テラーノベル
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天使狩りが終わって世界には平和が訪れた。執事達は悪魔との契約を破棄して普通の人間に戻ったし、私の主様としての仕事も終わり。もうこの世界に私の存在は必要ない。それなのに指輪を外す気になれなかった。だって、指輪を外したらきっともう二度とこの世界に来ることができないと悟っていたから。だって、この世界に来られなくなるということは大好きな執事達とお別れすることになるということだから。
でも、今まで天使狩りや貴族からの依頼でしか役に立っていない私がこの世界に留まってもいいのかな?私がこっちの世界でできる仕事とかあるのかな?
私がひとりベッドの中で悶々と考えていると微かにノックの音が聞こえてそっと誰かが部屋に入ってきた。長い青い髪を下ろしているので一瞬誰か分からなかったがボスキだ。普通ならもう寝ている時間だし、安眠サポートも頼んでいないのにどうして?私が不思議に思っていると、ボスキは静かにベッドまで歩いてきてベッドサイドの椅子に腰かける。
「寝られないんだろう?主様」
私の頭をそっと撫でながら問いかけてきた。
『…うん、なんか色々考えちゃって…』
「俺もなんだ。いつもなら横になって目を閉じるだけで寝られるのに、今日は全然眠れなくてな…
主様はどっちの世界で暮らすつもりなんだ?それによって俺の未来も変わるから、気になっちまってな。…もし、あっちの世界で暮らしたいって思ってるなら俺にそれを止める権利はない。だが、もし迷っているのなら…主様、俺と一緒に暮らしてくれねぇか?街で家を借りるか買うかして…一応家具とか壁紙を売ってる店で家丸ごとのコーディネートを考えるっていう仕事をしないかと声を掛けてもらってるから収入も問題ないと思う。退職金もあるしな。…それでだ、主様。アンタのこれからの人生を俺にくれねぇか?俺は二人で普通の恋人同士として…いや、夫婦として、アンタと暮らしたい。俺の願いを叶えてくれないか?」
ボスキからの突然のプロポーズに私は胸が高鳴った。だって今まで主様と執事だったから、裏庭でこっそりキスを交わしたり手を繋いだりするだけしかできなかった。お互い恋愛感情で好き合っていたとしても、私は主様でボスキは執事だったから一線は越えられなかった。安眠サポートと称してベッドで抱き合うことはあっても、肌を重ねることだけは絶対にしてくれなかった。それがもどかしくてじれったくて、こんなにつらい恋愛をするくらいなら二人でどこか遠くへ行ってしまおうかと半分本気な冗談を言うこともあった。でも、もうこそこそと付き合う必要もない。私はもう主様じゃないし、ボスキももう執事じゃない。これからは堂々と恋人を名乗れるし、なんなら結婚だってできる。そんな幸せの可能性が詰まった世界から消える理由などなかった。
『うん、ありがとうボスキ…私、ボスキと幸せになりたい。ただの人間としての私のことも愛してくれる?』
「当然だ。主様だから好きだったんじゃない。アンタだったから惚れたんだ。俺が命を懸けてでも守りたいと誓ったのはアンタだけだ。どんな欠点があろうと醜かろうと俺のことを怖がらずに愛してくれたアンタを愛さない訳が無いだろ?」
ボスキの言葉に涙が止まらなくなってしまった。初めて会った時から恋に落ちて、最初は警戒されて舌打ちされることも少なくなかったのに、だんだん自分からお茶の淹れ方を勉強してハウレスから奪ったお菓子と一緒に出してくれたり、昼寝に誘ってくれたり、一緒に燻製をしてお肉やチーズの食べ比べをしたり…と心を開いて優しく接してくれるようになった。いつの間にかお昼寝は腕枕をしてもらうのが当たり前になって、燻製のためのチップを私の好みの配合にしてくれるようになって、寝る前に額にキスをしてくれるのが日常になった。そんな甘酸っぱい恋愛から夫婦になろうとまで言ってくれるようになって、ボスキが私を本気で愛してくれていることが伝わってきた。
「…そんなに泣くなよ。俺は笑顔になってほしくて言ったつもりだったんだぞ?」
『嬉しすぎたんだよ。ボスキがここまで愛してくれてるって分かって、すごく嬉しいの』
「そりゃよかった。…それなら答えはもう決まったな?」
『うん、この世界でボスキと一緒に暮らす。ボスキ以外の人と一緒になるなんて考えられないよ』
そう言うとボスキは私の涙でぐしゃぐしゃになった顔を引き寄せて唇を重ねた。
翌日早速新居を探すために二人で街に出た。ボスキに声を掛けてくれたというお店に通いやすい場所で、パレスからもそんなに離れていなくて、少し広めの部屋がいい、と不動産屋さんと交渉して幾つか候補を絞ってもらった。私は寝室は一緒でいいし、キッチンもそこまでこだわりもないし、お風呂とトイレが別になっている物件なら多少狭くても構わないと言ったのだが、ボスキは意味ありげに微笑んで「広いほうが後々楽だからな」とファミリー向けの物件の内覧を申し込んだ。
物件が決まると部屋の壁紙やカーテンを変えて、家具なんかも買わないといけないだろうな、と思っていたがボスキは建設業者に就職したハウレスを連れてきて水回りから部屋の間取りや収納など大々的に工事し始めた。引き払うときはどうするんだ、と訊くと退職金で購入したので好きにしていいから心配要らないと言われてしまった。
工事が済むまではパレスで寝起きしていたが、執事達はそれぞれ就職先や新居を見つけてだんだん人数が減っていった。
ベレンと一緒にパレスで孤児院をやりたいのだというベリアンと二人でお茶を飲みながら工事が終わって内装を整えたら私もボスキも出て行くことになるんだよね、とちょっと寂しくなってしまった。そんな私を元気づけるようにベリアンは優しく微笑んでこう言った。
「私とベレンはずっとここに居ますからね。いつでも帰ってきてください。全員が集まることはないかもしれませんが、アモン君には庭の手入れをお願いしていますし、ミヤジさんの学校とも提携する予定なのでミヤジさんとラト君もちょくちょく来てくださいます。街で暮らしている執事は多いですし、ロノ君もお店を開くと言っていたのできっと誰かしらと会うことができますよ。あ、そうです!皆でお泊り会を開くのはどうでしょうか?事前に伝えておけばきっと全員集めることもできますよ。一番広い部屋に19人と1匹分の布団を敷いて枕投げなんてしたらきっと楽しいでしょうね」
『私も枕投げ参加するの!?絶対枕が飛んでくるの速すぎて見えないって!』
「ふふ、やっと笑ってくださいましたね。私達はいつまでも主様の味方で、主様の幸せを祈っているのを忘れないでくださいね。ありえないとは思いますが、ボスキ君と喧嘩したりしたらいつでも帰ってきてください。ここが主様の実家になるのですからね」
その言葉で皆散り散りになっても団結しているのが感じられて、飛び立っていく皆を見送る寂しさが減った。皆なんだかんだ言ってパレスに帰りやすい距離に店を開いたり診療所を作ったり学校を作ったりしている。きっと少し街を注意深く見れば執事の誰かには会えるだろう。それを楽しみにして私も引っ越しの準備を進めた。
「主様、リフォームが終わったから内装も整えて、家具の搬入もした。いつでも引っ越せるぞ。主様の準備が終わり次第引っ越そう」
久しぶりにボスキと一緒の夕飯を食べていると、ボスキは家の準備が済んだと私に教えてくれた。寂しいけれど、これでパレスとお別れか。でもいつでも来ていいって言ってもらったからちょこちょこ顔を出そう。
『もう引っ越しの準備は大体終わってるから、明日にでも引っ越しできるよ』
「そうか。じゃあ明日引越ししちまうか。ベリアンさん達に挨拶しないとな」
翌朝、大きな鞄を何個も馬車に積んで引っ越しの準備は終わった。玄関前には残っているベリアン、ベレン、ロノが見送りに来てくれていた。
「主様、ちょっと手続きに手間取ってるんですけど、絶対に街で料理屋をやるんで食べに来てくださいね!」
「困ったことがあったらいつでも相談しに来てね。約束だよ?」
「主様、いつでも帰ってきてくださいね。ボスキ君もたまには顔を出してくださいね」
3人の優しい言葉で私はやっぱりこの人たちが大好きなんだなと改めて感じる。離れていてもずっと繋がっているような安心感がある。これからどんなことがあっても皆を頼りながらボスキと一緒に頑張っていきたい。
三人にお礼とこれからもよろしく、と伝えると嬉しそうに頷いて身体を大切にして無理はしてはいけないと釘を刺されてしまった。
新居に荷物を運びこんで、完璧に整えられているウォーキングクローゼットに服をかけていく。普段使いしやすい服だけを選んで持ってきたつもりだったのだが、どうしても気に入っているドレスなども持ってきてしまったのでクローゼットはあっという間に半分ほど埋まってしまった。
あとは細々とした日用品なので必要な場所に必要なものを持って行って、ボスキと二人で何とかその日中に整理をつけられた。
食材がなかったので外で夕飯を食べてきて、お風呂に入り、ボスキの髪にヘアオイルをつけて乾かしてやり、自分の髪も乾かしたら寝る支度は終わった。
「悪ぃな、主様に髪の手入れをさせちまって。どうしてもアンタに手間をかけちまうのがもどかしいな。右手が使えたらよかったんだが…それかアモンのところで風呂に入れてもらうのもありか?」
『ボスキの髪のお手入れ、ずっとやってあげたかったの。だからアモンに頼まなくてもいいよ。私が全部やってあげるから』
「面倒じゃねぇなら嬉しい。これからはこうやって主様に触れることもできる訳だしな」
ボスキが振り返って私を抱きしめ、そのまま抱えてベッドルームに連れて行く。
「じゃあ、今まで我慢していた分、全部ぶつけてやるから覚悟しろよ?動けなくなっても俺が飯の支度から掃除洗濯もやってやるから何も心配しなくていい」
そう言ってボスキは私をベッドに寝かせるとぎらつく瞳で乱暴に唇を重ねた。
それから毎晩のように体を重ねて、私が目を覚ますころにはボスキは仕事に行っていて、朝食が用意してあるのが続いた。流石に養ってもらっているうえに朝ごはんや弁当の支度もしないのはちょっと申し訳ない。私は次こそ早起きして朝ごはんを一緒に食べるんだ、と決意しながらボスキ自ら燻製した肉とチーズ、パン屋さんで朝から買ってきてくれたであろうパンに齧り付いた。
朝も起きられるようになって、簡単ではあるが朝食を用意してお弁当も作れるようになってきた頃、私は体調を崩して毎日のように食事を吐き戻してしまい、うどんとトマトと果物くらいしか受け付けなくなってしまった。ボスキにすぐ治るから大丈夫だと無理して笑って見せるが、ボスキは納得できない様子で私を抱えてルカスが開いた診療所に連れて行った。
「おやおや、主様…少しお痩せになりましたね?」
「最近ずっと吐き続けててな…何かの病気じゃないかと」
「それは大変だね。連れてきてくれてありがとう、ボスキ君。主様、体調が優れないときはすぐに来てくださいとあれだけ言ったのに約束を守っていただけないなんて悲しいです」
『ご、ごめん…しばらくしたら落ち着くかなぁって思って…』
ルカスはその言葉ではぁ、と溜息を吐いて私に向き直る。
「いいですか、少しでも体調が悪いと感じたら相談だけでも良いので来てくださいね?約束ですよ?また無理して担ぎ込まれるのは嫌でしょう?」
『…はい』
それから色々検査されてルカスはにこやかに結果を伝えてくれた。
「軽い栄養失調と脱水、貧血がみられますね。最近食事を吐いてしまうとのことだったのでそれのせいでしょう。…それと、おめでとうございます」
「おめでとう…?…!まさか」
「ふふ、ご懐妊です。今は3ヶ月頃でしょうね。一番悪阻が酷い時期なので食べられるものだけでいいので吐かない程度に、食事の回数を増やして一度に食べる量を減らしたりして対処してください。あと、水分はしっかり摂ってくださいね?」
ルカスの言葉にボスキは嬉しそうに私を抱きしめた。
「あぁ…やっと夢が叶った。使っていない部屋があっただろ?あそこは子供部屋にするつもりだったんだ。主様に似て優しくて人に好かれる子になってほしいな」
『ボスキ…私も嬉しいよ。でも、ボスキに似てお昼寝が大好きでものぐさな子でもきっと可愛いよ』
「…次の患者さんを呼びたいからそういうのはお家でやってね?」
ルカスに診療所から追い出されてもボスキは私を抱えたまま家に戻って、靴だけ脱いでベッドに私を寝かせて自分も横になる。
『えへへ、なんか想像できないな。ボスキが赤ちゃん抱っこしてるの』
「そうだな…抱っこだと義手が冷たくて痛いだろうから、ベビーカーと抱っこ紐は買わないといけないな」
『楽しみだね。フルーレのお店で子供服見に行こうかな。沢山可愛いお洋服着させてあげたいなぁ』
「そうだ、他の執事達にも伝えていいか?多分全員が押し寄せて一部屋分くらいプレゼントが届くと思うが、貰えるもんは貰っとこうぜ」
『ふふ、それいいね。楽しみだなぁ』
まだ膨らんでいない腹を二人で撫でながら、どうか元気に生まれてくれますように、と願うのだった。
コメント
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読み終わりました…🖤 ボスキの「アンタのこれからの人生をくれ」ってプロポーズ、胸がぎゅっとなりました。主様じゃなくて“アンタ”だから好きだったって言葉、重くて温かくて、じんわり涙が出ました。ベリアンの「ここが実家」も優しくて、皆がそれぞれの道で繋がってるのが素敵。最後の妊娠報告、ボスキが赤ちゃん部屋を見越してたってところで「ああこの二人、本当に幸せになるんだな」って思えました。甘くて切なくて、すごく良い話をありがとうございます🤍🥀