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「夏休み」
8月3日
今日は母さんにいい加減、そろそろ玄関先でもいいので外に出て。と泣かれた。
ここまで大泣きされたこともなかった俺は驚いて、昔歩いていた河川敷を少し散歩しに行くことにした。昼は人が多いから、夜は暗く、不安感が煽られるので、早暁、外に出た。
二桁年外に出てない俺は玄関を少し開けた光でさえもまぶしくて、こんなに目がダメージを受けるてらてらとした日光を浴びながら歩いて過ごしている外の人間と同じ道を歩くのだと思うと本当に心の底から億劫で仕方がなかった。
家は河川敷沿いのところにあり、河川敷には10分もかからないので、本当に少し歩くつもりだった。
意味が分からないほどの光量を発してる太陽に対して、その光を避けるように、自分の目は地面と見つめ合いながら歩いていた。なんだかんだであっさりと河川敷についた。
石でできた少し急な階段を上がると、草がぼうぼうに生えているが、ほどほどに整っている、散歩コースに入った。
左手には、階段を下った先に、少し開けた野原のすぐ横にドス黒く濁った川がある。
歩こう。散歩しよう。母さんを少しでも安心させよう。そういった思いを胸にいざ散歩しようと左足を地面から少し離した途端、
足がほつれて思いっきり体を地面に強く打ち付けた。
一瞬自分でも何が起きたかわからなかったが、転んだんだと徐々に脳が理解し始める。
幸いなことに早暁を選んだため、こんなみじめな姿をした俺を見かけたものはいない。と安心してゆっくり起き上がろうとした
だが、こんな姿を見られたくないという気持ちと裏腹に少し離れたところに、少年らしき人が見えた。
涙ではないと信じたいが、心無しか目がかすんでいる。
しばらく静止して、よく見ると暗くくすんでるが、きれいな紫色の髪の毛に学校のものと思われるジャージを身にまとった少年が立っていた。
どうすることもできず、呆然と地面に体をつけていると、少年がとぼとぼとこちらにむかってきた。
そうするとゆっくりと俺目の前にしゃがんだ。
「あの。大丈夫ですか?」
「え?」
自分でもびっくりするほど弱弱しい声でしかも困惑の返事をしてしまった。
「…一旦座れますか?」
「あ、は、はい…」
その言葉を聞いて、そうだ。起き上がらなきゃ。と、思い出しゆっくりと体を起こした。
「…」
少年は無言で右腰に下げている救急ポーチと思われるポーチから絆創膏を取り出した。
その姿をさも無関係化のように見つめていた。
「あの、膝、失礼しますね。」
「え?あ、ぁあ、はい」
俺の返事を聞いてから、少年は絆創膏を俺の膝にやさしく、ぺたり。と貼った。
そのあと、はがれないよう定着させるためか、優しく貼った部分をさすってくれた。
「…あ、ありがとうございます…」
とっさのことで、わけわかんなくなりながらとりあえずお礼をしなきゃと思いお礼をした。
ここで、よくよく考えると、随分とこの少年は俺の好みな顔だちをしていた覚えだ。
「まあ、さすがに少し痛々しすぎたんで。情けです。」
すこし言い方はキツいが、優しさはにじみ出ていて
書きながら思い返しても心が満たされる感覚だ。
少年とは、なんとなく流れですぐそこのベンチに移動して、少し談笑することになった。
「…」
「こんな朝っぱらに何されてたんですか?」
俺が口を閉じていると話題を振ってくれた。こうした気遣いにすぐ情けなくなってネガティブになる癖はいつまでたっても抜けない。
「あ、…朝の散歩を…」
「今日からですか?」
「え?」
予想外の返しに少し困惑した。
「あー、や。僕、先月の27日から毎朝この時間に走りに来てて、いつも見かけないからてっきり…違ったらごめんなさい。…というか普通にキモい質問か。怖がらせたらすみません!」
「あぁ、そ、そうなんですか。
今日からです。」
なれない敬語で返事をする。もう最低限会話できればと結構もう投げやりだ。
「あ、自己紹介まだでしたね。僕、剣持って言います。
夏休み始まってから体力づくりに朝からジョギングしてるんですよね」
「すごいですね。で、でもなんで、こ、こんな早朝に」
「え?…あー…恥ずかしい話普通に部活メイトに努力してるのばれたら恥ずかしいんで…」
と、少し照れながら話してくれる。思春期らしくていいと思う。
「恥ずかしいんですか?お、俺だったら自慢しちゃうかな~…ハハ…」
「まぁ、なんというか、努力が見えないのにめちゃくちゃ強いってめっちゃ恰好よくないですか?そうなりたくて…」
俺にはない考えで尊敬できる。こんなに努力家な少年と接していると自分がゴミだと再自覚させられる。
しかも、気を使ってなのか、明らかニートなこと丸だしな俺のことは聞かないでくれている。
しばらく談笑して、今日は解散という話になった。
夏休み中は毎日この時間ここら辺走ってるいるから、と、言って解散した。
これは、ほぼまた会おうと言ってくれてるんじゃないか。と思ってしまう自分にまた嫌気がさす1日だった。
剣持くんを好きになってしまった。
絆創膏を貼ってくれて、こんなみすぼらしい見た目をした俺と談笑してくれたといういたって特別なきっかけもない理由で。
だが、剣持くんに会うためになら、毎日頑張って河川敷に通い始めるのもわるくないしれない。
コメント
1件
読ませていただきました。引きこもりの主人公が、久しぶりの外出で転んでしまったところを剣持くんに助けられる場面、本当に印象的でした。絆創膏を貼るときに「失礼しますね」の一言があるのが、距離感を大切にしてくれる優しさに感じられて、じんわりきました。「今日からですか?」の質問も自然で……ちゃんと主人公を見てくれているんだなって。最後の「好きになってしまった」には、切なくもあたたかい気持ちになりました。続きが気になります。