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第1話 - あ

2023年07月27日

#恋愛

結城真矢

トモミ

シゲオ！今日もユキの見舞いに来ないの！？

シゲオ

うっせぇな。今日休日出勤だって言ったろ

トモミ

また休日出勤？ずっとそればっかりね

シゲオ

仕事なんだからしょうがないだろ

トモミ

こんな時くらい、休ませてもらえないの？

シゲオ

仕事を何だと思ってんだよ。俺はお前らの生活のために働いてんの

トモミ

私だって働いてる。だけど、毎日必ずユキのいる病室に来てるよ

トモミ

だって、ユキはもう長くないって言われたもの…

シゲオ

小遣い稼ぎに過ぎないお前の仕事と俺の仕事を一緒にすんなよ

トモミ

何よその言い方！私が、ユキに手術を受けさせるために、どれほど頑張って働いたか…！

トモミ

シゲオ、あなたは一度もユキの見舞いに来てくれたことがないよね

トモミ

ユキのこと、心配じゃないの？あなたの娘なのよ！

シゲオ

心配したら病気が治るのか？

シゲオ

見舞いに行ったらユキが死ななくなるのかよ

シゲオ

そんなわけないよな。じゃあ、意味ないだろ

トモミ

そういう問題じゃない！

トモミ

ユキのために、せめて生きているうちに楽しい思い出を作ってあげたいと思わないの？

トモミ

生きてるうちに一緒にいたいとは思わないの！？

シゲオ

だから、そんなことして意味あるのかよ。どうせすぐに死ぬんだろ

シゲオ

だったら、死ぬ人間のことよりも、これからの人生のことだけ考えて前を向いて行動する

シゲオ

それが、生きてる人間の勤めだし、合理的な賢い行動だろ

シゲオ

女は感情的だからわからないかもしれないけどなｗ

トモミ

何よそれ…あなたの子なのに、なんでそんなに冷淡なのよ…

トモミ

一度だって、ユキのこと気にしてくれたことなかったじゃない！

シゲオ

ほら見ろ、感情的になりやがってうるせぇな

シゲオ

わかったよ、お前の気が済むなら明日見舞いに行ってやる

トモミ

もういい。こんな父親に嫌々来られても迷惑よ

シゲオ

そう言うなって。明日は父親として、ユキの喜ぶサプライズを用意してやる

トモミ

…本当？信じていいの？

シゲオ

あぁ。お前もきっと驚くぜ。とびっきりのサプライズだ

～翌日～

トモミ

ちょっと！何よさっきのは！！

シゲオ

なんだよ、約束通り見舞いに来てやったのに、追い出すなんて酷いぜ

トモミ

一体誰よ！あんたと一緒に来たあの女と子供は！！

トモミ

特に子供！病室だというのに騒いで走り回って、

トモミ

挙句の果てに、抗がん剤治療で髪が抜けたユキの頭を指さしてバカにしたわよね！

トモミ

そして、あなたもあの女も少しもそれを止めようとしなかった！どういう躾がされてるのよ！！

シゲオ

そんなに怒るなよ。子供のしたことじゃないか

シゲオ

ユキの弟のことをそんなに悪く言うなよ

トモミ

え？今何て言った…？

シゲオ

だから、あの子はユキの弟だって。弟を姉の見舞いに来させて何が悪い

トモミ

ユキは一人っ子だけど、つまりどういうこと？まさか…

シゲオ

ここまで言ってもまだわからないのか？

シゲオ

さっき来た彼女が産んでくれた、俺の息子だよ

トモミ

はぁあああ！？つまり、隠し子だってこと！？浮気してたわけ！？

シゲオ

浮気っていうか、二重生活かな

トモミ

二重生活！？じゃあ、休日出勤とか言ってあんたは…！

シゲオ

どうだ、とびっきりのサプライズになっただろ

トモミ

何考えてんのよこんなサプライズ！！

トモミ

もう長くない娘の病室に、浮気相手と隠し子連れて来るなんて！

トモミ

何がユキの喜ぶサプライズよ！ふざけないで！

シゲオ

だってユキのやつ、弟か妹が欲しいって言ってたじゃないか

シゲオ

その願いを叶えてやったんだから喜ぶはずだろ

トモミ

喜ぶわけないじゃない！！

シゲオ

まぁ落ち着けよ。ユキが死んだら、俺彼女と再婚しようと思ってるんだ

トモミ

は！？

シゲオ

勿論お前とは離婚する。いいよな。その時にはユキはいないんだから

トモミ

なんでよ…なんでそんな酷いことが言えるのよ！自分の娘に対して！！

シゲオ

証拠はあんのかよ。俺の娘だっていう証拠は

トモミ

なんですって！？私が浮気してたとでもいうの？あんたじゃあるまいし！！

シゲオ

実際わかんねぇだろ。男にはさ

シゲオ

俺さ、娘なんかいらなかったんだよ

シゲオ

だって娘なんて跡継ぎにもならねぇしすぐ嫁に行っちまうし、

シゲオ

ごく潰しで役立たずだろ。その上病気持ちと来たもんだ

シゲオ

お陰で無駄に金がかかって嫌になるぜ

シゲオ

だからユキが死んだら、今度は息子の父親として新たな生活をスタートさせる。楽しみだなーｗ

シゲオ

俺、息子とキャッチボールするのが夢だったんだよな～♪

トモミ

酷い…こんな奴だったなんて…あんた人間じゃないわよ…！

シゲオ

言っただろ。死ぬ人間のことよりも、これから先の人生のことを考えて前を向くのが

シゲオ

生きてる人間の勤めだって

シゲオ

安心しろ。養われてるお前を放り出したりしねぇよ

シゲオ

特別に家政婦として家に住まわせて、俺の息子を育てさせてやる

トモミ

はぁぁ！？私に不倫の子を育てろって！？

シゲオ

いいじゃないか。死んだユキの代わりだと思って育てろよｗ

シゲオ

愛する俺の子だってことには変わりないんだからｗｗ

トモミ

私はあんたなんてもう愛してない。むしろ吐き気がするわ。それに、ユキは死んでない

シゲオ

でももうすぐ死ぬだろｗ

トモミ

いいわ、ユキの死後とは言わず、今離婚してあげる！

トモミ

勿論あんたらの家政婦にはならないわ！あの子がユキの代わり？冗談じゃない！

シゲオ

意地張っちまって～ｗま、こっちとしては助かるけどｗ

シゲオ

じゃーな、死にゆく娘と夫に捨てられた孤独な母親さんｗ

シゲオ

俺らは幸せになるわーｗｗ

～一週間後～

シゲオ

なぁ、慰謝料ちょっと減額してもらえないか？

シゲオ

会社、クビになっちまってさ…

トモミ

あー、やっぱりそうなったのね

シゲオ

やっぱりって…お前何か知ってるのか！？

トモミ

あんた達のこと色々調べさせてもらった結果、

トモミ

あんたが外回りと称して、しょっちゅうあの女と子供の家に行ってたのがわかったのよ

シゲオ

それを会社にチクったのか…？

シゲオ

しょうがねぇだろ！籍を入れてるのはお前の方なんだし、

シゲオ

その分彼女と息子をこまめに訪ねて優遇してやらなきゃ！

トモミ

それだけじゃないのよねー

トモミ

おかしいと思ったのよ。あんたの給料はそんなに高くない

トモミ

浮気相手の女もパートでしか働いてない

トモミ

なのに二重生活の金がどっから出てるのかと思ったら、

トモミ

会社の金を横領してたからだったなんてねぇ…

シゲオ

そのこともチクったのか！？お前！なんてことしてくれてんだよ！

シゲオ

俺はお前たちの分も、二重生活を成り立たせるために、横領までして頑張ってたんだぞ！

シゲオ

なのにこんな…

トモミ

そんなことで威張らないでよ。自業自得でしょ

シゲオ

なぁ、頼むよ！息子まだ小さくてこれから金がかかるんだ

シゲオ

困窮した俺達を苦しめないでくれよ。息子には何の罪もないだろ！

トモミ

ダメです。慰謝料も養育費も減額しません。ユキだってこれから沢山お金がかかるもの

シゲオ

嘘つくな！あいつはもうすぐ死ぬだろ！

トモミ

ところがあの後、奇跡的に持ち直したのよね

シゲオ

へ？

トモミ

お医者様も驚くくらいに回復していってるわ

トモミ

だから、しっかり養育費ちょうだいね

トモミ

あ、もちろん浮気相手にも慰謝料払ってもらうから

シゲオ

待ってくれ！！

トモミ

後は弁護士を通して話し合いましょう

～三年後～

シゲオ

久しぶり。トモミ、元気か？

シゲオ

俺今、死にそうなんだ…

トモミ

久しぶりね。あらそうなのー

トモミ

私もユキも、すっかり元気よ。病状はだいぶ回復したわ

トモミ

余命宣告されていたのが嘘みたいよ

シゲオ

そ、そうなのか…それはよかった

シゲオ

俺、テレビで見たよ。ユキがインタビューされてるところ

シゲオ

凄いよな。病院でユキが書いた闘病日記が、ベストセラーになるなんて…

トモミ

えぇ。私も読んだけど、ユキにこんな文才があるとは思わなかったわ

トモミ

生々しく胸を打たれる文章、幼い子供目線の等身大の闘病記録、

トモミ

心無い父親から残酷な仕打ちを受けても、諦めず生きようともがいた勇気

トモミ

それらが、病気と闘う子供達に勇気を与えているのよ

トモミ

自分も頑張らなきゃダメだ、って

シゲオ

それだけ売れてるなら印税ガッポガッポだろ。いいなぁ～

トモミ

ちょっと、この話聞いて、言うことがそれ！？

シゲオ

いや～俺本当は、ユキのことずーっと心配してたんだよなぁ

シゲオ

でも回復したなら良かったよ

シゲオ

なぁ、俺戻ってきてもいいかな？前みたいに、また三人で暮らそう！

トモミ

冗談じゃないわよ！あんたの鬼畜ぶりは、もう世間には知れ渡ってるから！

シゲオ

そんな！

トモミ

あんたには新しい奥さんと、一緒にキャッチボールできる可愛い息子がいるんでしょ

シゲオ

それが…あいつ、俺の子じゃなかったんだ…

トモミ

え？

シゲオ

今の嫁、浮気してたんだよ！俺以外の男と！！

シゲオ

息子とDNA鑑定をしたら、血が繋がってなかった

シゲオ

俺、騙されてたんだ…浮気相手の子を育てさせられてた…

トモミ

あらあら。でも、あなたが私にさせようとしたことじゃない

シゲオ

え？

トモミ

言ったわよね。あの時、私があんたの不倫の子を育てろって

トモミ

愛する人の子なら、問題ないんでしょ。子供に罪はないんでしょ

シゲオ

問題ないわけあるか！！俺、何のために二重生活頑張って、クビになって

シゲオ

慰謝料と養育費まで払ったんだよ…

トモミ

知らないわよ。さっさと離婚でもすれば？私がしたようにね

シゲオ

離婚しようにも俺、難病で入院しててさ…

シゲオ

嫁は俺がどうせ止められないとわかって浮気三昧で、見舞いにも来ない

シゲオ

息子だと思ってた奴はそんな俺をバカにしてくる

シゲオ

なぁ助けてくれよ…ユキを必死で支えてやったように、今度は俺を支えてくれよ！

トモミ

腐れ外道のあんたとユキを一緒にすんな！！

トモミ

子供のユキがあんたに酷いことされながらも必死で頑張ってたのに、

トモミ

大人のあんたが泣き言言ってんじゃないわよ！

シゲオ

でも！

トモミ

ま、あんたは金のことばっか気にしてたし、ユキの本もどうせ買ってないんでしょ

トモミ

読んでほしくもないけど

シゲオ

そんなことない！読んださ！すごく感動した！悪いと思った！

トモミ

じゃあユキが看護師さんや私とした会話の内容、少しでも言える？

シゲオ

それは…

トモミ

やっぱりね。適当に感動したとか言わないでちょうだい

シゲオ

待ってくれ！実はドナーが必要で、血の繋がったユキならと思って…

トモミ

冗談じゃない。あんたなんかにユキの臓器をやれるもんか

シゲオ

そんな、実の父親を見捨てないでくれよ！おい！！

トモミ

あんたの言ってた通り、死にゆく人間のことよりも、これからの人生を前向きに考えるわねｗ

～後日談～

トモミ

その後、結局シゲオのドナーは現れず、今は絶望的な状況だそうです

トモミ

浮気相手の女は既婚者に手を出してしまったことで慰謝料請求され、

トモミ

その上入院費までかかるなんて冗談じゃないと、

トモミ

シゲオを見捨てて離婚したのだそうです

トモミ

子供は結局、育てていけなくなり施設に入れられたのだとか

トモミ

子供に罪はない…そうかもしれません

トモミ

でも私は、ユキの頭を指さしてバカにしたあの子も許せません

トモミ

一家揃って地獄に落ちろと思っています

トモミ

私達は印税の一部を、病気と闘う子供達のために寄付しました

トモミ

一人でも多くの子供が救われますようにと祈っています

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結城真矢

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