コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第2話「ニセモノ」
(ルビーside)
ーーー異変解決中ーーー
これが、今日の最後の任務だ。
…早く終わらせないと。
「ウガァァァァァ」
「…っ」
迫ってきた獣を俺は、次々となぎ倒していく。
…手応え…ないな。
なんだか最近……異変解決に楽しさを失っている気がする。
元々、楽しむべきものではないというのは分かっている。
だが……なんだか根本的に…というか…
「…っ」
ズダダダダダダ
「グァァァァァッッ」
けたたましい唸り声をあげて、砕け散る。
ーーー午後の19時ーーー
「嘘だろ、まだ残りが…」
「…はぁ、こりゃぁ今夜はちょっと遅くなるかな」
「『壊符』破壊拳」
スペルを唱える口と共に、俺は迫ってきた獣たちをいっせいにスペルで戦闘不能へともっていく。
…やはり、効率が悪い。
俺のこのスペルは、近距離での高火力攻撃に特化している。遠距離からの広範囲攻撃はあまり得意ではないといえるだろう。
だが、それだったら活用するのみーー
サッサッサッ
「「「ウガァァァァ」」」
獣たちは、次々と雄叫びのような声と共に俺に近づき、そして倒れていく。
コイツらを俺のところに集める。それも、できれば一直線に。だから俺は、木々が交わりあった隙間に入り込み、獣たちをスペルで一気になぎ倒した。
自ら身を投げ捨ててくるようなものだぞ…
…ん?何だ、この感じ…この感覚は…
「そこにいるのは誰だ」
「…へぇ。」
「…!その…声は、」
俺が見つめた、その先には…
相棒。紫霊が映っていた。
「なっ…お前、なんでこんなところに…」
「……」シュッ
「っ…!」
何なんだ、今のは…
あんな速度、今まで……
「『葬符』死に損ない」
「は?」
ドドドダダダダ
「チッ かすっただけか」
なんだ今の威力のスペルは…コイツ…下手したら俺と…いや、もしかしたら俺より…
「しれ…い…」
いや……コイツは、違う。
コイツは…紫霊であって…紫霊じゃない。
「誰だ、お前」
「あれ〜?自分の友達忘れるなんて、酷くな〜い?」
「早く真実を吐かないのなら…容赦しないぞ…それに、俺と紫霊は、友達以前に相棒であり恋人だ。」
「…ふふ、恋人…ねぇ……」
そう言い彼は不敵に笑みを浮かべる。
「…早く吐け。さもないと…」
「別に、何も嘘なんてついてないけど〜?」
「…お前のそれが大嘘って言うんだよ」シュッ
そう言い俺は『紫霊』の背後に回り込む。
ーー『壊符』破壊拳ーー
「はっ!?」
辺りに爆発音が鳴り響く。
「……急にどうしちゃったんだよ、お前〜、」
「それはこっちのセリフだ。早く真相を吐け。紫霊の人格を封印したのはお前なんだろ。」ヒュッ
「っ…何を言ってるんだよ。俺は元々…」
ルビーの攻撃を身でなんとか交わしながら、そう『紫霊』は言う。
「まだ言うか。その嘘もいつまで続くのか見ものだな。」
「だから……違うと……」
「問答無用だ」ガシッ
「ちょ、急に掴むな……!」
俺は、『紫霊』の首袖を掴み、彼に問いた。
「…俺は、アイツと…紫霊と付き合った日…紫霊に何を貰った?全部答えろ」
「…馬鹿にしてるのか。キーホルダー…だろ?」
「……残念だな。もう1つあるんだよ。ということでお前は紫霊ではない」
「なっ、ひとつは合っていたのでは…」
「俺は、『全部』と言った。答えられないのならお前は偽物だ。」
「…それはちょっと気が早すぎではないか?ただ単にあの紫髪が忘れていた可能性も…」
「あっ。」
「フフ、自分で吐いたな」
「あぁ…お前そういうことかよ!ふざけるな!我を弄んで…!」
「…黙れ。答えろ。お前の目的はなんだ」
「……チッ…バレたならしょうがない。だが、その質問に答えるのは断る。」
「なっ…お前まだ意地を……」
「…はは……意地なんて張ってはないさ。だが、そんなに余裕こいてていいのかい?」
「それはお前の方だろ」ヒュッ
「なっ、早!?」
「…なんて言うと思ったか?」
「…は?」
「…俺を甘く見るなよ。」ガシッ
なっ、コイツ急に…
グギギギギギ
「っ…!」
ダメ…だ。力が…強い。きっちり掴まれてる。
早く、解かないと…
だが、俺が今、力を出したら…
間違いなく、紫霊は……!
そんなの、そんなの、、できるわけ…、!
どうすれば…!!
俺が必死に考えを巡らせているその時。
「……るび…ぃ…」
ふと、さっきよりも聞き慣れた声が…聞こえる。
「なっ、お前…なんで…」
「俺を…殺して…くれ…!」
「…っ、そんなの、俺には無理だッッ!!」
せっかくつなぎ止めた命を。
やっと受けることのできた愛情を。
俺の大切な仲間、相棒、恋人を。
また、失わなければいけない?
そんなの…耐えられな…ッッ!!
そんなことをしなければならないのなら、もういっそ俺は…!
だめだ……何も出来ない……
「お願いだ……!」
「……っ、!!」
やめろ…やめてくれ…今、俺にどちらかを選べと言ったって…俺には分からな…
「ごめんね、ル…」
それが、言い終わらないうちに…
「チッ、不覚だった…あの野郎…」
紫霊は…相棒は…憎たらしい悪魔に、再び呑まれて言った。
「紫霊!!」
……何故、俺に謝って……
俺の方こそ、謝罪しなければならないのに…
「あの野郎……下手な真似しやがって……」
……コイツ…
「…さっきからあの野郎あの野郎うるせぇんだよ…」
「お前に、紫霊を呼んでいい権利はない。」
「…ごちゃごちゃうるせーよ!!もういい!早く消え去れ!!」
そう言い、『悪魔』は目の血相を変え、俺を殺しに来ようとする。
だが、攻撃が丸見えだぞ…
「っ……!?」
嘘…だろ…反応、できなかった。
完全に動きは読めていたはずなのに…
目にも止まらぬ速さで飛んできた……
コイツ…一体どれほどの力を隠して…
「ふふ、反応できなかったみたいだねぇ?」
「っ…!黙れ」
「そういうなら実力を見せてもらわないと」
下手に突っ込むのは得策ではない…
かといって懐を突くのも、コイツの動体視力に勝る見込みは低い……
ならば……
「へぇ、そう来たか……でも残念。」
「……は?」
読まれた……また…ダメだ、もっと考えなくては…ありったけの策を考えなければ…
「おっと、考え事してる暇かい?」
「っ……!」
完全に、押されてる……
今までの戦闘でこんな窮地に陥ったことはほとんどなかった…
圧倒的に…負けてる。
クソ、一体どうすれば…!
「そろそろキツイんじゃない?ちょっと息が上がってるよ」
「…そういうお前こそキツイのではないか?」
「……ふふ、さぁね。」
「……」
…なにか、大きなダメージを与えないと…
このままでは、相手を戦闘不能状態へもっていくのはおろか、魔力すら削れねぇぞ…
いや、削る方法はひとつだけある…
自分の魔力を犠牲にして生まれるダメージ。
それは、相手に膨大な魔力デバフを付与することができ、戦闘不能に近い状態へともっていける。
だが……
いや、そんなことを考えている暇はない。
きっと紫霊は、今もコイツの中で苦しんでいる。
なら、相棒、恋人としての俺は…一刻も早く、この忌々しい悪魔からの束縛から助け出さなければ。
「すまん…ちょっと手荒くなるぞ……でも、お前は脳筋だから、耐えられるよな!」
……俺は紫霊を傷つけた。
だから、もう二度と傷ついてほしくはない。
それは確かだ。
だが……
俺が今、決意を決めないと、俺とお前、どちらともひどく傷つくことになる。
それだったら、賭けに出なければならない。
たとえそれが、俺にとってどんなに苦難な選択だったとしても……
失いたくなくても…きっと……
今、それを果たせるのは、俺しかいないのだから…
「…悪い。ワガママな俺を許してくれ!紫霊!」
「『裏符…』」
「馬鹿だね…何回繰り返したら…ってコイツ、攻撃してこな…」
頼む、効いてくれ。
「魔力双償」
「は?ぅ…うぁ”ぁ”ぁ”ぁぁぁぁぁ!!!」
「……俺の紫霊を苦しめやがって」
…そして俺は、紫霊が起きるのを待った。