タトゥーは大体1週間もすれば痒みが落ち着く。 勿論大きさにもよるだろうが、今回のイルカのタトゥーはその平均的な期間で落ち着いた。 いつもより何故か早く過ぎた1週間だった。
ジン
夕食後、ジンヒョンに聞かれTシャツをべろっと捲って見せる。 勿論、多少近くまで行って、だ。
ジン
ホソク
こうやって必ず確認するのは、掻くのを釘刺しするのと同じ習慣なんだろう。 だから僕の言葉に返事はしないし、自分が彫ったタトゥーの出来栄えに納得してるのが見て分かる。
確認を終えるとジンヒョンはすぐ自分の部屋に帰る。 テレビを付けないままでいると、僕しかいなくなったこの部屋は静か過ぎて落ち着かない。
昼とも夜とも呼ばないあの時間程じゃないけれど、"静寂"というものに拒否反応があるのは確かだ。
だから入浴の為にリビングを離れる時も必ずテレビは付けたままにしておくしどうしても落ち着かない時はジンヒョンの部屋に降りて行ってそこで少し気を和ませる時間を作ったりする。
当然、ジンヒョンはそれに関して何も言わない。 口は悪いけど、良い兄を持ったと思う。
シャワーからリビングに戻って来ると、最近人気のドラマのOSTが流れるテレビの音に紛れて通知音が聞こえた。
音は聞こえたものの肝心の携帯が見当たらなくて、髪を拭きながら辺りを見渡した。 キッチンの作業場の上だ。
2個のカトクを見たばかりなのにまた新しい文章が追加される
そんな独り言みたいな事。 最後にㅋㅋㅋまでくっ付けて。
どれからどう返そうか悩んだけれど、手っ取り早く"ジョングギは?"という狡い返事を返した。
ごもっともな返答が来て、髪を拭く手を止めて少し笑った。
結局どうなったかと言うと、深夜を過ぎてから出かける事になった。 "眠くならないかどうか"よりも圧倒的にあの時間に目覚める可能性を回避できる事の方が勝った。
僕は1日の汗を流し終えたばかりだというのに、今汗をかいてるジョングクとこの後出かけるとは。 あべこべで面白い。
もう少し時間が残されている事で、準備は割と余裕を持ってできそうだ。 だから髪を乾かした後で直ぐに着替えだけ済ませると、タブレットをソファの上に置いた。
それから念の為、眠くならない様にカフェインを摂取しておこうとコーヒーも
ジョングクが来る予定まで約2時間弱の猶予。
イラスト描きに没頭していたせいか、その時間はあっという間に過ぎた。 どの色を塗ろうかと画面の上にペンタブを迷わせていると、隣の携帯から短い通知音が鳴って
ジョングクからのカトクが届いた。 集中していたせいでバイクの音に気付かなかった、と思ったけれど違うとすぐに気付いた。
何故ならカーテンを少し開けて窓の外を見たけれどそこにバイクに跨ったジョングクの姿がなかったから。 そのかわり、今日の夜と同じくらい黒い色の大きな車がそこにあった。
それがジョングクの車かどうか判断出来ずにいると、手に持ったままの携帯にまた1個カトクが来て
僕が目にしている車はジョングクの物で合っていた。
車から僕を見ているのだろうか。 こちらからは確認出来ないけれど、この文章が来るのだから多分そう。
少し恥ずかしくなってカーテンをピッチリと閉めた。
てっきりバイクで来ると思っていた。 だからわざとプードルファーのフード付きのアウターを用意してしまっていて
あまり待たせる訳にもいかないと思い、半袖のTシャツの上にそれを羽織るという季節感がよく分からない仕上がりになった。 半袖とファーで相殺するみたいな事が通用するかどうかは不明だが、心も足取りも軽い。
今日の逸脱したファッションを除いて、だけれど。
グク
車の外に出ていたジョングクの一言目がそれで、まさか顔を合わせるなり指摘されるとは思っていなかった。
目の前のジョングクはこないだと違って、胸元に小さくロゴの入った白いロンT一枚だ。 そんな自分の前に真冬の装いが来たらそう言いたくなる気持ちも分かる。
だから"バイクが"と無計画のままその単語をとりあえず口にしようとしたのだけれど
グク
ジョングク側から正にそれという言葉が来た。 だから強めに2回頷くとジョングクも何故か同じ様に2回頷いた。
ジョングクが頭を振ったせいか、また爽やかな香りが漂った。香水だろうか、シャンプーだろうか。 どっちにしろ癒されるような香りである事は間違いない。
グク
グク
'乗って'と続けて助手席のドアを開けてくれた。 いや、開けてくれただけじゃなく閉める所までだった。
バイクとは違ってだいぶ静かなエンジン音がかかると'行くよ〜'とジョングクが呟いて、車はゆっくりと動き出す。
時間は0時20分を過ぎたあたり。 車内のデジタル時計がそう表示している。 車はやっと少なくなったという感じだが、それでも時折すれ違う車のヘッドライトが眩しくて目を細める。
ホソク
ふと気になった。 走り始めた後で聞くなんて遅いとは思うけれど、今がそのタイミングなのだから仕方ない。
グク
横顔のジョングクがニッと笑う。
ホソク
グク
グク
流れていた音楽が丁度次の曲に切り替わった。 その曲がジョングクのお気に入りだったようで、こないだよりも随分本腰を入れて歌い始めた。
グク
結局、どこに行くか正解は分からず仕舞いで引き続きただ車に揺られる。
でもジョングクの歌が上手すぎて、声が心地良くて、行き先なんかの話でそれを止めてしまう事はしたくなかった。
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