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「明日声をかけよう」と決意しても、その明日が来る保証なんて無いんですからね… 悲しいけれど好きなお話でした!
もう届くはずのないルイスくんの想いが切ないです… 叶わずとも、ルイスくんの想いがミルクと共に冷めてしまわないでいて欲しいと密かに思います。
ルイス
ミルクを片手に家を飛び出したのは
14歳の少年、ルイスだ
ルイスは今年から
死んだ父親に変わり ミルクを売る仕事をしている
ルイス
そう呟くと、ルイスは
少し涼しくなってきた風と一緒に 目的の場所まで走り出した
コト、という音と共に 重厚な扉の前には
ミルクと手紙が置かれる
それをじっと眺め、 異常が無い事を確認してから
ルイスはその場を去り、 建物の陰から扉の前を見つめた
ルイス
そっと口に出した言葉は
屋敷のお嬢様 ─ソフィアに向けたものだ
数日前、そのソフィアが 病気だと人づたいに聞いて
面識こそ無いものの
健康に良いとされるミルクは きっと高値で買ってくれる筈だと
そう考え、ミルクを届けに行った
その頃は 考えもしなかった
自分が、そんなお嬢様に... 天と地程も差のある身分の人に
一目惚れをするなんて...
2日目にミルクを届けに行った時
偶然にもソフィアと出くわした
その時に溢れ出した感情は 今もハッキリと憶えている
突然 心臓が飛び出そうな感覚に陥り
その澄んだ瞳に 吸い込まれそうになって
慌てて目を逸らした事も 今起きている事のように鮮明に
いや、体験しているかのように 思い出すことが出来る程...
ルイス
完全な片想い
否、認識もされていないだろう
ルイス
視線の先には 使用人に支えられながら歩く
ソフィアがいた
ルイス
吹き抜ける冷たくなった風に 髪の毛が軽く乱れる
ソフィア
少し声を上げれば メイドのアンナがそっと
上着を掛けてくれた
ソフィア
アンナ
アンナ
ソフィア
ソフィア
尚も心配そうな表情のアンナに そっと微笑み
扉の前に置かれたミルクに 気が付いた
アンナ
アンナ
ソフィア
アンナ
ソフィア
アンナ
ソフィア
受け取ったミルクは まだ少し温かい
手紙を開くと もう見慣れた文字が目に入った
間違いのある、走り書きのような それでいて心のこもった文字に
心がじんわりと温まったような そんな気がした
ふと、顔を上げる
ルイス
建物の陰からこちらを窺う 1人の少年と視線がぶつかった
ルイス
ソフィア
うっすらと紅くなった頬を
手で隠しながら走り去る その姿を見て
不思議と 胸が大きく鳴いた
ルイス
ルイス
ルイス
初めての感情は 自分でもコントロール出来なくて
名乗り出れば少なくとも 視界には入れるというのに
気が付けば逃げ出してしまう
ルイス
ルイス
ミルクを売る時は 簡単に声が出るのに
ソフィアを前にすると 声すら出てこない
ルイス
ルイス
ベッドの上に腰かけて
窓の外を見ながら ミルクの入ったカップを掌で包む
アンナ
ソフィア
アンナ
ソフィア
ソフィア
アンナ
ソフィア
ソフィア
アンナ
ソフィア
ソフィア
わからない、 という表情をしたアンナに
クスッと笑い掛けると
もう一度 カップにあけたミルクを見つめた
普段“生きてもらう為”に 渡されるミルクは
私自身の“健康の為だけ” ...そんな味がするけれど
扉の前に毎日置かれるミルクは
ほんの、僅かだけれど
どこか心地好くて ホッとする味がする
ソフィア
窓の外を見ると 歌うように鳴いた小鳥が
その小さな羽を羽ばたかせて 空へと舞い上がっていった
次の日
いつものように屋敷の前に行くと 使用人と2人で
こちらを見ていたソフィアがいた
ルイス
心の準備もしていなかった
途端に頬がカッと熱くなり 胸が苦しくなる
ルイス
ソフィア
その声に、冷たい空気なんて 感じなくなる程
緊張が止まらなくなって 汗が出てきてしまう
ソフィア
ルイス
ルイス
ソフィア
ルイス
まるで、 触れたら壊れてしまいそうな
そんな雰囲気と
澄んだ瞳を見て、声が出なくなる
ソフィア
ソフィア
ルイス
アンナ
ソフィア
ソフィア
ソフィア
ソフィア
アンナ
目の前のやりとりが 信じられなかった
ルイス
ソフィア
ソフィア
ルイス
お礼、と言っていたが 文句の間違いなのではないか
だとしたら...
ソフィア
ルイス
聞き間違いかと思ったが
ソフィアは柔らかく微笑む
ソフィア
ソフィア
ソフィア
ソフィア
ソフィア
ルイス
ルイス
ルイス
ソフィア
ルイス
好きです
そう、言いたかったのに
ルイス
ルイス
ルイス
やっぱり僕は臆病者だ、と 心の中の自分に苛立ちを覚える
ソフィア
ソフィア
ルイス
ソフィア
ソフィア
ソフィア
ルイス
ソフィア
ソフィア
ルイス
ルイス
ソフィア
ソフィア
ソフィア
ルイス
ルイス
ルイス
ソフィア
ルイス
たどたどしいが、それでも尚 伝えようと言葉を紡ぐ
ルイス
ルイス
少し重そうな空に 押し潰されないようにと
一度躊躇ってから
覚悟を決めて口を開いた
ルイス
ソフィア
ルイス
ルイス
目を開けないくらいの緊張
それに飲み込まれそうで ルイスはギュッと足に力を込めた
ソフィア
ソフィア
ソフィア
ルイス
ルイス
ソフィア
ルイス
ソフィア
ソフィア
ルイス
ルイス
だとしたら、もう少し 温めたものを渡そう、と
ルイスは考え 嬉しさと共に感謝を口にした
ソフィア
アンナ
ルイスを見送り屋敷の中に戻ると 急激な目眩に襲われた
視界が傾きかけたが、 アンナによって支えられる
アンナ
ソフィア
アンナ
ソフィア
心臓の鼓動と共に頭の奥で ガンガンと襲ってくる痛みを
表情で悟られないようにと ソフィアは微笑みを見せた
ソフィアにミルクを 手渡すようになって3日が過ぎた
『昨日も美味しかったわ』と そう言ってくれるだけで
顔が熱くなるのがわかる程に ルイスはソフィアに惹かれていた
ルイス
しかし同時に、ソフィアの たまに見せる苦しげな表情は
見ているだけで辛くなる
ルイス
浮き立つ心の影響か 知らないうちに 早足になっていたらしい
少し早かったかなと思いつつ 扉の横の壁にもたれていると
アンナ
アンナ
ルイス
ルイス
焦って 髪の毛をワシャワシャと掻く
それを見たアンナは 軽く笑いを溢した
アンナ
アンナ
ルイス
ルイス
落胆を悟られないよう 慌ててミルクと手紙を差し出した
ルイス
アンナ
アンナ
ルイス
元気に駆けていくルイスを見つつ 封筒にも入っていない手紙を開く
少しの間違いの中に 『想って』 という言葉を消した跡がわかった
アンナ
アンナ
アンナ
苦しげなその声は 冬の冷気の中に消えていった
昨夜
ベッドで眠っていたソフィアは 目覚めてこう言った
ソフィア
アンナ
アンナ
ソフィア
アンナ
額に手を当て、驚愕する
アンナ
アンナ
ソフィア
アンナ
その必死な瞳に 思わず動きを止めた
ソフィア
ソフィア
ソフィア
アンナ
ソフィア
力が抜けたソフィアの手が ベッドの脇に垂れ下がる
アンナ
掠れた息を後ろに聞きながら アンナは人を呼びに走った....
ソフィアはそれから 昏睡状態のままだ
下手をしたら、そのまま...と 医者からは言われている
アンナ
アンナ
アンナ
明日、ルイスはソフィアを 待っているだろう
しかしその時 どうすればいいのか、と
アンナはもう一度手紙を見て 辛そうな表情をした
その夜のこと
『お医者様、 なんとかなりませんか!?』
『...私にはもう...』
『お嬢様、 しっかりしてくださいっ』
『すぐに 親族の者にも伝えてきます!』
『本当に なんとかなりませんか?!』
『ご主人様到着なさいました!』
『ソフィアっ!』
『あなた、ソフィアは...っ?』
『お嬢様っ!』
『お嬢様!』
『お嬢様!!!』
ルイス
小走りに道を行くと 冷たい風が頬に当たる
ルイス
熱いミルクが冷めないようにと 手紙と一緒に胸に抱いた
曇った空は重く膨らみ
今にも 白い綿になって落ちてきそうだ
ルイス
返事もそこそこに すっかり慣れた扉の前へと急いだ
ルイス
ルイス
扉の前で 安堵の息を吐いたルイスの視界に
チラチラと 柔らかで冷たい白い綿が
緩やかに舞い落ちてくる
ルイス
その雪を見て、思い、想う
ルイス
ルイス
ルイス
昨日のように壁にもたれて ソフィアが来るのを待つ
ゆっくりで大丈夫だと書いたから
まだかもしれないけれど
ルイス
熱いミルクを抱きつつ ふと、そう考えた
ルイス
ルイス
念のため、と手紙を出して シワにならないように広げ
文面を確認する
大丈夫そうだ、とホッとして
未だ現れないソフィアに 告白する未来を夢見ながら
顔を綻ばせるルイスの頭上に
強くなってきた雪が
音も無く舞い降りていた