けるでしょう。そうすれば無条件に国民の暮らしが壊され続けることになります。そんなことがあってはなりません。私は彼を止めるためにもここで散らなければならない。せめてもの時間を私がここで稼ぎます。きっと避難するには十分な時間が作れるはず。今ここで立ち向かったとて、私たちに勝算はないのですから。」
どこかで聞いたかのようなセリフを下を向きながら、それでもしっかりと娘に力強い目線を合わせて言う。
「でも、でもそれはおかしいですよお母様!お母様も私たちと一緒に避難してください。きっと間に合います!お願いですから。」
振り絞るように母親に縋りながら娘が泣きそうな声で嘆く。
「愛してるわ。アエテルータ”王女”」
アエテルータは娘の額にゆっくり呟きながら指を置く。額の紋章が母親から娘へと鮮やかな緑を放ちながら転写される。今この瞬間に新しいアエテルータ王女が誕生したのであった。
「母様!いけません!何をしているのですか!」
抑えていた涙がついに堪えきれず泣き叫びながら母親に怒鳴りつける娘。そっとアエテルータが家臣に合図を送る。娘に無慈悲に手刀が落とされ彼女は気を失った。
「私はもう行きます。結界にヒビが入るような音がしましたからね。もう残された時間は少ないです。国民の集まりの程はどうでしょうか?」
「王妃、いえ、アエテルータ殿。国民の総4割ほどの避難体制は整いましたが、急なことであったためにまだ国民の集まり方は良くありません。」
「そう、では私が『転移』を使用することにしましょうかね。」
「!? アエテルータ殿、それはあまりにも体への負担が大きいかと!」
目を見開き、家臣は慌てて止めに入ってしまう。『転移』は彼女らの固有魔法である『結界』の中でも最上級の魔法で、結界による空間を別の場所にあらかじめ用意した結界の空間と入れ替えるというものだ。『転移』だけではそこまで魔力を消費することはないが、それをピンポイントで全国民をターゲットに使用するとなると尋常じゃない量の魔力を使用することになるのは言わずもがなだ。
「私がやれると言ったものは全て自分ができる範囲のものです。私のことは私が1番よく知っています。どうせここで命を散らすのならば豪快に全力を出してやろうじゃありませんか!」
足元に緑色に輝く凄まじい威圧を放つ魔法陣が展開される。魔法陣は詠唱をしなければ発動できない人間が大半の中、ごく稀に類まれな才能を持ってして生まれると詠唱なしに魔法陣を生成できるものも存在する。アエテルータは無詠唱を使用できる数少ない人のうちの1人なのである。そのほかにも彼女は能力者と言われる部類にも属しており、「火属性魔法」「雷属性魔法」「土属性魔法」の3つの他に「時空間魔法」に精通している天才であった。時空間魔法は空間に関わる時間を操る魔法で彼女の結界と合わせて凄まじい力を発揮する。
「『転移』!」
魔法陣を中心に帝国各場所へ無数の光がまるで虹のように煌めきながら飛んでいく。その光はそれぞれ国民のもとへ迸ると、それぞれが魔法陣を展開し『移転』を発動する。
「これは、王妃様の光だ!これでやっと少しは安心ができるぞ!」
緑色の優しい光に包まれながら、その光に吸い込まれるようにして転移が発動する。そして、全国の約10万人に及ぶ国民が大聖堂の前に転移された。皆状況は脳波でわかっていたし、その後はアエテルータは特に直接干渉せずに、家臣と共に避難を開始させた。非常に温厚で物分かりの良く、決して大規模ではないエルフ族以外ではきっと混乱に陥りパニックになっていたことだろう。
そして避難が開始し、全員が王国を出ようとし始めていたその時大きな音がして結界による護りが破壊されたのだと悟らせた。国民たちは皆恐怖を顔に浮かべながらも忠実に指示に従って速やかに避難を進めていく。アエテルータはこれならきっと大丈夫だと自分に暗示かけるのであった。
「さて、私も決着をつけに行かねばなりませんね。」
もう悲しみの表情は彼女の顔に残されていなかった。もと王女としての責務、国民をなんとしてでも逃す、その時間を必ず稼ぐ。そう固く決意した力強い表情のみが残っていた。マグマが破られた結界の一部からどんどん流れ込んでくる。小さくはあるが、すでに王国から見えるほどの距離であった。
「『板翔』! 『時越』! 『透化』!」
三つの魔法が瞬時に発動する。板翔が彼女を中心に結界の空間およびドームを形成し、時空間魔法である時越で空間内に流れる時間をできるかぎり遅くする。そして結界の最大の強みと言っても良い透化を使用することで敵に見つかる可能性を大幅に削減。アエテルータ以外では絶対にできるわけがない超高度な重ね魔法である。
外での世界の3秒が今アエテルータの結界内での1秒に値する。およそ敵との使える時間は3倍差。透化を使用し、アエテルータは静かに彼らのすぐ近くまで潜みこむ。ノヴィウムらが通ったその時、彼女は魔法を唱える。
「『地昇』! 『炎天』!」
彼らの行く手を阻むかのように地面が大きく反り立ちながら隆起する。そしてその地面は凄まじい熱気を放った炎によって包まれ燃え盛る壁となる。炎天は、ノヴィウムが使用していた燃焼の一段階上の魔術である。
「アエテルータか!くそっ、やはり伊達じゃない。お前らあの女を逃すんじゃねえぞ!」
先頭を突っ走っていたものは壁に激突し、炎に包まれ戦死している。アエテルータは落ち着いた足取りで彼らの後ろにそっと歩み寄り透化を解除した。
「私はここですよ。醜き戦死たちよ。」
「この野郎!お前らやれぇぇ!」
「『地割』!『閃光』!『火種』!」
アエテルータのチートとしか考えられない凄まじい火力の攻撃に対して、ノヴィウムも先頭に立ち、アエテルータの遠隔魔法に蹂躙されている部下たちを放ってタイマンに持ち込む。
「貴様の好きにはさせんぞ!血塊、『血槍』!」
血液の鋭く鋭利な形をした槍が、彼女の周りに待とう板翔を少しずつ分解させる。アエテルータも少し苦笑いを浮かべて、バックステップで距離を空ける。ここまでで大きな技を9個も連発しているのだ。アエテルータといえどその魔力は7割以上は簡単に持っていかれていた。
「『移転・光』!」
ノヴィウムの背後に瞬間移動して、直接大火力を注ぎ込む!
「『波動』!」
土魔法の最大火力を放つ技を目の前で完全に喰らってしまったかのように思えたノヴィウム。しかし、波動は彼の目の間に展開された何かが弾けたタイミングでうまいこと避けられていた。
「血塊、血盾』。」
血液を円形に膜上で縦にすることで、それが弾けた時にうまくエネルギー分散をしつつ、一時的とはいえ時間稼ぎができるのでそのわずかな隙を見ての回避だった。
「さすがエルフの嬢様だ!油断の隙もない。今のを喰らっていたら吸血鬼の私といえど、ただでは決してすまなかっただろう。掠っただけだが、肋骨が何本かすでに折れているようだからな。」
ノヴィウムは悔しそうではあるがとっても楽しそうな声をあげてアエテルータに語りかける。
「今のをかわされるのは想定外でしたよ。腕を上げましたね、ノヴィウム殿。」
かつては国の代表として何度も共に話し合いをしたり、平和を誓い合った2人。そんな2人が模擬戦ではなく、命をかけた本当の戦いをしているのだ。お互いにリスペクトを示しつつも、殺意をむき出しにする。ノヴィウムは腰にかけていたマグナムを手に持つとそっと呟いた。
「まだこっからだぜ?お嬢?」
低くひどく残虐的に響いた声は、アエテルータでさえ少し動揺してしまうほどの殺気を帯びていた。アエテルータは潜在的なもので彼が豹変しそうなことに気づき、すぐに距離を取ろうとするが、それはすでに少しばかり遅かった。ノヴィウムは逃げようとする彼女の手を、結界ごと無理やり拳に火を宿らせ突破しながら掴む。そして銃口を彼女の心臓部分に突きつけるとなんの躊躇いもなく魔法で強化しながら打ち込む。
「醜き憎悪の化身よ、我らに心なき一突きを『洗脳』!」
彼のマグナムに装填されていた弾丸は彼の血液によって作られた自己製。その弾丸は、魔力を宿って身体を傷つけることなく内部にダメージを入れることができる。そこに彼の闇属性魔法の技を重ねることで、普段はできないよな直接的な意識への干渉を可能にしているのである。この『洗脳』という技は彼のすべての特性を活かし切った特別な技であった。たくさんの情報量は与えることができないものの、猛烈な精神的インパクトを付与することができる。
アエテルータは苦虫を噛み潰したような表情になりながらなんとか洗脳を解こうとするが、ノヴィウムの半分以上の魔力を込めて放った弾丸はその隙を一切与えない。それでもアエテルータが逃れようとするのに対して、ノヴィウムはアエテルータの顎にそっと手を添える。
「くっ…暖かき生命の灯火よ、今その力を地に表せ『焔龍』!」
「な、なに!お前のどこにまだそんな力が!このクソ野郎!」
アエテルータは残ったほぼ全ての魔力を消費して、最大火力を遺憾なく発揮してもらうために聞かれないよう小声で詠唱をする。彼女の足元に巨大な赤い亀裂と共に真っ赤な魔法陣がすごい速さで広がり焔龍を召喚する。ノヴィウムは慌てて手を離し、急いで回避しようとするが、それをアエテルータは見逃すほど甘くはなかった。
「『翔炎天』」
焔龍の体全体が魔法陣から凄まじい速度で上昇する、その体に悍ましいほどの熱気を放つ青色の炎が身に纏われていた。その濃い群青に染められた青色の炎はノヴィウムを容赦なく襲った。しかしそれと同時にギリギリで防御をしていた彼女の脳内に「敗北した」と洗脳による記憶の上書きがされる。ノヴィウムは想像を遥かに超える凄まじい火力に呻き声をあげるが、その表情には勝ちを確信する悪魔のような「不死者の笑み」を浮かべていた。
アエテルータは洗脳により思考を放棄することを余儀なくされるが、その瞬間でも国民のことを思い、立ちあがろうとする。そこにそっとノヴィウムは近づいていき彼女の首筋に齧り付いた。アエテルータは死を確信したが、なぜか痛みは感じずにただ全身の血の気が引いていく。ノヴィウムが彼女を吸血していたのだった。刹那、ノヴィウムが負った火傷が即座に癒やされていく。アエテルータは気を失い、そんな彼女を優しくノヴィウムが抱擁する。彼はぐったりするアエテルータにいやらしい目を向けながら、仲間の方をみてそっと頷くと生き残ったものたちで王都に重い足を引きずりながらも向かうのであった。