其れから、3年後。
太宰はあの日以来、毎日毎日中也の眠っている部屋に来ては、何も云わずに彼が目覚めるのを待っていた。
自らが退院し、用意された家に住み始めてからも、太宰は病院に足繁く通った。
病院に行って中也の様子を確認することは、最早彼の日課となっていた。
此の日も太宰は何時もと変わらず病院に来ていた。寝台の横に座り、中也の顔を呆然と眺める。
太宰
太宰は、ぼそり、と呟いた。
一日前に自分がベッドサイドに置いて行った果物の詰め合わせから林檎を手に取り、ナイフで器用に皮を剥く。
太宰は手持ち無沙汰に林檎を食べながら、中也の顔を見たり、時折窓の外に視線を移したりする。
そうして、どれ程時間が経っただろう。
空は青色から茜色に変わり始めており、もうじき夜が来る事を示していた。
中也
太宰
中也の喉から、微かな声が漏れる。其れを聞き逃さなかった太宰は、窓の外から中也の方に視線を戻す。
中也
中也
中也は、太宰の方を見て掠れた声でそう云った。
太宰は其れを聞くと一瞬驚いた様に目を見開いたが、直ぐに何時もの調子で答えた。
太宰
太宰
中也
中也は、其れを復唱する様に呟く。
太宰
太宰
太宰は中也が自分について何も知らない事を確認してそう呟いた。すると、中也は小さく頷く。
太宰
中也
中也
中也
太宰の問いに、中也は少し考えた末にそう答える。其れを聞いた太宰は、少し安心した様な微笑みを浮かべた。
太宰
中也
中也
太宰
太宰は其の答えに小さく相槌を打つと、其れから少し俯いて言葉を続けた。
太宰
太宰
太宰はそう云うと椅子から立ち上がり、中也に手を差し伸べる。然し中也は、太宰の言葉に納得がいかないのか顔を顰めた。
中也
太宰
太宰
中也
中也は未だに状況を理解していない様だったが、手前の云う事だから、と云って素直に手を取り、ベッドから降りる。
太宰
中也
中也はそう答えながら、太宰に手を引かれてゆっくりと病室を出る。
森の手引きで中也は退院手続きをした。
そして、2人はヨコハマの外れへ、新しい自分達の家へと帰って行った。
太宰
2人が家に着いたのは、もうすっかり日が落ちて月が高く昇った頃だった。
中也
太宰
太宰
太宰はそう云いながら玄関の鍵を開け、中に入る。太宰の後に続いた中也も玄関を抜け、家の中に入る。
太宰は、"とりあえず座ろうか"と云って、其れからリビングにあるソファに腰を下ろした。中也もまた隣に座る。
太宰
太宰がそう呟く。すると、少し間を置いて中也が答えた。
中也
中也は心底不思議そうな表情をする。太宰は小さく微笑んでから応えた。
太宰
中也
中也は、少し躊躇ってから、そう尋ねた。
太宰
太宰
太宰
太宰はそう前置きをすると、今迄のことをぽつりぽつりと話し始めた。
太宰
中也
太宰
太宰
中也
太宰
太宰
太宰
太宰がそう云うと中也は、信じられない、と云いたげな表情になる。
太宰は哀しい笑みを浮かべながらも、言葉を続けた。
太宰
太宰
中也
中也は太宰の言葉に待ったをかける。
中也
太宰
太宰がそう云うと、中也は顔を真っ青にして冷汗を流した。
瞳がかくかくと微かに揺れている。
太宰
太宰
太宰
太宰
中也
中也は、そう答えたが、矢張り動揺している様だった。
太宰は其れを見て、少し間を置くと、再び話を始めた。
太宰
太宰
太宰
中也は何も云わず、呆然とした様子で遠くを見ている。
太宰は其れを見兼ねて、ゆっくりとソファから立ち上がった。
太宰
中也
中也は何か云いたそうにしていたが、特に何も言葉を発する事はなく、黙って太宰の後ろに着いて行った。
居室から中庭に出る大きな窓をガラリと開ける。庭は芝と雑草ばかりで何も無いが、其処で風に吹かれながら太宰は空を眺めた。
太宰
太宰は小さく呟いた。中也は其れを聞くと、視線を空に移す。
空は満天の星空で、一際大きな満月が2人を照らしていた。
太宰
太宰はもう一度そう云った。先程よりも声のトーンが幾分か下がっている。
中也
中也
中也は言葉を詰まらせ、太宰の方を向いた。そして、また何かを云いたそうに口を動かしている。
しかし其れでも言葉は出ず、口を噤んでしまった。
太宰
中也
中也は云われるがままに数回深呼吸を繰り返した。
何度かして落ち着いたのか、小さく息を吸い込んでから云った。
中也
太宰
2人は暫く其の儘空を眺めていた。
太宰
太宰が徐ろにそう問う。 中也は少し悩んだ後に返事をした。
中也
其れを聞いて、太宰は小さく笑う。
太宰
太宰
中也
2人はそう云って家の中に戻った。窓を閉めて、電気を落として、薄暗くなった寝室に入った。
各々の寝台に身体を横たえた2人は、互いに背中を向け合う。
静けさに痺れを切らしたのか、太宰はぽつりと呟いた。
太宰
中也
太宰
中也
太宰
中也
中也
太宰
中也
太宰
太宰はしゃくりあげそうになるのを、下唇を噛んで必死に堪えながらそう云った。
中也は太宰の方を向こうとして、逡巡の後、やめた。
太宰
中也
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