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【はじめに】

この物語は

『地震』を題材とした

フィクションです

苦手な方はご注意ください

西崎トオル

部長、大変です

髙田淳

どうした?

西崎トオル

地震予知を観測しました!

髙田淳

なんだと

髙田淳

いつだ?いつ来る予測だ

西崎トオル

それが

西崎トオル

4時間後です

髙田淳

どういうことだ

髙田淳

一週間前には予知できる仕組みのはず……

自身で考案した 『地震予知危険速報機器』

人類史上初である 『一週間前に地震を予知する』 画期的な機器だった

今までにも 数々の地震を予知した 実績がある

髙田淳

震度は

西崎トオル

最低でも震度6です

髙田淳

最低でも……

髙田淳

震源地はどこだ

西崎トオル

それが

西崎トオル

ここなんです!

髙田淳

会社付近……

西崎トオル

そうです!

西崎トオル

部長!いつ戻って来れますか!?

髙田淳

落ち着け西崎、俺が出張先なのは知っているな

西崎トオル

知ってます!
でも今すぐ飛行機で戻って来れば……!

髙田淳

無理だ、間に合わない

髙田淳

どういうわけか辺鄙な場所に呼び出されたんだ。空港まで戻るにも時間がかかる。

西崎トオル

そんな……

髙田淳

避難を呼びかけるんだ。国にも要請を。

西崎トオル

俺ひとりじゃ

髙田淳

今はそんな事を言っている暇はない。急ぐんだ。

髙田淳

全社員、地震に備えた業務を優先。

髙田淳

わからないことがあればすぐに連絡を。

髙田淳

頼んだぞ西崎。
俺もすぐそちらに向かう。

西崎トオル

わかりました……!

髙田淳

ゆのは、帰ってるか?

ゆのは

うん!
いまかえってきた

小学3年生の娘

ゆのはが産まれてまもなく妻は亡くなった

シングルファザーとして ゆのはと暮らしている

ゆのは

たなにある
おかし
食べていい?

髙田淳

それは良いが。
ゆのは、少し聞いてくれ

ゆのは

なーに?

髙田淳

クローゼットに防犯セットが置いてあるな?

ゆのは

うん、あるよ

髙田淳

それを出して自分のそばに置いておくこと。

髙田淳

少し重いかもしれないが

ゆのは

おもいよー

ゆのは

ひきずったらパパおこるもん

ゆのは

ゆかにキズがつくって

髙田淳

今回は引きずっても良い

ゆのは

ゆのは

パパなんか
変だよ

髙田淳

……ゆのは、落ち着いて聞いてくれるか?

ゆのは

うん

髙田淳

4時間後に地震がくる

ゆのは

え?

ゆのは

パパ、いつ帰ってくるの?

ゆのは

地震の前にかえってくるよね?

髙田淳

今、急いで家に向かってるが
間に合いそうにないんだ

ゆのは

やだよ

ゆのは

やだよパパ怖いよ

髙田淳

大丈夫だ、ゆのは

髙田淳

まだ4時間もある

髙田淳

その前にちゃんと準備しておけばいいんだ

ゆのは

うん……

髙田淳

防犯セットのポケットに避難地図がはいってる

ゆのは

あった

髙田淳

もうすぐニュースで避難の指示があるはず

髙田淳

そしたら避難所も開く

髙田淳

防災セットが重すぎるなら荷物を減らしてくれ

ゆのは

わかった

髙田淳

大丈夫だ

ゆのはが小さい頃から 防災について教えてきた

髙田淳

ゆのはの防災知識は大人顔負けだぞ

ゆのは

……うん!

髙田淳

こまめに連絡するから

ゆのは

わかった!
じゅんびするね

髙田淳

状況はどうなってる?

西崎トオル

それが

西崎トオル

地震の詳しい情報にアクセスできないんです

西崎トオル

詳細が無ければ国にも避難要請できません

髙田淳

緊急時は社員の者なら誰でも閲覧できる仕様になっているはずだ

西崎トオル

しかし弾かれるんです

西崎トオル

何回アクセスしても、本人のパスコードを入力しろとしか

髙田淳

俺のパスコードということか

バグか

もしかすると地震予知自体 バグによる誤報の可能性がある

しかし完全に否定できない今は 地震が起こると仮定して 動くのが懸命

髙田淳

西崎、政府にできるかぎりの説明を

西崎トオル

部長!

パスコードを教えることは禁忌だった

この状況にあっても

万が一 取扱権限が 悪意ある者に渡った場合

どんな被害が起こるか わからない

髙田淳

震度とおおよその震源地はわかっているんだ

髙田淳

それだけでも避難を促すことはできる

髙田淳

こちらでも何か策を練る

西崎トオル

わかりました

髙田淳

頼んだぞ

ゆのは

これくらいなら持てるかな

防災セットの中身を 少し減らして 背負ってみる

ゆのは

よし

確認して背中からおろす

そして部屋の片隅へ。

手に取ったのは一枚の写真

写真嫌いだったママと 小さい自分が 一緒に写っている唯一のもの

闘病中で、毛糸の帽子をかぶり痩せているママ

その写真を額ごと丁寧に リュックへ仕舞った

ゆのは

あとは、スマホを
じゅうでんして

ゆのは

おふろにお湯もためとかなきゃ

ずいぶん昔にパパからもらった防災絵本を片手に ひとりごとを呟く

そのとき

ピンポン

家のインターホンが鳴った

そっと マンションオートロックの モニターを確認する

ゆのは

知らない人だ

ひとりの時は居留守をつかうとパパと約束していた

その人が去るまで モニターをながめる

謎の人物

──ゆのは

ゆのは

え?

知らないはずのその人は確かにゆのはと名前を呼んだ

しかし たとえ名前を呼ばれても 知らない人にはついて行かない

パパとの固い約束

謎の人物

ゆのは、ひ──

そこで、インターホンはプツリと切れた

ゆのは

だれ?

ゆのは

なにか言ってた

ゆのは

……パパにきいてみよう

髙田淳

ゆのは、今どんな感じだ?

ゆのは

あのねパパ

ゆのは

知らない人が家にきたよ

髙田淳

なに?

ゆのは

居留守つかって
インターホンにもでてないんだけど

ゆのは

わたしの名前しってたの

髙田淳

どんな奴だ?

ゆのは

女の人

ゆのは

髪がね、ちゃいろだった

髙田淳

それだけじゃ
分からないな……

ゆのは

あれ

ゆのは

またインターホンなってる

ゆのは

ねえ、あの女の人だよ

髙田淳

そんなにしつこく来るのか?

ゆのは

うん、あれ?

ゆのは

このインターホン、オートロックの場所じゃないよ

ゆのは

うちの玄関のとこだ

髙田淳

勝手に入ってきたのか?

ゆのは

みたい

髙田淳

ゆのは、出ちゃダメだ

ゆのは

わかってるよ

ゆのは

またわたしの名前よんでる

髙田淳

写真撮れるか?
誰かわかるかもしれない

ゆのは

うん、ドアスコープからとってみる

5分後

髙田淳

ゆのは、どうだ?

髙田淳

ゆのは?

髙田淳

応答なし

応答なし

髙田淳

ゆのは、返事を。

髙田淳

どうしたんだ

それ以降

ゆのはからの連絡が途絶えた

西崎トオル

部長

西崎トオル

やはり
パスコードがないとダメです

西崎トオル

政府にも
取り合ってもらえません

髙田淳

そうか……

髙田淳

わかった

髙田淳

パスコードは念のため
電話で伝える

髙田淳

通話終了

通話
01:30

西崎トオル

アクセスできました!

西崎トオル

すぐに情報をまとめて
上に伝えます

西崎トオル

ハッ

西崎トオル

部長はバカだなぁ

西崎トオル

こんなに優秀な機器の
開発者とは思えない

西崎トオル

車の鍵は……っと、コレだな

機器を 全て詰め込むための車は すでに手配していた

西崎トオル

こんな小さい会社と

西崎トオル

こんな陰気くさい国とは
とっととおさらばだ

口角が上がるのを抑えられない

西崎トオル

海外で豪遊生活か

海外に機器を売り飛ばす

たったそれだけで 大金が手に入る

西崎トオル

さて

西崎トオル

もうひとりの計画は
どうなってるかな

西崎トオル

おい

西崎トオル

そっちは順調か

謎の人物

はい

謎の人物

髙田のマンションにも
侵入できました

西崎トオル

合鍵はピッタリだった
ってことか

謎の人物

はい
さすがですね西崎様

この計画のため

事前に 髙田部長の荷物をあさり

合鍵を無断でつくっておいた

西崎トオル

とっとと娘を連れ出せ

西崎トオル

愛娘さえ人質にとれば
こっちのものだ

謎の人物

承知しています

警察に通報すれば 娘の命はない

そう脅すことで

追手が 迫るまでの時間を稼ぐのだ

謎の人物

娘はその後
どうされるのですか

西崎トオル

用が終われば
その辺に
放り出せばいい

謎の人物

悪い御人ですね

鼻で笑う

西崎トオル

その悪い奴についてくる
お前も

西崎トオル

相当悪い人間だな

謎の人物

ええ

謎の人物

ごもっともです

ゆのは

あの、なんですか?

ゆのは

こんな所に
つれてきて

インターホンを押した 謎の人物は

鍵をかけたはずのドアを越えて

玄関に立っていた

そして あれよあれよという間に

外に連れ出されていた

謎の人物

言ったでしょう?

謎の人物

ゆのはと遊びたいって

ゆのは

よびすて……

初対面の人に 呼び捨てされるのは

あまり慣れていない

謎の人物

よーし何する?

ゆのは

いや……そう言われても

謎の人物

鬼ごっこ?
なわとび?

謎の人物

そうねぇ
今、体育では何してるの?

謎の女性は なぜかとても楽しそうだ

ゆのは

え……ドッジボールですけど

謎の人物

いいじゃない!

謎の人物

じゃあ二人で
キャッチボールしましょう!

女性は いつのまにか 手にボールを持っている

ゆのは

どこから出てきたんですか
そのボール

謎の人物

まあまあ
細かいことは気にしない!

女性は足取り軽く

ゆのはから 距離をとって叫ぶ

謎の人物

いくよー!!

ゆのは

ああ、もう……

ゆのは

って、うわああ

女性が投げたボールは

見当違いな方向へ 飛んでいった

西崎トオル

よし
これで全部だな……

機器を全て 車に積みこんだ

謎の人物

西崎様!

西崎トオル

ん?
どうした慌てて

別行動していた “パートナー”が走ってくる

西崎トオル

……おい

西崎トオル

娘はどうした

謎の人物

それが

謎の人物

私が侵入した時には既に
もぬけの殻で

西崎トオル

なに?

西崎トオル

……お前がそんなに使えない奴だったとはな

謎の人物

申し訳ありません……

西崎トオル

まあいい

西崎トオル

幸運にも
まだ部長には気づかれていない

西崎トオル

今のうちに逃げるだけだ

そう言った瞬間

眩いほどの フラッシュがたかれる

どこに潜んでいたのか 流れ込んでくる人々

警官だ──

西崎トオル

な──

警官の背後から現れたのは

紛れもなく 髙田部長、本人だった

髙田淳

西崎

西崎トオル

部、長

西崎トオル

そんな

西崎トオル

出張先から帰ってくるには
早すぎる!

髙田淳

……わざわざあんな
辺鄙な場所に飛ばしたのも
お前の仕業だったか

髙田淳

早く帰ってこられたのは
警察の協力だ

低く冷たい声が響く

西崎トオル

なぜ……なんでだ……!

西崎トオル

どこが…いつから……

髙田淳

お前に教えたパスコード

髙田淳

あれはフェイクだ

西崎トオル

フェイ──ク──

髙田淳

俺が、他人に易々とパスコードを教える人間だと思ったか

落胆したように ため息をつく髙田

髙田淳

あのパスコードを入力すると

髙田淳

監視カメラが
起動するようになってる

髙田は手に持つスマホを ひらひらと振る

髙田淳

お前のひとりごとも
全部筒抜けってわけだ

髙田淳

取扱権限をもつ俺
そして同時に
警察にも
送信されるようになってる

西崎トオル

そんな……

髙田淳

俺を甘く見たこと

髙田淳

それがお前の敗因だ

気づけば 膝から崩れ落ちていた

髙田淳

話はまだ終わってない

髙田淳

あんたも共犯だな

謎の女は 諦めたように言い捨てる

謎の人物

そうですが

髙田淳

娘を、どこにやった──

瞳に 強い怒りが灯る

謎の人物

謎の人物

娘?

髙田淳

とぼけるな

髙田淳

家のインターホンを
鳴らしたのはお前だろう

女は鼻で笑う

謎の人物

私はインターホンなんて
押してません

謎の人物

鍵を使って侵入しただけ

髙田淳

なに……?

謎の人物

娘さんは
家にいらっしゃらなかった

髙田淳

嘘をつくな

髙田淳

ゆのはと連絡が途絶えたのは
どう考えても
お前達の仕業だろう

謎の人物

さあ

謎の人物

知らないことは知りませんもの

その時

警官から知らせが入った

髙田淳

なに

髙田淳

見つかった?

髙田淳

無事なのか!?

髙田淳

良かった…………

髙田淳

すぐに向かう
ここは任せた

警察署に向かうと ゆのはが保護されていた

髙田淳

ゆのは! ゆのは!

ゆのは

あ、パパ

髙田淳

無事か? ケガは?

ゆのは

うん? してないよ?

ゆのは

ねえ、地震こないの

髙田淳

ああ、あれは誤った情報だった

髙田淳

怖がらせてすまなかった

ゆのは

そっか、良かったぁ

ゆのははホッと 胸を撫で下ろした

髙田淳

今までどこにいたんだ?

髙田淳

連絡もよこさずに……

ふと視線をおろして気づく

髙田淳

……なぜ服が
こんなに土まみれなんだ

ゆのは

キャッチボールしてたの
すっごく下手なの

髙田淳

キャッチボール

髙田淳

友だちか?

ゆのは

違う

髙田淳

誰だ?

ゆのは

知らない人

髙田淳

知らない人……

ゆのはは慌てて弁明する

ゆのは

ちゃんと居留守つかったよ!

ゆのは

カギもかけてたのに
なんでかあの人
入ってきちゃったの!

髙田淳

それは

警官に声をかけ 一枚の写真を見せる

先程の 共犯である女の顔写真

髙田淳

こいつか?

ゆのは

ううん、ちがうよ

即答する ゆのは

思わず首を傾げた

髙田淳

じゃあ、いったい誰なんだ……

ゆのは

その女の人と
キャッチボールしてね

ゆのは

つかれたね〜って
ベンチで休んで

ゆのは

たまたま手が当たっただけど
その人すごく冷えてたから

ゆのは

それで……

髙田淳

それで?

ゆのは

おこらないでね

髙田淳

……わかった

ゆのは

おうちに帰って
お風呂にいれてあげた

髙田淳

家に……

あの共犯が家に侵入したのは

ゆのはが キャッチボールをしに 家を空けた時だろう

すれ違っていたのだ 不幸中の幸い

ゆのは

ちょうど地震の準備で
お湯ためてたから。

ゆのは

そしたらインターホンがなって

ゆのは

おまわりさんが入ってきたの

ゆのは

でね、お風呂場にいったら

ゆのは

女の人いなくなってた

髙田淳

いなくなってた?

ゆのは

そう

ゆのは

おまわりさんと
家中さがしたのに
いなかった

ゆのは

窓も全部カギかかってたんだよ

髙田淳

なんとも……不可解だな

ゆのは

でしょ?

ゆのは

ただわたしと遊んで
どこか行っちゃったの

ゆのは

あ、そういえば

何かを思い出したゆのは

ゆのは

洗面所で
タオルとかお着替えとか
用意してたらね

ゆのは

その人
おふろの中から言ったの

ゆのは

「パパと仲良くして、にんじんもちゃんと食べるのよ」って

ゆのは

変でしょ?
わたし、にんじん大好きなのに

髙田淳

そ、れは──

頭が追いつかないまま

ふたりで署を後にした

数日後

なんとか 普段の生活を取り戻していた

髙田淳

ゆのはー?

髙田淳

写真が無いんだが

ゆのは

んー?

ゆのは

……あ!

ゆのは

防災セットのなかに
入れっぱなしだ!

ゆのはが クローゼットから 防災セットを引きずり出す

髙田淳

引きずらない、床に傷が──

ゆのは

はーい

聞いているのか、いないのか

丁寧に 額ごと写真を取り出したゆのは

その動きが止まる

ゆのは

あれ?

髙田淳

どうした?

ゆのは

パパ、変だよ

ゆのは

写真がちがうの

髙田淳

なに?

ゆのはの手元をのぞきこむ

思わず身体の動きが止まった

ゆのは

だれが変えたんだろう

髙田淳

これ──は──

ゆのは

……あ!!

ゆのはが突然叫ぶ

ゆのは

この人だよ!

ゆのは

この女の人!!

ゆのは

キャッチボールしたの!

ゆのは

なんで
この人の写真あるんだろう??

ゆのは

ねえパパ

ゆのは

……パパ?

ゆのは

パパどうしたの?

ゆのはが慌てて ちり紙を取ってきて 差し出す

そこでやっと気がついた

泣いていることに

ゆのは

パパ? なんで泣いてるの?
深呼吸だよ

髙田淳

……ああ

涙が落ち着いて

心配そうな顔をするゆのはに

ポツリポツリと話をはじめた

髙田淳

この写真

髙田淳

ずっと探していたものなんだ

髙田淳

どこかにあるはずなのに
見つからなくてな

ゆのは

そうなの?

髙田淳

ああ

髙田淳

この女性はな、

髙田淳

ゆのはのママだ

ゆのは

────えっ?

ゆのは

え、だって
いつもの写真と全然ちがう

髙田淳

これは
病気になる前に
撮ったものなんだ

髙田淳

飾っておく写真も
こっちの方が
嬉しいだろうと思って
ずっと探していた

写真を指でなでる

ゆのは

だって、でも、この人だったよ
前、会ったの

髙田淳

ああ

ゆのは

わたしの、見間違い?

髙田淳

──いや

懐かしい言葉をたどる

髙田淳

『パパと仲良くして、にんじんもちゃんと食べるのよ』

ゆのは

それ──!

髙田淳

ゆのはは小さい頃
にんじんが大嫌いでな

ゆのは

ええ!?

髙田淳

信じられないだろうが

髙田淳

そりゃあもう嫌ってた

ゆのは

にんじん、おいしいよ

髙田淳

ああ、知ってる

髙田淳

今では大好物だ

髙田淳

でも昔は違った

髙田淳

だから、口癖だった

髙田淳

病院の面会時間が終わる頃
いつも言ってたよ

ゆのは

ママ──

ゆのは

ママなの?

ゆのは

この前、来てくれたのは
ママなの──?

髙田淳

ゆのはと外で一緒に遊ぶのが
夢だったんだろうな──

ゆのはが しゃくり上げる

ゆのは

ママね、ママね

ゆのは

すごく
ボール投げるの下手でね

髙田淳

ああ

ゆのは

わたしが投げるとね

ゆのは

すごいねって
上手だねって

髙田淳

うん

ゆのは

それにね
最初から呼び捨てで

ゆのは

もし、ママだって、わかってたら

ゆのは

もっとちゃんと──

震える小さな身体を 抱きしめると

大きな声で泣きだした

その声にかき消されながら 小さくつぶやく

髙田淳

ゆのはを、助けてくれて

髙田淳

ありがとうな──

写真のなかで笑う彼女も

温かく小さな身体も

全部全部 丸ごと強く抱きしめた

頬をつたって こぼれた雫が

写真におちて

きらりと光った

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