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たばこ

『好きな人の好きな物は』

『私の嫌いなものでした』

昨日の夜から君がいなくなって24時間がたった

僕は君の残り香が漂った雑多な部屋で

1歩も外に出れずただ一人でうずくまっていた

ふと顔を上げ時計を見ると

(12時5分......

を指そうとしていた

スマホの電源を入れると

(......12時

と表示されている

マイペースでよく寝坊する君の為に

僕が5分早めたんだっけ...

...

でも君がいなくなった今

それはもう意味を失ってしまった

カーテンが揺れるのと同時に

風がさーっと吹く

.....ッ

急にまた寂しさが込み上げてきた

ベランダで吸ってたよね、

君は。

たばこが嫌いな僕を気遣って....

でももうそこに君はいないんだな、

多分、

そんな君が

僕のことを一番よく知ってる。

(眠たい時は体温が上がることも

(キスは短めが好きってことも.....)

...

...ん

その時ふと思った

僕は君の事をどれだけ分かっていたんだろうか...

1番先に浮かんできたのは

他でもなく君の好きなタバコの名前だった

.......ハハッ

『もっとちゃんと僕を見ててよ』

『もっとちゃんとッ』

.......って

その言葉が君には重かったのかな

その言葉を言わなければ君は此処にいたのかな

『もっとちゃんと"君を"見てれば』

『もっとちゃんと"君を"...』

......って

今更気づいても遅いよね

ッッ

ガタンッ!

今気付いたってなんの意味があんだよッッ

戻ってきて.....教えてよッッ...

机の上には君が置いていったであろうタバコがある

今頃君はこれと同じタバコを買って吸っているんだろうか

それとも

趣味が変わって違うタバコを吸っているんだろうか

それでも

君が吸っていた匂いを確かめたくて

味を確かめたくて

僕はどうしてか

大嫌いなタバコに火をつけてしまった

1口吸ってしまった匂いの中から

君の匂いがして

君の匂いがした

ケホッケホッケホッ

でもやっぱりむせる

ちょっとぐらい余韻にひたらせてくれよ

『もっとちゃんと僕を見ててよ』

『もっとちゃんとッ』

.....って

言わなければ

君はまだ此処にいたのかな

『もっとちゃんと"君を"見てれば』

『もっとちゃんと"君を"...』

って......

......ッ

少し苦い君の匂いに泣けた

泣きながら僕はタバコの匂いがする雑多な部屋で

一人うずくまった

『好きな人の好きな物は』

『私の嫌いなものでした』

たばこ

END

NEXT→恋人失格

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