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メイクヌナとグクテテ

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メイクヌナとグクテテ

7 - 第6話 ジョングクと練習室で

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2024年07月02日

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その夜は、テヒョンに家の前まで車で送ってもらった。


そしたら彼が帰ってきいて…口論になった。


私は反射的に床に蹲って、暴力に耐えた。


嵐のような激情が過ぎ去った後、彼は「だからお前は駄目なんだよ」と吐き捨てて、テレビの前でスマホを弄り出した。


彼が怒るポイントはいつも理不尽だ。


浮気をしているのは彼なのに、私の欠点ばかり言い立てて、気が付けば、私が悪者にされている。


もう、こんな生活イヤだ。


私はーー家を飛び出した。



着の身着のまま部屋を飛び出したはいいけれど…


お財布もバッグも、メイク道具も全部部屋に置いてきてしまったことに気付いた。


殴られた顔を厚化粧で隠すこともできず…


ただ、スマホはポケットに入っていた。


彼から鬼のような着信があるのではないか、彼が追いかけてくるのではないかという強迫観念に駆られ、スマホはすぐに電源を切った。


怖い。

誰か、側にいて欲しい。


私は小刻みに震える自分の肩を抱き締めた。


スマホを切ってすぐ、テヒョンの顔が脳裏に浮かんだけれど、電源を入れると彼から連絡が来てしまうかもしれない。

それが怖くて……




その後私は、どこをどう歩いたのか、気が付いたらHYBEの社屋の前にいた。


きっと、スマホカバーのポケットに入れていた通勤定期券を使ったんだと思うけれど…電車に乗った記憶は無かった。


HYBE本社があるここは、地下鉄4号線新龍山(シンヨンサン)駅から徒歩10分。

疲れ切った私の前に、地下7階、地上19階の巨大ビルがでかでかと聳えていた。


とりあえず、ここに身を隠そう。

私は慣れ親しんだセキュリティゲートに社員証を通し、中へ入った。

セキュリティコードを持つ社員であれば24時間いつでもゲートを潜れるのだ。


ロビーや廊下には煌々とライトが付いていたけれど、社内に人気は無い。

殴られてボロボロの姿を、もし同僚に見られたらどう言い訳しようと思っていたので、これはむしろ都合がよかった。


とにかく、せめて朝になるまでは会社に潜んでいよう。

身体も心もどっと疲れていたし、少し仮眠室でも使わせて貰おうか。



疲れと眠気で頭が働かなくなってきたけど…


仮眠室に向かうため、エレベーターを押した。


エレベーターが開いて、私はふらふらした足取りで廊下をしばらく進み…



私「あれ…?ここって…」



どうやら降りる階を間違えたらしい。


そこは、HYBEの所属アーティストたちの練習室や作業室のある階だった。


仮眠室は別の階だ。私はエレベーターに戻ろうとして、どこかの部屋で音楽が流れていることに気付いた。



私「こんな時間まで練習してる子がいるのかな…」



音楽が流れていたのは、ダンススタジオルーム。

ダンススタジオルームは完全防音のはずだけど…

今は廊下がしんと静まり返っているせいで、音が漏れ出て聞こえるのだった。



私「この曲って、もしかして…」



聞き覚えのあるリズム。


ジョングクのStanding Next To Youだ。


私はついつい、スタジオのすりガラスを覗いてしまった。


誰か分からないけど、誰かが踊っているみたい。



その時、音楽が止まった。


(…!?)


もしかして、覗いているのがバレたのかもしれない。

私は立ち去ろうとして…



グク「…ヌナ?」



ダンスを中断してドアを開けたのは、ジョングクだった。



私「っ!ごめん、邪魔するつもりじゃなかったの」


グク「いや、いいんだけど…どうしたの?」



私は立ち去りたい気持ちでいっぱいだったけれど、ジョングクが大股でずんずん近付いてくるので、逃げようにも逃げられなかった。

相当長い時間ダンス練習に励んでいたのか、前髪が汗で濡れ、首筋にまで伝っていた。

ジョングクの全身から、むわっとするほどの熱気が立ち込めていた。



グク「っていうか、ヌナ、その傷…」


私「…!」



私は、髪でばっと顔を隠した。

口の端が切れていたし、顎も腫れてじんじんと痛かった。



グク「早く、こっち来て冷やさなきゃ」


私「だ、大丈夫、大した傷じゃないよ…!」


グク「何言ってんの?すごく腫れてるよ」



ジョングクに引っ張られ、ダンス室へ入る。


私とジョングクの他は、誰もいない。


こんな遅い時間まで、一人で練習していたのだろうか?



ダンス室の隅にある冷凍庫から、ジョングクは手際よく氷水を作ってくれた。


ダンススタジオルームのフローリングに二人で座り込む。


そしてジョングクは私の腫れている顎をアイシングして、「他には?痛い所ある?」と訊いてくれた。



私「大丈夫だよ」


グク「大丈夫そうに見えないから訊いてるの。足は?さっきなんか少し引きずってなかった?」



そういえば、歩くたびに足首が痛む、かもしれない。

暴力が日常的過ぎて、痛覚が鈍くなっているのかもしれない。



グク「どうしたの、この傷」


私「…………」


グク「まさか、彼氏?」


私「…………」(頷く)


グク「あー、もー…!!!」



ジョングクは呆れたように大きく叫んで、私を抱き締めた。



私「わっ、ちょっと…!」



背中に回されたジョングクの腕は、ずっしりと重かった。

私が驚いて腕から逃れようとすると、拘束をキツくしてくる。



私「ジョングク…!こんな所、誰かに見られたら…!」


グク「誰もいないから。しーっ、ヌナ、大人しくして」



ジョングクは、まるで荒ぶった飼い犬を落ち着かせるように私に声を掛けると、私を抱きしめたまま、私の頭をよしよしと撫でた。



私「!?」


グク「ヌナ、大変だったね。ごめんね、俺がもっとヌナの側にいてあげたら……」


私「……ジョングクのせいじゃないよ、ちょっと彼氏とケンカしただけで…」



ぎゅってしないで。


なでなでしないで。


ドキドキして、勘違いしそうになる…



グク「話せる所だけでいいから、何があったのか話してくれる?」



それから私は、帰宅したら彼氏がいたこと、激昂した彼に暴力を振るわれたこと、勢いのまま家を飛び出してきたことを話した。


そして、彼の暴力がエスカレートしてきていることも。


私が、おかしいと感じ始めていることも。


ジョングクは私の背中をよしよししながら、真剣に話を聞いてくれていた。



こんなに、男の人から優しくされたことって、今までなかった。


私の話をちゃんと聞いてくれる。

私のことを罵倒しない。ダメ人間とか、屑とか、金食い虫とか、お前なんか要らないとか、そういうことも言わない。


人は、人を傷付けることをしてはいけない、そんな当たり前のルール。

それが、彼と付き合って行くうちに、いつの間にか私の中で崩れていたことに気付いた。


人から優しくされるって、こんなに嬉しいんだ。



私は、ジョングクの腕の中でぼろぼろと泣き始めた。



グク「たくさん我慢したんだね。辛かったね、ヌナ」


私「……うん……」

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