消えたがりの男の子は異世界で王子に愛される！

ふわり、と何かが頬に触れ、現実に引き出された。

白嘲めいた言葉がこぼれそうになった瞬間、 またふわりと、 今度は手のひらに触れた。

手のひらを眼前に持ってくる。 と、そこにはきらきらと光を帯びた 小さな人型の何かがいた。

それはなぜか手のひらの上をくるくる回っている。 どこか嬉しそうに見えるが、 それはなぜか分からない。 そもそもこの生き物は一体……？

どぬくがそう言うと、 手のひらのそれはいっそう輝きを増し、 更には跳ねている。

未だに手のひらの上でくるくるしている精霊を 見つめながら首を傾げる。

不思議がっていると、 どこからか仲間がさらに集まって来たようで、 知らぬ間に肩や頭やらにちょこんと座っている。

自分の置かれている状況に、 どぬくは驚きと好奇心を隠せない。

っと吹っ切れ、 その小さな精霊と戯れようかと思った時、

どこからか、ｶﾞｼｬｶﾞｼｬｯと何かが擦れる音がした。

しかもそれは、こちらに向かってきているように感じる。

徐々に大きくなる音にどぬくの不安も大きくなる。

手のひらの精霊を優しく包み込み胸元に抱くと、 集まっていた他の精霊たちもどぬくにすり寄って来ていた。

彼らが触れているそこは、じんわりと暖かさを感じる。

彼らの暖かさに癒されつつ、 胸の奥に湧き起こる不安に、 どぬくがぎゅっと目を瞑った瞬間……

頭上から大きな声が聞こえた。

そんな至近距離から声がすると思わず、 驚愕(きょうがく)に目を開き顔を上げる。

薄闇になびく、黒目の紫色… がっしりとした体躯(たいく)、 腰の辺りには大きな剣らしき物を携えた(たずさえた)男がいる。

恐らく、黒紫であろう髪に彩られた顔は、 どぬくが今まで見たことがないほど整っていた。

すっと通った鼻筋、 薄く形の良さそうな唇はきゅっと結ばれている。

凛々しい眉は中心に寄っており、 間には深いシワが刻まれていた。

精悍(せいかん)な顔つきをしているためか、 男の険しい表情はどぬくに威圧感と恐怖心を与えた。

体がすくんでしまいそうになるが、 どぬくは彼から目を離すことが出来なかった。