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スマホで時間を確認して、思ったより早くついてしまった待ち合わせ場所周辺をぐるりと見回す。
約束の時間まで、あと20分。
(さすがに早く着きすぎたわ)
自分の計画性の無さを反省しながら、どうやって時間を潰そうか考え込む。
カフェでお茶を飲むにしては、別にのども乾いてないし。お店へ入って買い物するには、いつのまにか夢中になって時間が過ぎてしまう可能性もあるし。
とかなんとか考えて、結局本屋さんで時間を潰すことにした。
大型書店の中へ入り、とりあえず平積みされている雑誌なんかをながめながら歩く。
そうやってしばらくうろちょろしていると、不意に後ろから声を掛けられた。
「ねぇねぇ、キミひとり?」
「は?」
雑誌へ向けていた視線を上げて、振り返る。
「よかったら、俺と一緒に遊ばない?」
そこには、ニットキャップを被りサングラスを掛けた、かっこいいお兄さんがニヤニヤと笑いながら立っていた。
「……すいませぇん、今ちょっとツレと待ち合わせ中で」
「いいじゃ〜ん、ちょっとだけちょっとだけ!」
「でも、ツレに悪いし…」
「じゃあツレの子も一緒でいいよ!」
「え〜、でもなぁ〜」
「いいじゃんいいじゃん、金ならあるしさぁ」
どや顔で、さらりと告げられた殺し文句(?)。
それにとうとう堪え切れずに吹き出して、よく見知ったお兄さんの肩をバシンと叩く。
「ちょっと勇ちゃ〜ん!それどんなナンパのしかたなん」
「え?ナンパってこんなんじゃねぇの?」
勇ちゃんこと佐野さんは、自分も半笑いになりながら、口元を掻いた。
「そんなんじゃねぇだろ、まぁほんとのところはわかんないけど」
「お互い、圧倒的な経験不足だな」
ふたりして笑い合って、改めておはようとあいさつをして。
「じゃ、いこっか」
涼しい本屋さんの冷房とお別れして、俺らは目的地へと歩き出した。
移動中の車内。
仕事のメールを送信し終えて、イヤホンを外し、ワゴン車内を改めて見回す。
乗り込んでいるのは3人。前の列に俺と仁ちゃん、後ろの列に太ちゃん。
いつもに比べてまぁまぁ朝が早いこともあり、仁ちゃんも太ちゃんも、すやすやとお休みタイムだ。
いつもなら朝の弱い俺の方が真っ先に寝ているはずが、昨日十分に睡眠を取れたおかげで、目はぱっちりと開いている。
「……」
珍しくしんと静まり返った車内で、なんだか変に居心地が悪くなり、一度もぞもぞと座り直す。
ついでにううんと咳をしてみても、2人の眠りは深いらしく、微動だにしない。
起きてもらうのはひとまず諦め、SNSでも見るかとスマホをタップしかけて、止めて。
隣の仁ちゃんの寝顔を、なんとはなしに眺める。
座席のシートにもたれ掛かり、たいそう首が痛くなりそうな体勢で眠りこけている仁ちゃん。
セットされていない、さらさらな長めの前髪が目元を隠して、ガタンと車が揺れるたびに、同じくさらさらと揺れている。
その様がなんというかアンニュイで、なんていうかアレや、エモい。なんだかエモい感じがする。
俯いているからか、よく見たら目の下にはクマがあるような気もするし、少しだけやつれているような気もする。
疲れたとかしんどいとか、ネガティブなことを日頃からあまり言わない彼だけど、最近はラジオにお芝居にと急激に仕事量は増えているから、そら疲れてるし、しんどいに決まってる。
(……あんまり、無理し過ぎんとってな)
そう願いを込めて、さらさらと揺れる前髪に手を伸ばして、そっと触れた。
それでも起きない仁ちゃんに気を良くして、続けて撫でるように前髪をすいていると、突然カシャッと音が響き、慌てて手を引っ込める。
「みぃーーたぁーーぞぉーーー」
それと同時に聞こえた声に顔を上げて振り返ると、そこでは、いつの間にか目を覚ましていた太ちゃんが、ニヤニヤしながらホラー映画さながらに、後ろの座席のシートから半分顔を覗かせていた。
「なぁにやってるのかなぁしゅんたくぅ〜ん?」
「べ、別に何もしてへんし!つか、起きたんなら言ってよ太ちゃんっ!」
「うへへへ」
「うへへへちゃうわ!あと、さっき写真撮ったでしょ!?消して今すぐ!」
「ヤダ。佐野さんに見せるんだもぉ〜ん」
「いやなんかそれだけはやめて!!?」
「しゅんちぁゃん、いくら可愛いからって睡眠中の吉田さんにお触りは禁止ですよぉ」
「なんっか言い方すっごい嫌なんやけど!」
「…んだよ、うるさぃなぁ、」
そうこうしているうちに仁ちゃんも目を覚まし、車は目的地まで到着した。
「「おはよー」」
「おはよ〜。あ、柔と勇ちゃん一緒やったんや」
「うん、勇ちゃんと前の現場近くだったから久々に待ち合わせて来たんよ」
「これ、みんなに。よかったら飲んで」
「え?あぁアレかぁ、勇ちゃんが最近ハマってるってやつ?」
「そうそう。めっちゃうまいから飲んでみ」
「え〜!ありが…」
「あー!!佐野さん柔太朗おはよぉ!佐野さん佐野さん、あんなあんなぁ」
「ちょっとっ!やぁめてってば!だいち、太ちゃんっ!?」
「?…なんなん、朝から騒がしいなぁ」
「な?よく分かんないけど、移動車で着いてからこのふたりずっとこの調子なんだよね」
「え、なんかあったの?」
「いや柔ちゃん、それがさぁ〜」
「やめてって言うてるやろぉ!!」
「…うるっさいわぁ」
「アハハ、仁ちゃんが本気で怒る寸前だわ(笑)舜も太ちゃんもそろそろやめときな」
「ほんっと朝から元気だよなぁふたりとも」
「…あ。勇斗、前髪になんかついてるよ」
「え、どこ?」
「いや、逆。ここここ」
「ん、あんがと」
「うわぁまたシャッターチャンスぅ!」
「太ちゃんは一体何がしたいねんもうっ!」
→ただメンバーの仲良し写真が撮りたい太ちゃんでしたとさ。
おしまい!