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成宮牧場を離れて山間を軽トラックで運転している正は、腫れた頬を抑えて唸っていた
「いってぇよ~・・・ちくしょう・・・北斗のヤツめ・・・ 」
ここへきて正の北斗へ対する嫉妬心がむくむく湧いてきていた
「ヴォーグ」の雑誌の表紙を飾るような美人が北斗の嫁だなんて、小さな町は北斗の嫁の話題で持ちきりだ
たしかにこのあたりには、北斗の嫁みたいな容姿の娘はなかなかいないし、ましてあの女の雰囲気は特別だった
あの綺麗な女を北斗は毎晩抱いているんだ、それに比べて自分の冴えない年上の嫁を思い出した
両親に無理やり結婚させられた、外国人の自分の妻の顔を・・・
途端に不満が正の中で爆発した
「ちょっと綺麗な嫁さんを貰ったからって調子に乗りやがって、子供の頃はしゃべれなかったくせに・・・ 」
正は軽トラのダッシュボードからスマートフォンを取り出した
「みてろよ北斗」
画面をタップしながらボソリとつぶやいた
「鬼龍院様にお願いして成宮牧場をつぶしてもらってやる」
:.*゜:.
春もすぐそこだと暖かい3月、その日は天候にめぐまれ、淡路の国道沿いのサービスエリアは観光客でごった返していた
大型駐車場には様々な地方ナンバーの車が徐行し、その他の小道も親子連れや散策にきた男女が生き交っていた
北斗は今自分の愛車ブラックのメルセデスベンツ(ゲレンデヴァーゲン)のボンネットに口笛を吹いてもたれて立っていた
茶色の革のショートブーツと、落ち着いた黄褐色のスリムフィットチノパン、襟ぐりのゆったりした、ラルフ・ローレンのシャンブレーシャツに、レイバンのサングラスをかけている
自信に満ちた出立ちに、通り過ぎていく女性が振り向いて、北斗をチラチラ見て行く
「よぉ!そこにいるのは北斗じゃないか!」
男性の大きな声に北斗が目を上げると、四人の男性がこちらに近づいて来るのが見えた。北斗の高校・大学時代同じ農学部の学友で、競走馬育成協会のメンバー達だった
「久しぶりだ!こんなとことで会うとはな」
北斗も懐かしさに笑顔で返す
競走馬生産はたいがいが仲間同士で、収益構造を編み出し、競走馬育成協会の保護の元経営が進んでいる、もちろん北斗もそこの役員だ
先頭を歩いてくる金髪のさほど背は高くない男性が、九州で大きなばんえい競馬用のばん馬を沢山所有している鎌田という人物で、学生時代には悪ふざけの率先者として無口な北斗とも仲良くしていた
「こんなところで何をしてるんだ?」
にっこり微笑んで北斗が鎌田の問いかけに答えた
「妻の買い物を待っているんだ」
北斗の言葉に四人は驚いた
「結婚したのか?」
「こいつはたまげた!」
途端に四人は驚きと同様に包まれて、ケラケラ笑っておめでとうと賛辞の抱擁を交わした、もっともバシバシ叩かれているだけなのだが
「なんと!あの北斗がか?」
「本当だ!あの北斗がカミさんの尻にしかれるとはな、世も末だ!」
「酔ってるのか?」
北斗も笑いながら彼らの冗談に答える
「ああ!ちょっとな!坂崎町の寄り合いに出てたんだ 」
ほろ酔いで少しろれつが回らない友人が、北斗の肩を叩いて言う