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空を見上げると、相変わらずの曇り模様。

むしろさっきより雲の厚みが増しただろうか。

オープンモールの出口を抜けると、特徴的なサークル状の歩道橋が視界の隅に映り始めた。

形状もそうなのだが、歩道橋にしては珍しくエスカレーターがついているのが変わっていた。

目的の駅に行くにはあれを渡るのが一番早い。

来る時も通ったから渡るのは2回目になるが、改めて見ると、大きい。

それは僕たちを向こう側に通すためのものなのに……、まるで行く手を阻む壁みたいに感じられた。

スズ

わたしたちって、初めて会ってからどれくらいだっけ?

スズ

全然経ってないよね

ユウヤ

2ヶ月経つか経たないかくらいかな……

スズ

そんなだっけ!?

スズ

全然そんな感じしないなぁ

ユウヤ

……そうだね

スズ

時間経つの早いね~」

ユウヤ

……うん

立花さんが、僕たちが出会った頃の話を始める。

だけど、今はそんな話をする気には到底なれなかった。

脳内では先ほどの会話が反芻し続け、思考の沼に僕をズブリと沈めた。

スズ

……さっきから元気ないよ?

ひょこっと、彼女の顔が横から現れる。

そこで僕たちは、歩みを止めた。

右隣から僕を覗き込むその表情は、心配そうに曇っていた。

ユウヤ

……ごめん

スズ

もしかして、さっきのこと気にしてる?

ユウヤ

…………

ユウヤ

(……このままじゃ、ダメだ)

ユウヤ

(限界だ)

他のことが考えられない。

立花さんの隣を歩くのが、つらい。

ユウヤ

…………立花さん

スズ

なに?

ユウヤ

俺、できないかもしれない

スズ

…………え?

ユウヤ

気持ちを言葉で伝えるっていうの、

ユウヤ

できないかもしれない

立花さんが、困ったふうに眉をひそめる。

スズ

どうして?

ユウヤ

怖いんだ

ユウヤ

……俺の言葉で、立花さんを傷つけるのが

スズ

どういうこと……?

ユウヤ

……高校の時、俺は大切な人を深く傷つけた

ユウヤ

自分で気づかないうちに、俺自身の言葉で

ずっと胸の奥に沈んでいた言葉が、次々に溢れ出す。

ユウヤ

その人のことを想って言ってたはずだった

ユウヤ

『支えになる』『ずっとそばにいる』って……

ユウヤ

なのに逆に傷つけてたんだ

わずかながら、声の震えを抑えきれなかった。

ユウヤ

今回も同じことになるんじゃないかって

ユウヤ

俺はそれを恐れてる

スズ

…………

ユウヤ

だから……、

ユウヤ

だから--…

その先を言葉にすることを、ためらう。

だけど、止められなかった。

止めてはいけなかった。

ユウヤ

そんなことになるくらいなら

ユウヤ

今、別れた方がいいのかもしれないって……

ユウヤ

そう思っちゃってる

言ってから、後悔が全身を駆け巡った。

だけど、僕の彼女に対する想いが決断させたのだと。

そう思いたかった。

じゃないと、空が落ちてきそうだった。

スズ

……ずっと、不安だったの?

ユウヤ

うん……

ユウヤ

付き合う前から、ずっと

スズ

なかなか告白してくれなかったのも、そのせいだったんだ

ユウヤ

……ごめん

告白するまでに彼女とデートした回数は、7回。

二つの相反する気持ちを天秤にかけながら、僕は彼女とデートを重ねた。

彼女と会うたび、天秤の両皿に増えていく重り。

両方の皿にそれを交互に載せ続け、天秤は絶え間なく揺れていた。

スズ

結局最後も、わたしが催促したみたいになっちゃったしね

ユウヤ

……立花さんがきっかけをくれたから、告白できたんだよ

彼女が期待してくれているのは、薄々感じていた。

本当のところ、彼女の気持ちが決め手だったんだと思う。

もしそれがなかったなら、天秤は逆側に傾いていただろう。

ユウヤ

だけど……自分の言葉を全く信じられなかった

ユウヤ

そこに必要な気持ちがこもってるのか、自信がなかったんだ

それ以上、言葉は続かなかった。

立花さんはしばらく何も言わずに、僕の胸の辺りを見つめていた。

スズ

……さっきは、本当にごめん

立花さんは僕の胸に向かってそう言ったかと思うと、ゆっくりと顔を上げる。

その瞳は、しっとりと潤んでいるように見えたけれど、揺るぎなくこちらを見据えていた。

スズ

冗談でもあんな言い方ダメだったね

スズ

わたしといると楽しいって……

スズ

せっかくそう言ってくれたのに

ユウヤ

立花さんが謝る必要なんて、これっぽっちもない

ユウヤ

全部俺の問題だ

スズ

ううん、謝らせて

スズ

君が苦しんでるの、全然気づいてあげられなかったんだから

ユウヤ

いや、そんな……

スズ

--でも大丈夫!

言葉を詰まらせる僕に、彼女はニコリと笑いかけ、

スズ

わたし、そういうのわかるの

「愛してる」を食べさせて

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