僕にとって
この五文字は魔法なんだ
君に何度も救われた
この五文字とその夏に咲く向日葵のような笑顔で
"ありがとう"
と笑う君に
生まれてきてくれて
僕に出会ってくれて
ありがとう
山に囲まれ、緑が並ぶ田舎
セミが鳴き、小さな虫が飛ぶ空
変わらない風景に僕は深く溜息をつく
斗真
高校時代最後の夏なのに、何も変わらない
斗真
斗真
これが僕の本音
ふと、セミの鳴き声が止み、誰かの咳払いが聞こえた
斗真
そう茂みに声をかけ草を掻き分けると
斗真
夏那
真っ白なワンピースを着こなし、麦わら帽子を被った僕と同じくらいの女性がしゃがみこんでいた
斗真
ゆっくりと顔を上げた女性に僕は驚いた
真っ白で夏に合わない雪のような肌
海のようなクリアブルー色の瞳
嗚呼、僕は心を許したんだ。この女性に僕は恋をした
夏那
斗真
斗真
夏那
斗真
夏那
罪???生まれてきたことが???
夏那
斗真
夏那
斗真
この田舎で女性が心臓病を持ってるなんて…死を覚悟して生きなきゃ行けへんのか???
電気もガスも通らない田舎で医師も居ない田舎で
彼女は苦痛を味わいながら生きなきゃ行けへんのか?
斗真
遠くから名前を呼ぶ声が聞こえてきた
夏那
斗真
夏那
夏那
向日葵のような笑顔で君はそう言った
ありがとう?違う。僕は何もしてない
彼女が行ってしまう
行かないで
そんな所に行っては君はもう僕の前に現れない
最後の出会いになってしまう
呼び止めたいのに
身体が動かない
名前も知らない
誰もいない空間に僕は手を伸ばした
そこにいた彼女の腕を掴みたかった
彼女と一緒に逃げたい
僕は彼女の後を追った
斗真
がむしゃらに僕は走った
草に石に躓き、転びそうになるがそれでも僕は走った
ふと視線を上げた先に白いワンピースを着こなした彼女が男性と歩いていた
斗真
斗真
聞こえたのか彼女は此方に振り向いた
夏那
斗真
男性
斗真
夏那
斗真
男性
夏那
なんでなんで
なんでこの場で向日葵のような笑顔で居られるんや???
本当は行きたくないんやろ???
だから、逃げてきたんやろ???
頼む
斗真
"いかないで"
僕は何分も叫び続けた
もう姿も見えないのに届くはずもないのに叫んだ
斗真
おばあちゃん
頭の上から声が降ってきた
顔を上げるとそこにはおばあちゃんが立っていた
斗真
おばあちゃん
流石おばあちゃん
何もかもお見通しや
斗真
斗真
おばあちゃん
斗真
斗真
おばあちゃん
おばあちゃん
斗真
斗真
おばあちゃん
斗真
斗真
おばあちゃん
おばあちゃん
斗真
おばあちゃん
おばあちゃん
おばあちゃん
斗真
おばあちゃん
おばあちゃん
斗真
おばあちゃん
おばあちゃん
斗真
おばあちゃん
おばあちゃん
斗真
斗真
おばぁばに教えて貰って僕は屋敷に向かう
彼女を助けるために
彼女にありがとうって言うために
数時間走って居ると、屋敷が見えてきた
斗真
近くにつれ、声が聞こえてきた
隠れて、耳を澄ますと片方の声は男性。もう片方は彼女の声だ。
男性
夏那
僕は怒りに任せ駆け寄った
斗真
夏那
男性
ドンッ
斗真
ドサッ
斗真
男性
僕は素早く立ち彼女の腕を掴み走った
男性
斗真
夏那
そうだ。僕は君の笑顔が見たかったんや
僕達は走った
遠くへ
あれから10年の月が流れた
彼女は僕の家で息を引き取った
どうやら、僕が出会った時からそんな永くなかったらしい
あの時彼女は笑っていた
夏那
そう言って彼女は逝った
僕はこれで良かったんだと思った
僕の前じゃなくて、屋敷で息を引き取っていたら僕はそっちの方が後悔する
自分の想いを伝えたかったけどその前にあれだけは伝えたかったからそれも後悔していない
斗真
斗真
斗真
僕は気持ちを添えて魔法の言葉を言った
そして、命日である今日も僕は
斗真
斗真
と伝える
空はるか遠くから僕は聞こえた
"ありがとう"
コメント
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さっすが紅葉姐様!! 文ストじゃないのはじめて?
あぁー良い!