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この指にはとまるな

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この指にはとまるな

1 - 悪いことは言わないから、私にしちゃいな。

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2025年07月07日

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卑怯者のたわごと。

私はワガママさんだ。

なぜなら、弱みすらも、愚かさすらも好かれたいからだ。

それは、克服する億劫さがゆえか、立ち向かう怖さが故か、どちらにせよ楽したいのか。

どちらかでなく、どれもだ。

そして、少なくともこんな事を思うのも、進行形の時間稼ぎだ。


そんな戯言を塞ぐようにチャイムが鳴る。

彼が友達に手を振り、席に戻る。 号令し、席に着く。

私は彼の横顔を、視界に収める。

光を溜めた瞳に、ゆっくりと長いまつ毛が下りる。

そして、また潤った瞳が焦点を合わせ始めている。今日も私はひとつ、それになにか奪われた。

日々奪われ続けている。いや、捧げている、貢いでいる?

少なくとも悪い気はしないね、ほんとに。


「次は、安達。ここの答えは出てるか?」

「あっ、はい。」

スラスラと答える彼。一つ一つの言葉に伴う声の重みが心地いい。これから告白されることも知らないで、あんなしおらしい姿勢をしている。


そう、私は告白をするのだ。彼に。今日。

募る思いを声に出すのだ。彼に、私を見せるのだ。


授業が終わり、放課後となる。

赤茶けた教室には野球部の掛け声や、吹奏楽部の演奏が響く。

そして、手紙で伝えたことを守った彼は、教室に残っていた。気づけば、教室には私と彼の2人。

1つ席をとばした席に、彼はいる。


私は口を開く。

「安達くん。ありがとう、教室居てくれて。」

彼は長く息を吸い、答える。

「……告白だよね?…」

その言葉に、頭からつま先までを、一気に熱が襲う。バレてんじゃん、おい。

「あれ……ちがう?」

「いや、告白だよ。……このクラス割と可愛い子居るけど、みんな怖いよ?」

「まじ?」

「うん。女子だからわかる。」

「わかるんだ?」

「……うん。だから、悪いことはいはないから、私にしちゃいな?」


そこからの記憶は薄い。上手く息継ぎができてなかったのか、軽い酸欠になっていたらしい。

顔が好調して、鼻や耳に熱が集まる。瞬き一つするのにも、勇気と自信が必要だった。

でも、そんな満身創痍になりかけだった私が唯一聞こえ、未だ響いている彼の言葉は、


「それじゃあ、そうさせていただきます。」

でした。



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