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「なあ、サイクロプス。お前は昔、この世界の人口の約四分の一を殺した化け物なんだろ?」
「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ……」
「言葉は通じない……か。けど、まあ、お前と戦えるなら、別にそんなことどうでもいいけどな!」
彼は地面を思い切り蹴《け》って、前に進み始めた。
それと同時にサイクロプスは、右拳で彼を攻撃した。
「おいおい、そんなんじゃ……俺には届かないぜ!」
彼はそう言うと、それを華麗《かれい》に躱《かわ》した。
「俺を倒してみろよ! お前は俺なんかよりずっと強いんだろう?」
彼はそう言うと、サイクロプスの腹部に向けて、ジャンプした。
「じゃねえと……やられちまうぜ!!」
彼はサイクロプスのシックスパックのうち、中心部に拳をねじ込んだ。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
サイクロプスはそんな声を上げながら、仰向けで倒れた。
さすがのサイクロプスも自分より小さな拳でこうもあっさり倒されてしまったことに驚きを露わにしているようだ。
「おいおい、お前の力はこんなものなのか?」
彼はサイクロプスを挑発した。
そうしないと、そいつが本気で戦ってくれないと思ったからだ。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
サイクロプスは雄叫びをあげながら立ち上がると、両拳を地面に突き立てた。
すると、地面が突然、膨《ふく》れ上がった。
そして、それは一本の棍棒《こんぼう》へと姿を変えた。
「ほう、どうやらお前は、土を操《あやつ》れるみたいだな」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
サイクロプスはその棍棒《こんぼう》を頭上《ずじょう》で振りかざすと、それで彼を叩き潰《つぶ》すために一気に振り下ろした。
彼は深呼吸すると、両腕をクロスして防ぐことにした。
「……ふんっ!!」
彼の体は少しだけ地面にめり込んだが、ダメージは受けていなかった。
「兄様! 大丈夫ですか!?」
物陰《ものかげ》(酒樽《さかだる》)から身を乗り出したリルが彼にそう言うと、彼はニシッと笑いながら、こう告げた。
「ああ、大丈夫だ。けど、これを何度もやられるのは結構やばいな」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
サイクロプスは、土製の棍棒《こんぼう》を再び振りかざすと、彼の脳天に向けて、勢いよく振り下ろした。
「兄様! 避《よ》けて!!」
リルが叫ぶと同時に布田《ぬのだ》は、サイクロプスのところへ走り始めた。
それをギリギリのところで躱《かわ》した彼は、一気に加速した。
「お前の攻撃……なかなかのものだった……。けど」
彼の拳に金色の光が集まる。
それは次第に大きな力となって、あらゆる効果を打ち消す……つまり、抹殺し得《う》るものとなる。
彼は、その一撃をサイクロプスの顎《あご》……つまり顎部《がくぶ》に入れるために、思い切りジャンプした。
「お前の攻撃は……単調すぎるせいで、回避しやすいんだよおおおおおおおおおおおお!!」
彼は拳に意識を集中させると、その一撃をサイクロプスの顎部《がくぶ》に光を連想させる勢いで打ち込んだ。
「布田式抹殺術……壱《いち》の型一番『瞬間天撃』!!」
その一撃は、サイクロプスの顎部《がくぶ》をいとも簡単に砕《くだ》いてしまった。
サイクロプスは苦痛と驚愕《きょうがく》が混じった声を上げる前に意識を失っていた。
仰向けで倒れるサイクロプス。重力の影響で地面へと落下する布田……。
その時間は、とても短いものであったが……サイクロプスにとっては絶好のタイミングだった……。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「な、なにぃ!?」
一瞬で意識を取り戻したサイクロプスは、彼を左手で掴《つか》むと地面に叩きつけた。
「……ガハッ!!」
これには、さすがの布田も吐血《とけつ》した。というか、これで気管が破けないわけがない……。
骨が砕《くだ》けなかったのは、不幸中の幸《さいわ》いである。
「お……お前……耐久力……高すぎだろ……」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
地面にめり込んだ布田は、サイクロプスに向けて、弱々しくそう言った。
「兄様! もういいです! もうやめてください!」
彼の元《もと》へと駆け寄ろうとするリル。
しかし、彼はそれを遮《さえぎ》るかのように、こう告げた。
「こっちに来るな! お前は……そこで……待ってろ!」
「で、でも!」
涙目で彼を心配するリルに対して、彼は苦しげな笑みを浮かべながら、こう言った。
「約束……しただろ? だから、お前は……そこで待っててくれ。頼む……」
重たい体を苦しそうに起こす彼の姿を見ていた彼女は涙を両手で拭《ぬぐ》うと、笑顔でこう言った。
「……分かりました。私は……ここで兄様のことを待つことにします……。だから……絶対に死なないでくださいね」
彼は「ふっ……」と笑うと、こう言ってサイクロプスの元《もと》へと向かい始めた。
「ああ、もちろんだ。こんなところで死んだら、あいつに顔向けできないからな……。さあて……それじゃあ、再開といこうか。なあ? サイクロプス」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
勝利を確信しているサイクロプスは、土製の棍棒《こんぼう》を振りかざすと、それを彼の脳天へと振り下ろした。
「遅《おせ》えよ……」
いつのまにかサイクロプスの目の前までジャンプしていた彼は、そんなことを言いながら、サイクロプスの額《ひたい》に拳を打ち込んだ。
「グオオオオオオオオオッ!?」
急な出来事に動揺《どうよう》してしまったサイクロプスは数歩《すうほ》後ろに下がってしまった。
「男同士の戦いに……道具なんて必要ないだろ」
サイクロプスが動揺《どうよう》している間に、着地していた彼は静かにそう言うと、サイクロプスの土製の棍棒《こんぼう》を蹴り飛ばした。
それは空中でクルクルと回転しながら、どこかに飛んでいった。
「……おい、何してる。早くかかってこいよ」
「グ……グオオオオオオオオオオッ……」
サイクロプスは、目の前に立っている人間が先ほどまでとは何かが違うことに気づいたが、パワーで負けるわけがないと思ったサイクロプスは、連打の嵐を彼に打ち込むことにした。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
巨大な拳が次々と彼に打ち込まれる。
しかし、彼はそれらを全て躱《かわ》していた。
ギリギリではなく、こちらの動きを先読みしているかのような動きで躱《かわ》していた。
「俺の力は少し特殊でな……。ピンチになればなるほど、限界以上の力を発揮できるんだよ……。こんな風にな……!」
彼は、サイクロプスの右手首に蹴《け》りを入れた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
泣き叫ぶサイクロプス。
しかし、彼はその一瞬を無駄にはしない……。
「布田式抹殺術……弐《に》の型一番……」
彼はサイクロプスの目を潰《つぶ》すために、思い切りジャンプすると、迷いなど微塵《みじん》も感じられない目で攻撃した。
「『神経抹殺』……!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
断末魔の叫びを上げながら、仰向けで倒れるサイクロプス。
何も言わずに着地する布田。彼は、サイクロプスの目の光が完全に消えるのでその目で見届けるまで、サイクロプスの側《そば》にいた。
それが分かると、すぐに合掌《がっしょう》し、お辞儀《じぎ》をした。
「お前のおかげで……俺はまた強くなれたよ。ありがとう……。向こうで会えたら、またやろうな……」
彼はそう言うと、糸が切れた人形のようにパタリと地面に倒れた。
「……兄様ー!」
彼が意識を失う直前に見たのは、自分のところに駆け寄ってくる涙目の幼女の姿だった……。