コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
海上自衛隊イージス艦きりしま艦内通路において、映画撮影のロケ班がカチンコを持ち、鳴らす。
「よーい、アクション」
スタンドマンが派手な格闘戦を演じ出す。
「おおっ、芝居がリアルだな」
見とれているうちに、ガンアクションのシーンとなり──銃口がこちらを向いた!
発砲だ!
「うわ!」
『艦内で撮影スタッフが暴れている! 実銃だ!』
報告を受けた坂東武彦一等海佐は硬直した。副長の宮本芳孝三等海佐が銃を突きつけてきたからである。
「艦長、ただいまよりミサイル護衛艦きりしまは私の指揮下に入ります」
状況は同型のミサイル護衛艦こんごうにおいても捉えられていた。
現在きりしまは三浦半島から東京湾に向けて航行している。
『きりしま、データリンクを切断、現在きりしまを味方艦として認識できない』
『こちら護衛艦こんごう、現在きりしまに停船命令が入っている』
『残念ながら本艦は現在、自衛艦隊とは別の意思に従って行動している』
『! きりしま、ミサイル発射しました!』
『きりしまからこんごうに向けてハープーンが発射された! 対空見張りを厳となせ』
『対空戦──』
『待て! 民間機、民間の船舶に当たる! 撃つな!』
そう命じたのは、一昨年のクーデター事案で米海軍から逆転勝ちした当時のこんごう艦長、東郷晃司一等海佐である。一度デスクワークを経験してから、こんごうに隊司令として舞い戻った。
『ハープーン、なおも接近!』
『こいつはきりしまには当たらん! 威嚇だ!』
盛大な水飛沫をあげて、ハープーンはきりしまの舳先の前方に着水した。
「威嚇のミサイル……」
「次は威嚇にあらずというメッセージだ、市ヶ谷に至急報告を!」
市ヶ谷も官邸の判断を仰ぐという結論となった。
* *
東京都千代田区永田町──首相官邸。
内閣総理大臣畠山正晴は、内閣危機管理監の仁科完治元警視総監を連れ立ち、内閣危機管理センターに入った。
「テロリストの要求は?」
「きりしまが官邸のアドレスにアクセスを求めています」
「いかがなさいますか?」
「受けてくれ」
目つきの鋭い三等海佐が画面に出た。
『宮本芳孝三等海佐です』
『畠山だ』
『2時間で我々は東京を火の海にできます』
『目的はなんだ』
宮本は、やおらスマホを取り出した。
『アメリカ製スマートフォンアルフォン、これには通信傍受機能があります。CIAに筒抜けです。このスパイスマホを畠山首相の名において告発し、リコールを要請してください』
『馬鹿な真似をして社会を混乱させるのはよせ!!』
* *
桜祐警部、千代田春警部は衝撃を受けた。
アルフォンについての告発が事実だったからである。
元CIAでもあるアバンギャルド中央執行委員長シュターデンが流したファイルに入っていたという噂がある。
「アルフォンの通信傍受ってまじすか」
若い日向竜介巡査部長は聞いた。
「何も知らないんだね、本当だよ」
千代田春は日向竜介に言った。
祐は、春が竜介に当たりが強いと感じた。
* *
人民解放軍私服が狼狽した。
「どういうことだ! 通信傍受機能の告発は、人民解放軍が授けた策ではないぞ!」
「我々は反米のレジスタンスアバンギャルドだ!」
中国当局としては、自国も行っているネットパトロールをまるで告発されたようで気分が悪いのだろう。
だが、アバンギャルドは、CIAと影の帝の関係を糾そうとしている。
「もういい! 人民解放軍特殊班も用意はいいな!」
女性兵士が敬礼した。
「はっ!」
その女性兵士を山本剛志警部が見たらこう言うに違いない──
「菊池ゆかり!? 生きていたのか!?」
と。
彼女こそ、山本剛志の婚約者であり、当時の警察庁警備局長畠山正晴警視監が置き去りにすることを指示した、菊池ゆかりであったのだ。