ガチャリ、とドアが開く音がして、しゆんさんが部屋から出てきた。 顔は既に生気が抜け落ちている。
ゆきむら。
ココア、飲む?
しゆん
…ん。
コクリと頷いたのを確認して、マグカップを二つ用意する。お湯が沸くのを待つ間に彼を盗み見ると、疲れた顔でスマホを眺めていた。
目が死んでる。
しゆん
…あ
そっと手からスマホを抜き取って、代わりにマグカップを渡す。彼の目の前にスマホを裏返して置くと、ちょっと驚いたような顔をして…また元に戻った。
絶対いつも何か無理してる。 そんなに僕は頼りないものだろうか。
ゆきむら。
しゆんさん。
しゆん
…?
彼がこちらを向く前に、思いっきり彼を抱きしめた。 親が小さな子供にするような、子供からすると苦しいようなやつ。
しゆん
…、…?!……!?!
肩に顔を埋めると、しゆんさんの匂いが僕を優しく包む。こうしたら、少しは話してくれると思ったけれど、流石に嫌…かな。
ゆきむら。
ごめん、嫌だったよね…?
そう言って僕が顔を上げたのと、手に生温い液体が落ちてきたのはほぼ同時だった。
しゆん
……っ、……っひぐっ…
ゆきむら。
ちょ、しゆんさんっ?!
我慢してたのか、しゆんさんの目からはとめどなく涙が溢れてくる。
しゆん
…ゆきむっ、おれ、だめなのかなぁっ…
しゆん
えごさとかッするとさ、しゆんの悪口ばっかながれてきてっ…
ゆきむら。
…うん。
しゆん
そんなに、みんなの理想になれてないのッかなぁ…!
泣き叫ぶ彼は今にも壊れてしまいそうだった。 ゆっくりと触れた背中は、なにかに怯えるように震えていた。
ゆきむら。
大丈夫、大丈夫だよ。しゆんさんはちゃんとやれてるよ。
しゆん
…ッ…しゆん、ちゃんとやれてる…っ?
ゆきむら。
うん。いつもかっこいいよ。大丈夫だよ。
しゆん
…っ…ううっ…うぅぅ…
しゆんさんはいつも誰よりも努力してて頑張ってるの、僕は知ってるんだから。
ゆきむら。
誰が何と言おうと、僕はしゆんさんの事、ずっと大好きだから。
しばらく背中をトントンしていると、静かな寝息が聞こえてきた。 疲れてたんだろうな。最近ずっと仕事だったみたいだし。
ゆきむら。
…
また、彼が心から笑ったところがみたいな。