白くふわふわなレースが飾ってある天蓋ベッド。分かりやすく言えば小さい子の憧れ、お姫様が使っているようなベッドだ。彼女が喜ぶだろうと用意した数十万円のベッド。時々、毛布の擦れる音が心地良い。
あれから数時間、彼女はそのベッドの中で眠っている。
部屋中にも、薄いピンクを基本とした装飾が施されていた。窓の無い真っ白の壁にピンクのドレッサー、彼女のために買った複数のアクセサリーがしまってある。小さくレースのかけてあるチェストに、天井に小さなシャンデリアがきらきらと輝いていた。
琉騎亜は彼女に視線を移す。なめらかで色白の肌。まつ毛が長くほんのりピンク味を帯びた頬、小さくふっくらした唇。
首には赤い首輪。その首輪には小さく繋がった銀色の鎖がついており、その鎖はベッドの下にある取っ手に繋がれていた。その取っ手はドアに付けるような面付きハンドルで、それをベッドの床に設置してある。
「あぁ…可愛い…」
彼女の頬に触れようと手を伸ばしたが、直前で慌てて手を引っ込めた。
彼女が目を覚ましたからだ。
「ん…、ここどこ?」
まだ眠気が覚めていないのかぱちぱち瞬きをしながら部屋を見渡す。ようやく状況を理解したのか、彼女は驚き目を見開いて琉騎亜を見た。
「こっ、ここは…あいちゃんと俺の愛の巣…って感じかな」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、琉騎亜は頬を赤らめて照れたように首をかく。
普通、こんな状況に置かれたら人は困惑するだろう。ここは何処だ。こんな場所に連れ込んで何をされるのか。もしかしたら…。
ただ、彼女は落ち着いていた。部屋を何度も見渡すと、いつもの笑みを見せてこう言った。
「お姫様みたいなお部屋だね!」
琉騎亜は驚いたように目を見開いた。彼女は、本当は自信の置かれた状況を把握していないのでは無いのだろうか。
彼女は自分に繋がれた首輪と鎖をなぞりながら、何かを考えているかのように黙り込んでいる。
「…あいちゃん、俺、あいちゃんの事本当に好きなんだ。」
膝に置いた拳を握りしめ、心臓はどくどく動きその音は頭に響いていた。変に汗をかく。
「だからっ…この部屋で閉じ込めることにしたんだ」
勇気を振り絞り俯きながら伝える。彼女は今、どんな顔をしているのだろう?そう考えると怖くて顔を上げることができなかった。彼女の言葉を待ちながら琉騎亜は地面を見つめていた。
…彼女は静かに琉騎亜の髪に触れた。
「ありがとう。」
その言葉は紛れも無く感謝の言葉だった。