この作品はいかがでしたか?
216
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「最後の時間を君と」
「巨大隕石衝突まで、あと残り50分となりました。皆様、この短い間ですが、大切な人と過ごしてください。」
赫「大切な人か……、こっちはバイト中なんだけもなぁ…笑」
隕石がこの世界に落下するまであと1時間というわずかな時間。一体誰と過ごせば良いのかと、赫はため息をついた。
赫「お客さんと?こんな人気がねえカフェに来るか?普通。」
赫「最後くらいは彼奴に会いたかったな…」
その時、カランコロンと…ドアが開いた。赫は驚き、目をまんまるく開く。
赫「ぇ……。」
震えながらも赫は客人を見た。
客人は赫をじっと見つめて、ずっと閉じてあった口を開いた。
「久しぶり」
その言葉に赫の目からは水が溢れた。
赫「なんでっ今なんだよ、紫…」
紫は、一度時計を見てからまた赫の方を見て言った。
紫「桃から聞いた。お前がここで働いてるって…、だから久しぶりに会いに来た。」
赫「もっと早く会いにこいよっ!」
泣きながら、赫は紫に抱きついた。
震える手で紫を離さないと言わんばかりに、紫の服を掴んだ。
紫「ごめん…遅くなって…」
紫の表情は暗かった。
隕石衝突まであと、40分。
赫「はい、どーぞ。」
カウンターから、コーヒーを出す。紫はそのコーヒーを一口飲み、優しく微笑んで、「美味しい」と一言だけ赫に感想を伝えた。
赫「お前が最後の客人だよ…」
紫「そっか、…嬉しいな…」
赫「……何でこんなに遅かったの。俺、ずっと待ってたんだよ?」
赫の表情は真剣だった。そんな赫を見て、紫は心が痛んだ。
紫「…親が婚約者を決めてて」
紫の家系は金持ちだ。裕福な暮らしをしていたから、婚約者も親が決めていた。
赫「…婚約者は…美人?」
紫「いや、断然赫の方が可愛い。」
赫「…そ、」
頬を赤らめ、目を逸らす赫を見て、
紫は笑った。
紫「久しぶりに照れた赫見れたっ、笑」
紫「赫の照れ顔めっちゃ好きだわ~笑」
“好き”その言葉が赫は嬉しく、恥ずかしさと嬉しいさが混じり、もっと顔を赤くした。
赫「…ばか。」
隕石落下まであと30分。
赫「…ねぇ、婚約者はどーしたの?最後は一緒に住まないの?」
それを聞いた紫は呆れた表情で答えた。
紫「婚約者、浮気してたわ…」
赫「ぇ、まじ?どんまい笑」
笑いながら、赫は答える。笑う声にまじって、少しだけ安心したようなため息も聞こえる。
紫「ねぇ、最後に赫のクッキーが食べたい。」
赫「え?今から…?間に合わないし…」
紫の、突然の無茶振りに赫は慌てる。
紫「…クマのクッキーが良い。赫の。」
赫「随分と懐かしいのを…」
クマのクッキー。それを聞いて赫は渋々、冷蔵庫から材料を出した。
卵を1個…。
砂糖を3g…。
ココアパウダーを5g…。
サラダ油を40g…。
赫「……。」
なめらかになるまでよくかき混ぜて、棚からホットケーキミックスを出す。
紫「…カフェ店員がホットケーキミックス笑」
赫「別にいいだろ~?」
ホットケーキミックスを150g…。
お母さんから貰ったゴムベラで軽くかき混ぜていると、紫がチョコチップが入った容器を赫に渡す。
赫「…なにこれ…。」
紫「使って。俺、チョコチップ好きだから」
赫「はいはい…。」
3分後。
赫「よしっ、生地完成!次は形だな!」
六等分に生地を分けて、まんまるい形を作る。少し大きめな生地に小さなまるい生地を二つ左右につける。クマの形だ。オーブンに入れ、15分のタイマーをつける。
赫「…ふぅ」
紫「ありがと…」
赫「どーいたまして。んにしても、クマのクッキーなんて久しぶりかもなぁ。」
紫「10年ぶり…か。」
赫「ぁ~…そうなるか。」
10年前。赫は紫と小さな頃からよく一緒に居た。何度もお泊まりをして、ずっと一緒だった。仲良しだった。
ある日、赫の紫は一つのカフェに行った。森の中にある小さなカフェ。
お客さんは居なく、たまに小動物が迷い込むくらいだった。
紫「おじさん!何作ってるの?」
おじさん「クマのクッキーだよ。君たち、一緒に作ってみるかい?」
紫「いいの!?赫、作ろ!」
赫「え…」
紫と赫は真反対の性格だった。紫は元気で、赫は内気で人見知り。そんな2人が仲良くなることも不思議な事だった。
赫「いいんですか…?」
おじさん「勿論。」
おじさんはにっこりと笑い、2人とくまのクッキーを作った。
赫「…懐かしい、」
思い出した赫は持っていたマグカップのとってを握りしめる。
紫「おじさん、今…どーしてんの?」
紫がそう言うと赫の表情は少し暗くなった。
赫「入院中…癌だって…」
紫「そっか…」
2人の間に重たい空気が流れた。気まずく、両方喋らなくなった。
ピーピー。
タイマーなった。赫はタイマー止めて、オーブンを開けた。
赫「よし…」
赫はもう一度、棚から何かを取り出す。容器に入ったマシュマロだ。
キッチンバサミで、マシュマロを半分に切り、クッキーに乗せる。また、オーブンに入れて3分のタイマーをつける。
赫「デコるやつねぇかな…」
紫「気をつけろよ?」
台に乗って、一番上の棚を開ける。
赫「あった!」
奥の方にあった容器を取り出す。ハートの小さなチョコだ。飾り用で、よく使うものだったが、最近使う回数が少なく、後ろ側に置いていたのだ。
紫「腐ってない?」
赫「だ、大丈夫だよ~」
苦笑いしながら、台から降りる。
すると、タイマーが鳴る。オーブンを開けるとマシュマロが溶けていた。
赫「これで、こうして…」
さっき取り出した、ハートのチョコをマシュマロの上に乗せて鼻代わりにする。チョコペンで一つ一つに目をつけていく。
赫「よいしょ、っと」
冷蔵庫に入れて少し冷やす。
赫「…終わった…あと待つだけだな」
紫「ごめん、急に作らせて…」
赫「大丈夫~、俺も最後に食いたいし笑」
残り10分。
赫「…ねぇ、来世…あるかな?」
紫「どーかね…」
冷めきったコーヒーを飲みながら紫は答える。
紫「ま、あると信じよ」
赫「だな。神様仏様紫様ぁぁ、」
紫「なんで、俺もなんだよ笑」
2人は残り10分の間を笑いながら話した。
残り3分。
赫「そろそろかな。」
赫は冷蔵庫からクッキー取り出す。
見た目は美味しそうなクマのクッキーだ。
赫「はい、どーぞ。」
紫「ん、あんがと…」
クッキーを一口食べる。甘い味が口の中でゆっくりと溶けていく。何年経っても、このクッキーは甘かった。作った人が違っても、あまり変わらないようだ。
残り2分。
紫「うまい…」
赫「…だな。」
2人の口数が段々と減っていく。あともう少しで死ぬという恐怖に怯えている。
残り1分。
ついに、誰も喋れなくなった 。
暗く重い空気が流れて、キャンドルの火も消えかけていた。その時、紫が口を開く。
「愛してる。ずっと前から。」
赫「ぇ…。」
はっと思い、赫は顔を上げる。
紫は涙を流して、赫を見つめた。
紫「もっと、早く言えばよかった…ごめん」
赫も涙を流した。
赫「遅いよばかぁっ、全部来るのも、言うのも、全部遅すぎる!」
赫は紫に抱きつき、震える手で紫の頬に触れる。紫も赫の頬に手を触れる。
紫「1時間…経ったの1時間だったけど…長くて、短い時間を過ごしてくれてありがとう。」
赫「…来てくれてっ言ってくれて…ありがとうな…っ」
「最後の時間を君と過ごせて幸せでした。」
赫「愛してる、」
紫「俺だって。」
2人は白い光に包まれた。
コメント
3件
ウワァァァァァァァ泣くよ!なんか最近泣いてばっか!神様…2人に幸せな来世をお恵みくだs((
来世あります?ありますか?ありますね?ありますよ!楽しみ~!
悲しいけど...どこか嬉しそう..この2人、来世で結ばれてるといいな...