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LINE992

第1話 - あ

2023年08月10日

#恋愛

結城真矢

リョウタ

ユカリ！ツカサが大変なことをしたんだ！

ユカリ

えぇ？どうしたのよ

リョウタ

ユカリは警察に呼び出されてないのか？

リョウタ

ツカサのやつ、本屋で万引きしやがったんだ

リョウタ

何回も繰り返して、盗った本は全部古本屋に転売してた…

リョウタ

しかも、他の客の財布を盗もうとしたって言うんだ！

リョウタ

もう平謝りだったよ…。どうしたっていうんだ

リョウタ

小遣いもやっていて貯金もたっぷりあるはずだし、あんなことする奴じゃなかったのに…

ユカリ

子供だから警察もお店の人も大目に見てくれたんでしょ

ユカリ

なら良かったじゃない。あなたも大袈裟に騒ぐことないわよ

ユカリ

子供の頃は誰だっていたずらするでしょ

リョウタ

何無責任なこと言ってるんだ！母親だろ！それに子供と言ってももう小６だ！

リョウタ

しかも、ツカサに怒鳴ったら逆ギレされたんだ

リョウタ

『何も知らないくせに父親面すんな！』って…

ユカリ

反抗期でそういう年頃なんだから仕方ないじゃない

リョウタ

仕方ないで済むかよ！ツカサのやったことは犯罪だぞ！

ユカリ

だから、子供のしたことに大袈裟だって言ってんの！

リョウタ

なぁ、俺が出張に行ってる間に、家庭は随分変わったよな

リョウタ

お前は派手な格好して友達と出かけてばっかりだし、子供達を連れていくことも多い

リョウタ

優等生だったツカサは荒んでるし、

リョウタ

次男のタクミは懐いてくれてるけど、なんだか暗い顔してる

ユカリ

だから何？あなたはいいわよね！

ユカリ

子育てを私に丸投げして、離れたところで呑気にしてて

リョウタ

ユカリには大変な思いさせたなとは思ってるよ

リョウタ

だけど、俺だって家族のために必死に仕事してたんだ

ユカリ

あーはいはい。そういうのいいから

ユカリ

私に家のこと丸投げした以上、文句言わないでよね！

ユカリ

じゃ、友達と遊んでるししばらく帰らないから

リョウタ

また友達？待てよ！遊んでる場合じゃないだろ！

リョウタ

家帰って、夫婦でツカサと向き合うべきじゃないのか！？

ユカリ

うるっさいなー！私はたった一人で家事育児に追われて大変だったのよ！

ユカリ

息抜きくらい自由にさせてよ！それじゃ！

～二週間後～

ユカリ

■不在着信■

ユカリ

リョウタ！今どこにいるの！タクミもいないんだけど！

ユカリ

しかも離婚届まで置いてあって…いったいどういうつもり！？

リョウタ

どういうつもりも何も、離婚するつもりだよ。わかるよな

ユカリ

わからないわ！なんでよ！

ユカリ

大体なんでツカサだけ置いて行って、タクミは連れて出るわけ！？

ユカリ

問題児だけ都合よく私に押し付けたつもり！？

リョウタ

押し付けたのはあんただろ。俺の子じゃない子を…

ユカリ

え？

リョウタ

ここ最近、お前の様子がどうもおかしいと思っていたんだ。貯金が急速になくなってるのもな

リョウタ

理由を聞いてもお前は一向に口を割らない

リョウタ

それで興信所に依頼して、調べさせてもらった

リョウタ

お前、浮気してたんだな。何が友達と遊ぶだよ

ユカリ

違うの！嘘じゃないわ。男友達なの！

リョウタ

家に連れ込んでよろしくやっといて何が男友達だよ

リョウタ

俺の出張中、存分に楽しんでたみたいで何よりだよ

リョウタ

子供達とも触れ合わせてたみたいじゃないか。俺が帰った後も

ユカリ

ち、違うの！あなたの出張中寂しかったから！

ユカリ

それに、ワンオペ育児で大変だったから、そのストレス発散なの！

ユカリ

彼は子供達の面倒も見てくれたし、それに甘えているうちについこうなっちゃったの！

ユカリ

一時的な気の迷いなのよ！

リョウタ

少なくとも12年前から続いてたのに、一時的な気の迷いなのか？

ユカリ

へ？

リョウタ

間男のやつがツカサと顔が似ていたから、

リョウタ

嫌な予感がして、ツカサとタクミのＤＮＡ鑑定をしたんだよ

リョウタ

結果は…ツカサだけ、俺の子じゃなかったんだ

ユカリ

それは…

リョウタ

どういうつもりだよ。12年間も騙しやがって！

ユカリ

違うの！ツカサが生まれた時は、本当にあなたの子だと思ってたの！

ユカリ

だけどあの子、段々元カレに似てきて、

ユカリ

それでつい、元カレを忘れられなくてヨリを戻しちゃったのよ！

リョウタ

言い訳はいい。ツカサが生まれたのは俺達が結婚した一年半後だ

リョウタ

結婚後も元カレと関係が続いていたことには変わりない

ユカリ

でも、12年間も育ててきたんだから、ツカサだってあなたの息子でしょ！

ユカリ

情はないの！？あの子のこと、愛してないの！？薄情者！

リョウタ

愛情はあるよ

リョウタ

だから、余計に辛いんだ

リョウタ

浮気相手と顔の似ているツカサと一緒にいたら、あの子を傷つけてしまうかもしれない

リョウタ

そうなる前に離れたんだ

リョウタ

ツカサが問題行動を繰り返すなら猶更、この先も愛していける自信がない

リョウタ

それにツカサ自身、自分は母親と暮らすから弟だけ連れて行ってくれって言ってたしな

ユカリ

だとしても、ツカサは戸籍上はあなたの子よ

ユカリ

法律上、養育義務があるのよ。ツカサは引き取るから、養育費、払ってよね！

リョウタ

俺だってタクミの親権を持つんだ

リョウタ

せめて養育費は相殺だろ

ユカリ

はぁ！？私も養育費払わなきゃいけないわけ！？

リョウタ

当たり前だ。慰謝料だって、お前達両方に請求するからな

ユカリ

ちょっとやめてよ！彼、お金がないのよ！？

リョウタ

知ってるよ。俺の貯金まで随分貢いでくれたみたいだな。全部パチンコに消えたみたいだけど

リョウタ

その分も請求させてもらう

ユカリ

そんな！私だって働いてないのに！

ユカリ

それに、私達からお金を取ったら、ツカサだって困窮するのよ！

ユカリ

子供を苦しめて何も思わないわけ！？愛情があるなんて嘘じゃない！鬼！悪魔！！

リョウタ

ツカサが苦しむのに何も思わないわけじゃないよ

リョウタ

だけど、万引きで店が潰れて、店長とその家族が困窮することだってあるんだ

リョウタ

自分のしたことはそういうことだと、少しは思い知ることも必要だ

ユカリ

ふん、いいわよ！子供を平気で苦しめるようなあんたとは喜んで別れるわ！

ユカリ

これからは本当の親子三人で暮らすわよ！

～数日後～

ユカリ

ちょっとどういうことよ！

リョウタ

何がだ

ユカリ

ツカサは私達が、タクミはあんたが引き取るって決定してたはずよね！

ユカリ

なんでツカサまであんたが連れて行ったのよ！

リョウタ

気が変わった。やっぱり二人とも引き取る

ユカリ

は！？意味わかんない。なんで今更気が変わるのよ…

リョウタ

タクミがな、『お兄ちゃんと離れたくない』って泣いたんだ

リョウタ

そして全部聞いたよ

リョウタ

ツカサのやつ、ずっと弟を守ってたんだな

ユカリ

へ？

リョウタ

お前が俺の貯金や子供達の学費まで切り崩して、間男に貢いでたのは調べた通りだ

リョウタ

そして、間男は子供達の面倒を見てくれたって言ってたけど、

リョウタ

貢ぐ金が足りないと子供達を殴ってたそうじゃないか

リョウタ

パチンコが打てなくてイライラするとか言いながら…

ユカリ

そんな…彼はそんなことしない！

リョウタ

お前の目の前でも殴ってたって聞いたが？それも、気に入らないことがあるたびに

ユカリ

ただの躾よ！タクミったら大袈裟に言ってるのよ！

リョウタ

もっとも、殴られていたのはツカサだけだったようだけどな

リョウタ

間男がタクミを殴ろうとするたびに、ツカサが庇ったから

リョウタ

ツカサともう一度顔を合わせて、服をめくって絶句したよ。痣だらけだった…

リョウタ

俺にバレないように服の下だけ殴らせるなんて、本当に卑劣だなお前ら

ユカリ

だって、ツカサが悪い子だからいけないのよ！

ユカリ

リョウタだって手を焼いてたでしょ！万引きしたり財布を盗んだり…

リョウタ

その理由もわかったよ

リョウタ

間男に貢ぐ金が減っていって、だのにお前は働こうとはしない

リョウタ

金が足りず、イラついた間男に殴られることが増え、弟を守るのも限界が近づいてきた

リョウタ

子供達の小遣いを全て差し出したら一時的に機嫌が直ったが、

リョウタ

それもすぐにパチンコに使われてしまった

リョウタ

年齢の問題で働けないツカサは、苦肉の策で書店で万引きを繰り返し、

リョウタ

古本屋で転売することで金を稼いでいたんだよ。雀の涙ほどにしかならなかったようだがな

リョウタ

財布を盗ろうとしたのも、同じ理由だ。間男の機嫌を損ねないための金が欲しかったんだ

ユカリ

そんな…

リョウタ

そりゃあ、何も知らないくせにって言われるよな

リョウタ

事実、俺はこれまで何も知らなかったんだから

リョウタ

お前達が、ツカサが小学校を卒業したら年齢偽って働かせようとしてたことも、

リョウタ

ツカサで児童ポルノを作って売ろうとしていたこともな

ユカリ

な、なんでそこまで…！

リョウタ

ツカサは全部知ってたんだよ。その上で、弟がお前達の魔の手から逃れられるならと、

リョウタ

お前達の元に残ろうとしてたんだ

リョウタ

子供を平気で苦しめてるのは、お前らの方じゃないか！

ユカリ

だって、リョウタが養育費払ってくれない上に、

ユカリ

慰謝料なんて取ろうとするからこうするしかなかったんじゃない！

リョウタ

お前らが必死で働けばいいだろ！何やってんだよ子供に！

ユカリ

足りないのよ！私達が働いたところで！

リョウタ

つくづくお前は母親失格だよ…そして俺も、父親失格だ

リョウタ

勿論窃盗は許されることじゃない。だけど、ツカサは子供なりに必死だったんだ

リョウタ

必死に弟を守ろうとしたんだ

リョウタ

大人に助けを求めたら良かったんだが、

リョウタ

『言うことを聞かないと追い出す』などとお前が子供達を脅してりゃ、無理だったんだろうな

リョウタ

子供にとって、これ以上の脅しはないからな

リョウタ

今まで気づかなかった分、これからは、俺が父親として二人を守る

ユカリ

ごめんなさい！彼に逆らえなかっただけなの！あなたと子供達を愛してるの！許して！

リョウタ

許すもんかよ。ツカサをこっちに引き取る以上、もう容赦はしない

リョウタ

不倫と貯金の使い込みの慰謝料、二人分の養育費、

リョウタ

そして子供達を傷つけた分の慰謝料も払ってもらう

リョウタ

児童相談所にも通報済みだ

ユカリ

やめて！彼とは別れるから！子供達に母親が必要よ！

リョウタ

お前みたいな母親は不要だよ

ユカリ

そんな！

リョウタ

一つ訂正しておきたいことがある

リョウタ

ツカサは間男とは全然似てない

リョウタ

弱い者をいたぶって笑う間男の顔と、

リョウタ

小さな弟を守ろうとしたツカサの顔は、少しも似てないよ

～後日談～

リョウタ

その後、ユカリは相変わらず間男と同棲しているようですが、

リョウタ

慰謝料と養育費を搾り取られて困窮し、それでも間男の金の催促は止まず、

リョウタ

仕方なくユカリは夜の店で働き出したそうです

リョウタ

更に、困窮してパチンコを打てなくなった間男の、

リョウタ

苛立ちを向ける先は子供達からユカリにシフトし、

リョウタ

毎日のようにユカリに手を上げていると聞きました

リョウタ

ユカリは何度も復縁要請をしてきましたが、俺は連絡先をブロックしました

リョウタ

ツカサとタクミは奴らのいないところで、仲良く遊んでいます

リョウタ

俺の両親も二人の面倒をよく見てくれています

リョウタ

ツカサの体の傷も、段々と癒えてきました

リョウタ

勿論ツカサと一緒に万引きした書店には謝罪し、示談金を支払いました

リョウタ

引き取ってからは問題行動はなくなり、元の優しい優等生に戻っています

リョウタ

家のことも率先してやってくれます

リョウタ

たどたどしい声で、謝罪と感謝も伝えてくれました

リョウタ

ツカサは、誰が何と言おうと俺の子です

リョウタ

これからも、親子で仲良く助け合って暮らしていきたいです

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結城真矢

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