「あぁ~…つまんねぇ」
ヲノ・テキシ・メモトゲは天蓋付きのベッドに寝転がる。彼はメモトゲ一家の末っ子。
この世界で3本の指に入る財閥の家の者である。住んでいる家もお城。
この世界で最も大きな山を背に建てられた大きなお城。
ヲノは立ち上がって大きな窓から外を見る。城下町では人々が忙しなく動いている。
その中には大きな剣やハンマーを担いでいる者もいる。
「楽しそうだな」
ヲノはずっと思っていた。
刺激がほしい
と。ヲノはお金を持ち、部屋を出た。
「ヲノ様。お出掛けですか?」
お手伝いさんのエルフに聞かれる。
「おぉ。ビックリしたぁ~。あ、そうだ。
これから友達んとこ泊まるから数日家空けるって父上母上に言っといて」
「あ、そうなんですね。あのどちらの家に」
と聞こうとしたら
「よろしく~!」
と言って行ってしまった。
「お友達のお名前…はぁ~…怒られる…」
ヲノは広いお城の庭を抜け、門から外に出て長い長い階段を下る。
「はぁ…はぁ…なんで…こんな…階段長ぇんだよ…」
長い階段の先にはさらに門があり、そこの門が開くと一気に注目を浴びる。
そのため門からは出ず、道を外れて
高い城壁の側に生えている木に登り、その木の枝を伝って外に出た。
いい感じに木の葉が服に付き、顔も手も汚れ
まさかメモトゲ一家の末っ子とは思わないだろうと思い町に繰り出した。
緊張した。ずっと窓から見ていた世界、屈強な人たちが目の前にいる。
ヲノの身長と同じくらいの大剣を背負っていたり、メモトゲ家の城壁なんて
1発で崩せそうなハンマーを持っている、体が大きく筋肉質な彼、彼女らはムスコル族。
「うわぁ~スッゲェ~」
声に出てしまっている。町では野菜や肉、魚が売っている声
肉や魚を大きなまな板で大きな包丁でぶった斬る音、普段着、そして防具、武器が売っていたり
カーンーカーン!と鍛治が武器を鍛えている音が鳴り響いている。
「おぉ~…カッケェー」
武器屋のブレードのカッコよさに目が止まる。
「坊ちゃん!武器をご所望かい?」
「え。あ、うん」
つい「うん」と言ってしまった。
「坊ちゃんくらいならぁ~…そうさなぁ~…ツインブレードとかどうだい?」
店の奥の2本の短い短剣を太い指で指指す店主。
「オレ、そのブレードがいいんだけど」
「お。これかい?こりゃ原点にして頂点と言われるくらい
扱いは簡単だけど極めるのが最も難しいとされてる武器だぞ?」
その言葉にそそられニヤッっとする。
「いいねぇ~おっちゃん!それで!」
「お!坊ちゃん、只者じゃないねぇ~」
「わかるか?」
「わかるとも。何年この仕事してると思ってんだ?
こんな簡単な、でも難しい武器を選ぶのは天才か変態だよ」
「わかってんじゃん。オレは天才で変態だ」
「いいね。坊ちゃん。気に入った!
でもこのブレードはそこそこするぞ?1500ワースだ。坊ちゃんに払えるかな?」
高いと聞いていたが拍子抜けしたヲノ。
「は?1500ワース?いいよ。2000ワース払う。釣りはいらねぇ」
とカッコつけて見せた。
「おぉ!そんな大金…」
そこで武器屋の店主はまじまじとヲノの顔を見た。
「あんた…」
「シー。口止め料込みだ」
「やっぱりメモトゲ家の」
ヲノは腕を組み、素知らぬ顔でそっぽを向き
「早く。ブレードくれよ」
と言った。店主はブレードを手に取り、鞘に入れる。そしてヲノに手渡す。
「おっも!」
カッコつけて受け取ったが思いの外重くてカッコつけが解けた。
「ガッハッハ。なんだそりゃ」
店主が笑う。
「あの一家の出って聞いたから
もっととっつきにくいやつかと思ったらおもしれーやつだな!やっぱり気に入った!」
ヲノは少し恥ずかしく、なんとも言えない表情をしながらブレードを肩からかける。
「でもまたなんであの城から下りてきた?
メモトゲ家なんて、あそこに生まれりゃ一生安泰だろーに」
するとまたヲノはニヤッっと笑って
「オレは刺激が欲しいんだ。あんたの言う通り変態なんだよ」
武器屋の店主もニヤッっと笑った。
「そこの鍛冶屋に持ってきな。オレが口聞いといてやっから」
「おぉ。ありがと」
と言ってカッコよく立ち去ろうとしたが
「あのさ」
「お?どうした?」
「みんなこんなごっつい武器持ってなにしてんだ?」
とめちゃくちゃ初歩的なことを聞いた。そんなことを聞かれて武器屋の店主もずっこけた。
「おいおい。知らないで武器買ったのか」
コクンと頷くヲノ。
「よし。じゃあ説明してやる」
そこから武器屋のおっちゃんが説明を始めた。
「この世界にはな、マナトリアっちゅう怪物がおるんだ。
ここの世界に住むやつらはオレらみたいに武器屋や鍛冶屋
食材などを販売したり、大衆食堂や酒場、医療施設なんかで稼いでいる者もいれば
そのマナトリアを浄めることで生計をたててるやつもいる。
オレたちが武器を売ってたり、防具売ってたり、鍛冶屋してるのはそーゆーやつを支えるためさ」
「へぇ~。そのマナトリアってのはなんなの?」
「なんなのって…。怪物だよ。怪物」
「怪物ね。どんな見た目をしてるんだ?」
「そりゃーさまざまよ。可愛い見た目のやつから、見るからにおっかねぇやつまで。
マナトリアってぇのはオレたちだって言われてんだよ」
「オレたち?」
そこから武器屋のおっちゃんは昔話を始めた。
「これは言い伝えというか、昔この世界は平和だったそうなんだよ。
でもそんな平和な世界でも、知性を持つ我々生物は罪を犯す生き物なんだよな。
永遠の愛を誓っても別の者に移り気してしまう。
そしてその移り気が本命に取って代わってしまうときもある。それは男でも女でもそうだ。
そんな裏切られた者たちが山の奥地へと入っていった。
いつか自分を裏切ったやつに復讐を誓って。それがマナトリアの始まりとされてるんだ。
いってしまえば心の中が殺意で満ちてしまった行く末だな。
そしてマナトリアたちは長い時間をかけて独自に進化していった。それが今のこの世界ってわけよ」
「ほお?」
その話を聞いてますますこの世界は刺激が溢れていると思うヲノ。
「ますます楽しみになった。おっちゃん!マナトリアはどこにいけば会える?」
「おいおい。正気か?」
「ま、正気か正気じゃないかって言われたら、正気じゃないかもな」
「いいか。決してオススメはしねぇ。金持ちの家に生まれてぬくぬく育ってきたんならなおさらだ」
「なめんな」
「それでもっていう命知らずな変態なら」
とまず初心者でもまだいけるかもしれないというレベルのマナトリアがいる地域を
地図に描いて教えてくれた武器屋のおっちゃん。
「サンキュー。おっちゃん」
「あ。ちょっと待ちな」
武器屋のおっちゃんは店の奥へ行って服を手に戻ってきた。その服をヲノに投げる。
「ぐっ。なんだこれ。古クセェ」
「失礼な。オレが現役だった頃に使ってた防具だ。おめぇさんそんな服で行ったら死ぬぞ。
それ持ってけ。オレが今生きてるのもその防具のおかげよ」
「…おう。じゃ、ありがたくいただくとするよ」
「おめぇさん。名前は」
「ヲノだ」
「ヲノ。期待はしてねぇが…生きて帰ってこいよ」
鼻から息を吐くように鼻で笑いながら
「期待はしとけ」
と言って武器屋のおっちゃんと別れ、口聞きしてもらった鍛冶屋でブレードを鍛えてもらっている間に
武器屋のおっちゃんからもらった防具に着替えて、肉串を食べて、その美味しさに感動したりした。
鍛冶屋からブレードを受け取り、いざ地図を頼りに狩場へ向かう。
もちろん怖くもあったが同じくらいワクワクしていた。木の間を縫って進んでいると広場が見えた。
「ここか」
広場に足を踏み入れる。するとちょうど向かいの森の中から
猫科の王様、ライオンのような茶色の立髪を纏った、鋭い眼光のマナトリアが現れる。
ゆっくりとその歩を進める。するとマナトリアがヲノを認識した。
しばらくヲノもマナトリアを動かず、お互いを見つめ合っていた。
すると突然そのマナトリアの立髪が逆立ち、今まで至って普通だった前足や胴、後ろ足の筋肉が急成長した。
「うおっ。ガチか」
その迫力に思わず半歩後退るヲノ。ブレードを鞘から抜いて構える。
「来いよ」
その言葉に呼応するようにゆっくりと近づいてくるマナトリア。
ブレードを構える。冷や汗が流れる。いつのまにかその間合いは
斬りかかるために踏み込めばブレードが届く距離となっていた。
しかしヲノは動けない。今まで城で過ごし、マナトリアなどという怪物のことすら知らずに育った。
いくら刺激が欲しいからといって踏み込みすぎた。そのマナトリアが軽く前足を振るった。ブレードにあたる。
その力強さがブレード越しに伝わった。ブレードは宙を舞い、ヲノから遠く離れた原っぱに突き刺さった。
終わった
そう思った。いくら防具をつけているとはいえ、攻撃できる手段がこの身1つしかない。
しかし向かっていける勇気などない。そもそも武道の心得もない。
マナトリアが近づいてくる。ヲノはその場から動けない。
ついにはその場にへたり込んでしまった。筋肉の隆起した前足がどんどん近づいてくる。
先程は見下ろしていたくらいだが、今は見上げていて、とてつもなく大きく感じる。
鼻の上に皺を寄せて上の歯を剥き出しにするマナトリア。その太く鋭い2本の牙は唾液で濡れて光っていた。
父上、母上、ボンクラ息子でごめんなさい。
兄様たち、あなたたちに1度武道で勝ちたかった。
姉様…姉様には特に言い残すことはないわ
と思って死を覚悟していた。すると目の前の牙を剥き出しにしたマナトリアの顔が一瞬にして歪む。
それと同時にカーンというのかカキーンというのか、鉄の甲高くも重い音が響いた。
マナトリアはすごい勢いで飛んでいき、木に叩きつけられ、力なく倒れた。
「…え」
「おぉ~よく飛んだなぁ~。いい音響かせて。うん。使い心地抜群」
目の前で起こったことがわからず、硬直していると、視界の中に男臭い顔の人物が入ってきた。
「大丈夫か」
「あ…うん」
差し出された手。ヲノの2倍はありそうな大きさ、3倍はありそうな分厚さ。その手を取る。
その男が手を引く。
「え」
ヲノは吹っ飛んだ。芝に転がる。
「あぁ。すまん!」
「いてぇ…」
一人で立ち上がるヲノ。駆け寄る男。その手には
ヲノが何人分あるのかというほどの大きさのハンマーが握られていた。
「あ、そっか。あのマナトリアを倒したのって」
「オレだよ」
担いでいたハンマーをドスンッっと突き立てる。ハンマーの周辺の地面だけが少しだけ凹む。
「た、助かった。ありがとう」
「おう!」
「でもなんで。この時期ここは人は寄りつかないって」
「まあ、初心者向けだからな。といっても今出てきたやつは1番弱いマナトリアじゃなかったけどね」
「はあ…」
「鍛冶屋に頼んでたオレの相棒を取りに行ったら」
相棒と言ったときハンマーの柄をトントンとした。
「武器屋のおっちゃんに頼まれてさ。んで来たってわけよ」
「…なるほど?」
ブレードに近寄って地面から抜く。
「土は拭いといたほうがいいぞ。錆びるから」
「おぉ。なるほど」
「お。言ってる側から1番弱いマナトリアがいたぞ?」
太い指で指指す。その方向を見るとうさぎの姿をした、でも逆さまのマナトリアがいた。
「あいつ耳で歩いてるぞ?」
「そ。たとえば自分子どもとかを最初に戦わせるマナトリアがこいつ。
名前がスポーレ。うさぎの姿形をしているが耳で歩く。
そして戦闘態勢となると本来脚である部分を使って攻撃してくる。
いってしまえば打撃攻撃だな。だから初心者にはいいんだ。怪我しづらいからな」
「なるほど?んじゃ、1発やってみますか」
「ま、打撃は相当威力あるから、骨の1、2本は覚悟しといたほうが」
と言いながらハンマーの側に座る男。
「え。ちょ…骨いかれんの?」
不安な顔を向けるヲノ。顎でクイッっと無言で「やってみろ」と言う男。
怖いがブレードを構えるヲノ。ペタペタと耳で歩く可愛いうさぎが
ヲノと目が合い、ヲノを敵と認識した。赤い目が残像を残すように光り
側転のように横に回り、脚を使って地面を蹴り、とてつもない跳躍力でヲノの側に来た。
「うおっ。ジャンプ力ヤバいな」
「その脚で攻撃されるから。気をつけろ?」
また側転のように横に転がり、耳を脚として立って、脚を耳のようにし
「来るぞ」
パンチのように蹴りを繰り出してきた。ヲノはブレード横にしてガードする。
「うおっ」
ブレードの上からもその力強さが伝わる。
「右」
ヲノから見て右の脚から蹴りが繰り出される。ヲノはガード一方。
「ガードだけじゃ倒せないぞー」
「わかってるよ!」
言われてすぐ斬りかかろうとブレードを振るう。しかし隙が大きすぎたのか
「ぐっ…」
スポーレの蹴りをもろに胸に受けるヲノ。芝を転がる。ヲノを追いかけるように
また側転のように横に転がり、脚を使って1回のジャンプでヲノの側まで飛んできた。
そしてまた側転のように横に転がる。
「そこだ」
その隙を狙ってヲノはスポーレの腹を蹴り、ブレードを取る。
蹴りを喰らって後ろに転がったスポーレはネックスプリングの要領で跳ね上がる。
跳ね上がり耳で立った瞬間、ヲノはブレードで斬った。
「きゅうぅ~…」
可愛い鳴き声と共に力無く倒れるスポーレ。
「鳴き声可愛すぎて、なんか罪悪感すごいんだけど」
「へぇ~。なかなかやるじゃんか」
男はスポーレの耳を掴み、耳にロープを巻いて首にかける。
「それ、どーすんの?」
「肉屋に卸す」
「さっきのやつも?」
「おぉ」
「あんなデカいの持ってくの?」
「デカい?小さい小さい」
と笑う。
「あいつはムガルルっていうんだ。ムガルルであの大きさはまだ小さいほうだ。
もっとデカいやつ、ゴロゴロいるさ」
気づけば空はオレンジ色になりかけていた。
男はムガルルの手足をロープで縛って肩に乗せる。
「もう時間も時間だ。そろそろ戻るぞ。
暗くなったら、いくら弱いと言っても視界不良の中じゃ厳しいからな」
「お、おう」
2人は森をかき分け、進む。
「あ、あんたは?」
「あぁ。自己紹介がまだだったな。ダイン・ボルニ・アマキクだ。よろしくな」
「おう。よろしく。オレは…ヲノだ」
「ヲノか。よろしく」
2人は森を進み、城下町へと出た。
「よお!今日の収穫だ」
「あれ?今日は湖のほうに行くって」
「あぁ。計画変更。釣りでのんびり過ごすのはまた今度だ」
肉屋にムガガルとスポーレを渡して報酬を貰うダイン。
「おぉダイン!…連れが一緒とは珍しい」
酒場に入る2人。大きなテーブル席を2人で使う。
「オレのお気に入りの店よ」
店内はオレンジ色のライトや燭台の蝋燭の火の灯りでぼんやりと明るい。
年季の入った木材の色、肉の焼かれる香ばしい匂いやスパイスの香りが漂う。
「へいお待ち」
運ばれてきたお肉の塊。ヲノの胴ほどありそうな大きさである。
ヲノは肉丼を頼み、2人ともお酒を頼んで、木でできたグラスが出てきた。
「んじゃ、初討伐に乾杯でもするか」
「おう」
「んじゃ、かんぱーい」
「かんぱい」
乾杯の勢いが強すぎて、ダインのお酒がヲノの顔にかかる。
「おい」
「あぁ、すまん。勢い強すぎた」
ハンカチを取り出して顔を拭くヲノ。
「別に全然いいけど。命救ってもらったし」
「そういえばなんであんなとこにいたんだよ。Limpiador(リンピアドール)のデビュー時期でもないし」
「デビュー時期なんてあんのか。ま、刺激がほしくて先走った」
「刺激が?」
「あぁ」
飲んだお酒の味に眉間に皺を寄せながら話を続ける。
「オレ、メモトゲ家の人間なんだ」
「マッ!マジかよ!」
ガタッっと大きなテーブルが動く。
「しー!うるさいな」
「あぁ、すまん」
「あの城で暮らしててさ。刺激なんてなくて。
ただテレビ見てゲームして、たまに武道。同じことの繰り返しの日々。
部屋の窓から城下町を見るのが楽しくてさ。
ダインみたいに筋肉隆々の人たちがオレくらいデカい剣担いでたり、ハンマー担いでたり。
で、とりあえず城下町に行きたい!って思って城抜け出して、いろいろ見て歩いてたらコイツに会ってさ」
テーブルに立て掛けたブレードを触るヲノ。
「んで買って、おっちゃんにコイツでなにすんの?って聞いて」
「それも知らなかったのか」
「そう。んで、いい狩場を教えて貰ったってわけ」
「んで死にかけてたってわけか」
「まさかこんなとは思わなかった」
と話していると酒場に人が入ってきた。
「あ」
「おぉ!生きてたか!」
武器屋のおっちゃんである。
「お陰様で」
「間に合ったんだな」
「ほんと危機一髪のとこでオレがヒーローの如く颯爽と現れたってわけよ」
「その図体で“颯爽”とか」
笑う武器屋のおっちゃん。武器屋のおっちゃんを入れて3人で改めて乾杯をした。
「どうだった。初狩りは」
「文字通り死ぬかと思った」
「最初はスポーレだろ?あんなんで死ぬ思いするか?」
「それがさ、なんの運の悪さか知らないけど、ムガルルだったんだよ。ヲノの最初の相手」
「マジか。それは災難だったな」
「ま、個体としては小さいほうだったけどね」
「それでもデビューがムガルルか。なかなか悪運が強い。いい刺激になったんじゃねぇか?」
と笑う武器屋のおっちゃん。
「お陰様で」
「で?この後はどうすんだ?メモトゲ家のお坊っちゃまとして戻んのか?城に」
「いや?癖になっちまったから続けるさ」
「ふっ。とことん変態だな」
「かもな」
眉間に皺を寄せながらお酒を飲むヲノ。
「んじゃ、ダイン。お前がいろいろ教えてやれ」
「は?オレが?」
「そうだ。今日だって命を救ったし、Limpiador(リンピアドール)としては先輩だろ?」
「まあ…な?」
「ヲノ」
「ん?」
「ここの1番高いメシ食わせてやってくれ」
「は?」
「コイツはそれでオッケーしてくれるに違ぇねぇ」
「いくら?」
「70ワースだ」
安っ。っと思うヲノ。しかし、目の前の期待に目を輝かせているダインを見るとそんなこと言えなかった。
「おう。出してやる。その代わり、ダイン。今日からオレの相棒だ」
「うんうん」
「聞いてんのか」
「たぶんメシのことで頭いっぱいだな」
「しゃーねぇ」
店員さんを呼んで70ワースの料理を頼んだ。店員さんも滅多に出ない高級料理に驚いていた。
しばらくして出てきたのが、各種肉の盛り合わせ。
魚や野菜も彩りを添えたテーブルを覆い尽くすほどの料理だ。
「おほぉ~~!」
目の前の料理に目を輝かせるダイン。
「待て!いいか?今日からダインはオレの相棒だ。オーケー?」
「オーケーオーケー!食べていい?」
「よし」
「いただきまーす!」
バクバクと食べるダイン。
「こんな食うのか?ムスコル族ってのは」
「あぁ、基本的に全員そうだ。ムスコル族は見ての通り、全身筋肉が異常に発達している。
まあ、頭の良いやつもたまにいるが基本的には脳まで筋肉と思っていい。脳筋ってやつだな。
だから毎日肉をこれでもかって食う。食えるときは特にな」
と言ってる間にも美味しそうにお肉を頬張るダイン。
「だからあんなデカいハンマーも容易に振えるってわけよ」
「オレがあのハンマー持てるようになるには?」
武器屋のおっちゃんは未確認生物を見たような顔になる。その後吹き出し
「お前さんがあれを?無理無理無理。魔法でも使わない限りな」
「魔法か。魔法使えるやつはいないのか?」
「んん~…いるにはいるぞ。エルフ族なんて魔法が使える筆頭だしな」
と言われ、自分の城のお手伝いにもエルフがいることを思い出す。
「あいつらも魔法使えたのか」
「ただ“この世界”で使える魔法なんてたかが知れてる」
「“この世界”?」
と言うと武器屋のおっちゃんがグッっと体をテーブルのほうに入れて
「刺激好きの変態坊ちゃんにおもしろい話を聞かせてやろう」
ヲノもテーブルのほうへ体を入れ、内緒話をするように話をした。
「この世界ってのは世界層ってのになってる」
「世界層?」
「そうだ。今いる世界が全てじゃない。空に見えるものは幻想だ。その上にまた世界が広がってやがる」
「まさか」
「そう思うだろ。でもそのまさかなんだ。たまにこの世界にいてはならないレベルのマナトリアが現れる。
お前さんも警報くらいは聞いたことあるだろ」
「あぁ。極たまに鳴るやつな。オレは生まれてからまだ2回くらいしか聞いたことないけど」
「その警報がそのときだ。そのときはみんな命の覚悟を決める。なんたってこの世界のレベルじゃねえんだ」
「ほお。異世界のマナトリアが迷い込んだってわけか」
「そういうことだ。ただ噂によるとその命掛けで倒す別レベルのマナトリアは
別階層の世界の1番弱いマナトリアらしい」
その話を聞いて思わず武者震いをし、口元がニヤけるヲノ。
「なんだその話。最高かよ」
「いいな。やっぱいいよお前さん。ま、まだ弱弱だけどな」
と笑う武器屋のおっちゃん。
「う、うるせーな。こっからだ。こっから強くなんだ。
んでその世界層?行ってやんよ。次の階層まで」
お酒を一気に飲み干し、グラスをテーブルに置くヲノ。
「クセになんな、この酒」
「なんかカッコよく決めたとこ悪いけどよ。
世界層は2階なんてもんじゃないぞ?何階まであるかわからねーんだ」
「は?はあぁ~~!?」
ヲノの渾身の「はあぁ~!?」が店、いや、この世界に響き渡った。
「ふぅ~…ご馳走様でした!いやぁ~…さいっ…こう」
「呑気なもんだな。相棒様が大それた野望を語ってるときに」
「世界層の話だろ?さすがに耳に入ったって」
真っ白になり固まっているヲノを他所に話が進む。
「ダインはいいのか?そんなことに付き合わされて」
「ん?まあ、楽しそうじゃん。そりゃ死ぬのは嫌だけど
別階層の世界にはまた美味しいものが転がってるって考えると…」
目を輝かせるダイン。
「なるほどな。ヲノは刺激を求める旅、ダインは料理を求める旅か。なかなかいいコンビになりそうだな」
「ヲノ」
ハッっと現実に戻ってくるヲノ。
「なんだ?」
「今日はどーすんだ?宿屋にでも泊んのか?」
「あぁ。決めてなかったな」
「じゃ、家(うち)来ればいい」
「ダインの家に?」
「おう。相棒なんだからな」
ダインの笑顔に少し嬉しくなり
「じゃあ、お邪魔させてもらうか」
と少し照れ臭さを隠すような表情で言うヲノ。
その表情と打って変わって、口元がピクつくヲノ。
「なんだこれ」
ダインの部屋を訪れたヲノ。とてつもなく散らかっていて、獣と男臭い。
「ベッド使っていいからな!お坊っちゃまなんだし」
ベッドを見るがベッドもヲノ何人分あるんだという巨大なベッド。しかも小汚い。
「いや、ソファーでいい」
ソファーもムスコル族用の大きなソファーなため、ヲノには充分ベッドとなりえた。
「そうか?」
掛け布団だけもらい
「んじゃ、おやすみー」
「おやすみ」
と裸電球を消した。
「明日から特訓な?」
「スポーレ狩りか?」
「ま、戦闘に慣れるためにはそうだな」
「マジかよ」
「ま、ムガルルがたくさんいるとこ行ってもいいけどな」
「あ、勘弁してください」
「ま、慣れだ。明日からビシバシ行くぞ?」
「お、おう」
ということで眠りについた。
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