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中島母

早く起きなさい! 敦!

そんな声で目が覚める。

中島敦

うぇっ!

思わず、ベッドから転げ落ちそうになるが、そこはセーフ。

中島母

あんた、今日は入学式なんだから、早く起きなさいね!

中島敦

あ、そっか……

中島母

あ、そっか……じゃないのよ!
はい、早く下来る!

中島敦

はあい……

中島敦

(……なんだか変な夢を見たなあ……)

ぼうっとまだ寝ぼけている。

中島敦

(どんな、夢だっけ……?)

ぼけっとしていると、また強く扉が開いて、

中島母

あんた遅刻したら、弁当作らんからね!

という母の怒号が耳を貫いた。

中島敦

ええ! それは嫌だ!

中島母

だったら起きる!

中島敦

はあい……

完全に冷めた眼を擦って、脱水所へ行き、顔を洗う。

そこには夢の中の少年と同じ顔が映る。

中島敦

……やっぱり、あの人、僕、だよね……

内容はあまり覚えていないのに、最後に出てきた男の人の顔だけははっきりと覚えている。

僕の顔だと思ったからだろうか。

中島敦

(とりあえず、このことは一旦置いておいて、ご飯食べに行こう)

敦はリビングへ向かった。

中島母

もう、ようやく起きたのね

中島母

ほら、お椀にお米よそって。味噌汁も自分で入れて

中島敦

はあい

お椀の中にほくほくの白米を入れて、机に置く。

そしてまた別のお椀にお味噌汁を注ぐ。

そしてそれをまた机に置く。

中島敦

……いただきます

初めて高校生としての朝を迎えた。

校門の前。

華々しく、入学おめでとうと書かれており、心が浮き立つ。

中島敦

お母さん、緊張しすぎだよ……

中島母

だ、だって……緊張するじゃない、こんなの……

息子より母の方が震えてしまっていることが、敦にとって愉快でたまらなかった。

泉鏡花

あ、敦……!

ふと、そんな声が聞こえて後ろを振り向くと、そこには幼馴染の泉鏡花がいた。

中島敦

鏡花ちゃん! おはよう

泉鏡花

うん、おはよう

泉母

あら、おはようございます。中島さーん!

中島母

あら、おはようございます〜!!

母たちは子供たちをぽっぽいて楽しそうに話し始めてしまった。

中島敦

本当、仲良いよねえ……

泉鏡花

もう、恥ずかしい……

中島敦

あはは

谷崎潤一郎

あ、敦くん、鏡花ちゃん

泉鏡花

あ、

二人の一つ先輩である谷崎潤一郎が後ろからやってきた。

中島敦

谷崎先輩! あれ、どうしてここに?

谷崎潤一郎

ナオミの親代わりだからね

谷崎ナオミ

お久しぶりですわね、敦さん、鏡花ちゃん!

中島敦

あ、そっかあ〜! ナオミちゃんもこの高校、受験したんだっけ?

泉鏡花

また、今年も一緒だね

谷崎ナオミ

ええ! 嬉しいですわ!
それに兄様がいますから、ここしか選択肢はなかったの

谷崎潤一郎

ナオミ〜

中島敦

目が座ってるよ

泉鏡花

少し怖い

芥川龍之介

まったく、貴様らは朝っぱらからやかましいな

中島敦

龍!

またもや幼馴染の芥川龍之介が後ろからやってきた。

中島敦

今年も一緒だね、よろしく

敦は芥川に抱きつく。

芥川龍之介

仕方がないから一緒にいてやろう

中島敦

本当は嬉しいくせに

実は二人は中学の頃から付き合っている。

初めは秘密にしていたのだが、とある人物のせいでそれがバレてしまった。

その人物といえば……

中原中也

よう、手前ら。朝っぱらから元気だなあ

谷崎潤一郎と同い年であり、芥川の従兄弟であるこの男によって。

中原中也

おお、いいじゃねえか。後輩って感じがする

芥川龍之介

上級生がここにいると訝しげに思われますよ

中原中也

いいじゃねえか。大事な手間に会いにきたんだ

中島敦

それは嬉しいですけど……

泉鏡花

どーせ、敦と龍之介をからかいにきただけでしょ

中原中也

半分正解だ!

中島敦

正解なんかい……

中原中也

でもその半分は、祝いの心だぜ。

中原中也

入学、おめでとう。

中島敦

……ふふ、ありがとうございます

江戸川乱歩

……ねえ、国木田くん

国木田独歩

……なんです

江戸川乱歩

またあのやかましいのがきたよ

国木田独歩

やかましいのとは?

江戸川乱歩

敦と、鏡花と、谷崎兄妹と、芥川と、中原。

国木田独歩

まあ、来るだろうなとは思っていましたけどね

江戸川乱歩

まあね〜

江戸川乱歩

……僕たちが教員になって、他の社員や他の人たちはみんな学生としてここに来てる。

江戸川乱歩

社長も晶子もこの学校の社員で。

江戸川乱歩

賢治もどうせここに来るんだろうね。

江戸川は深くため息を吐いた。

江戸川乱歩

それなのに、僕たち以外は、みんな記憶がない。

江戸川乱歩

……どうしてだろうね?

国木田独歩

……それが、太宰の願いだったのではないですか?

国木田独歩

地獄に落ちても忘れてほしくなかった

国木田独歩

世界が変わっても忘れないでいてほしかった

国木田独歩

そういうことではないですか?

江戸川乱歩

……じゃあ、どうして僕たち二人なの?

国木田独歩

それは……

国木田独歩

……誰より、一番、そばにいた、からでしょうかね

江戸川乱歩

……ふふ、僕も、そう思うよ

江戸川乱歩

……本当に、地獄に落ちたのかな……?

国木田独歩

さあ? 本人に聞いたら、わかるんじゃないですか?

江戸川乱歩

無理だね、それは

ふと江戸川はすくっと立ち上がり、国木田の背中をたたく。

国木田独歩

うおっ、なんですか

江戸川乱歩

さあ! 新入生を歓迎しよう!

江戸川乱歩

僕たちの今は教師なのだから!

国木田独歩

……はーい

あの、長い長い日々はこうして終わりを告げた。

永遠にも思えるあの時間も、すべて終わりが来てしまった。

それを悲しむべきか喜ぶべきか。

まだわからないままだが、それでも、

それでも、きっと、あの日々は無駄じゃなかった。

異能というしがらみがあったせいで、上手い具合に生きていけなかった。

生きていたかったから、たくさんの犠牲を生み出してしまった。

悲しみと苦しみと痛みが葛藤と共に混ざり合って、胸の奥深くに刺さっていたから、誰もが苦しかった。

戦わなくてはいけなかった。

立ち向かわなくてはいけなかった。

……いまだに、彼のことがわからない。

どうしてそこまで生きていたかったのか、わからない。

でも、きっと我々と同じように過ごしていきたかったんだ。

ただ平凡な朝を迎えて、ただ平凡な夜を迎えて。

ただ単純なことでも、彼にとっては素晴らしいものに見えたのだろう。

だから、生きていたかった。

世界に散りばめられた美しさに触れていたかった。

それがたとえ神への冒涜だとしても。

シンデレラのように魔法の靴を履いて、

共に生きてくれる大切な人と笑っていたかったのだ。

それだけが、唯一の望みだったのだ。

これは、あまりにも壮大な、一人の少年の生きたいお話であった。

罪と罰の花嫁

および

罪とシンデレラ

これにて、終演。

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コメント

18

ユーザー

初見ですm(*_ _)mよろしくお願いします🙏 最近から罪と罰の花嫁、罪のシンデレラを読みました✨️ もう、なんて言ったらいいのか分からないくらい壮大な話で涙が止まりませんでした〜💦😭本編のifのストーリー見たいで公式と言ってもいいくらい凄かったです!!表現の仕方や読者に想像させる描きぶりがとっても「続きが読みたいッッ」て感じて1日で読んでしまいました💦 コメント長くてすみません🙇‍♀️💦これからも頑張ってください‼️

ユーザー

やば、凄すぎる✨がちの天才ですね、私は馬鹿すぎて理解がほぼ及んででないのですが、とりあえずさいこーっす︎︎👍

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