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ジェフェリーさんがうちで働くことになった経緯は、前任の庭師が高齢のため引退したので、その代わりとして紹介されたからである。年齢も19歳と若く、私やリズにとても良くしてくれる優しいお兄さんだ。生まれも育ちもコスタビューテだと言っていた。ニュアージュに知り合いや親戚がいるなんてことも聞いた記憶が無い。
「リズ、その話……私とカミル以外の誰かにした?」
「いいえ。クレハ様とカミル様にお話した以降は誰にも言っておりません」
ジェフェリーさんがニュアージュの魔法使いであっても、私達を攻撃した者と繋がっているとは限らない。ニュアージュの魔法使い全てに悪感情を持ってしまうのは駄目だ。しかし、みんなもそう思ってくれるのだろうか。レオンや『とまり木』の人達はどうだろう……
私達が釣り堀で襲われたと報告を受け、怒り狂って暴れたレオンの姿を思い出して身震いしてしまう。彼がまたあの時のような振る舞いをするとは考えられないけれど、それでも一抹の不安は拭えない。
釣り堀を襲撃した犯人の名前は『グレッグ』だったっけ。彼はニュアージュの神であるシエルレクト様の手にかかり、すでにこの世にはいない。それでも捜査はいまだ続いている。ジェフェリーさんが魔法使いでニュアージュと関わりがあるかもなんて知られてしまったら、真偽を確かめるよりも先に拘束されてしまうかもしれない。私とリズが黙っていたとしても、レオンはいずれジェフェリーさんに辿り着いてしまうだろう。
「ジェフェリーさんが本当に魔法使いかどうかはっきりさせよう!」
「好奇心旺盛なクレハ様が今までジェフェリーさんへ突撃していなかったことに驚いています。知り合いに魔法使いがいるなんて……いつものクレハ様であれば放っておけない面白情報だったでしょうに」
「あはは……実は一度やろうとしたけど出来なかったの。その後はエリスが庭に迷い込んで来たり、レオンとの婚約が決まったりで、慌しくなっちゃってそのままって感じ」
身を守る武器として魔法が使えないかと考えていた。ジェフェリーさんから詳しく話を聞き出そうと試みたけれど、それはあえなく失敗してしまったのだ。でも、魔法についてはルーイ様が指南してくれたので、ジェフェリーさんに付き纏うような真似をせずにすんだ。
「はっきりさせると言ってもどうしましょうか。まさか正面から『あなたは魔法使いですか?』なんて聞くわけにもいかないですしね」
「ダメだよね……」
「ジェフェリーさんが魔法と無縁の方であれば、笑い飛ばされて終わりの質問ですけれどね。もし、私達を襲った魔法使いの仲間だったら……」
島内で起きた事件については家にも連絡が行っているけれど、ニュアージュや魔法使いについては伏せられている。リズから話を聞いた直後ならともかく、今このタイミングで彼に対してそんな質問をするのは、事件への関与を疑っていると言っているようなものだ。
「私だってジェフェリーさんが好きです。あんなにもクレハ様を心配して思いやって下さった方に、こんな事考えたくはありません。でも、クレハ様が危険な目に合うかもしれないと分かっていながらそれを見過ごすことなど……私にはできません」
しばらくの間、私はジェフェリーさんと接触しない方がいいとリズは言う。この件も本来ならレオンや『とまり木』の方に報告すべきだろう。
頭の中にジェフェリーさんの顔が浮かんだ。仕事中に声をかける私に嫌な顔ひとつせず、優しく接してくれた彼。お花の話をたくさんしてくれた……苗の植え方や世話の仕方だって教えてくれた。私もジェフェリーさんが大好きだ。私達のこれからの行動次第で彼の運命を大きく左右してしまう。どうしたらいい――
「あっ! そうだ、ルーイ様だ。ルーイ様に相談してみるのはどうかな」
ルーイ様なら前にジェフェリーさんの事を軽くではあるが伝えているし、彼が本当に魔法使いかどうか判別出来るのではないだろうか。
「……ルーイ先生はレオン殿下の先生ですが、軍の人ではありませんものね。クレハ様のお気持ちにも配慮して下さるだろうし、誰よりも魔法に造詣が深くていらっしゃる。そうですね! 先生に助言を仰いでみましょう」
リズも私の提案に賛成してくれた。そうと決まればさっそくと言いたい所だけれど……ルーイ様はリオラド神殿に篭っているのだった。あまり姿を見せるべきではないと考えられての行動だろうし、会いたいとお願いしても応じてくれないかもしれない。
私やリズは神殿に入ることができないしなぁ……。現在ルーイ様とやり取りをしているのはセドリックさんだとレナードさんが言っていたので、彼に言伝をお願いするしかないのか。
「セドリックさんに連絡を取って貰うようにお願いしなきゃ」
「クレハ様の行動をセドリックさんが不信に思わないかが心配です。何かあったのかと勘付かれてしまうかも……」
「そこは変にコソコソしないでルーイ様に会いたいって素直に言うよ。私がルーイ様と仲良くしているのはレオンもセドリックさんも知ってるし、大丈夫だと思う。それに、ジェフェリーさんの事が無くてもお話したいことはたくさんあるからね」
「言い方を間違えるとまた殿下がヤキモチを焼かれますから気を付けて下さいね」
直接会話ができればそれが1番だけど、無理なら手紙を渡すという方法もある。断られた時のことも考えておかないといけない。
「ミシェルさんがジェムラート家の使用人を調べようとなさっていますよね。いつジェフェリーさんにも矛先が向くか分かりません。急がないと」
「そうだね……」
ジェフェリーさんが魔法使い……初めて聞いた時はあんなにもワクワクしていたのに。今は彼がそうでなければいい、リズの勘違いであって欲しいと強く願ってしまっている。
私達の話を聞いたルーイ様は、どのような答えを出して下さるのだろうか。それを受け、私はどう行動するのが正解なのだろう。考えれば考えるほど深みに嵌り分からなくなってしまう。でも、何もせずに後悔だけはしたくなかった。