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スズ
立花さんは、ぽつりと、そう言った。
ユウヤ
スズ
ユウヤ
僕はよほど怪訝な表情を浮かべていたらしい。
すかさず彼女が、おどけたふうに抗議してくる。
スズ
ユウヤ
ユウヤ
スズ
スズ
ユウヤ
スズ
そう言ってから、藪から棒に、とててっと走り出す彼女。
その先にはエスカレーターの乗降口。
僕はそこで初めて、歩道橋の目の前までたどり着いていたことを知る。
立花さんは勢いそのままに、ピョンとエスカレーターに飛び乗った。
僕も小走りで追いつき、彼女の一つ後ろの段まで上る。
スズ
その言葉と同時に、前に乗った彼女がくるりとターンしてこちらを振り向く。
ユウヤ
反射的にのけ反って落ちそうになるが、何とかそれは耐えた。
僕は日本人にしてはかなり高身長の方だ。
それでも160cm後半くらいある立花さんの身長に、エスカレーター1段分の高さがプラスされると、少しだけ彼女を見上げる形になる。
スズ
その状況にドギマギする間もなく、彼女の声がした。
スズ
スズ
僕の数センチ前にある彼女の表情。
まるで窓から差し込む朝日のような、柔らかい微笑みをたたえていた。
その、言葉。
“宝箱”という彼女の言葉は、全身にじんわりと染み渡る感じがした。
スズ
スズ
スズ
スズ
ユウヤ
何がわかった、なのか。
わからない。
分からないけど、僕の口は動いていた。
ユウヤ
ユウヤ
ユウヤ
ユウヤ
驚くほど素直に、そう思っている自分がいた。
そして、彼女の気持ちに報いるために、僕ができること。
立花さんのことが、好きだ、と。
一片の迷いなく、そう言えるように。
ユウヤ
だから、言った。
ユウヤ
その瞬間だった。
喉に鋭く走る、針で突かれたような痛み。
ユウヤ
どこかで感じたような感覚。
ユウヤ
“好きです”と伝えた直後に感じた、あの不自然な痛み。
結局その後腫れたりすることもなく、原因はよくわからないままだった。
スズ
スズ
彼女は、囁くようにそう言った。
嚙みしめて、咀嚼していくように、じっくりと時間をかけて。
そしてすぅっと目を細め、か細く微笑む。
その顔も、知っている気がした。
スズ
スズ
ユウヤ
こんな時だというのに、僕は場違いなことを考えていた。
僕らの唇の間に残されたわずかな空間を、今すぐに埋めてしまいたい、などと。
しかし僕の思いとは裏腹に、彼女はくるりとターンした後、歩道橋の上にシュタッと降り立つ。
スズ
再び振り向いてからそう言い、わざとらしく顔を覆う立花さん。
そこにはいつも通りの、明るくて楽しい彼女がいた。
自然と頰が緩むのを感じる。
ユウヤ
ユウヤ
ユウヤ
スズ
ユウヤ
ユウヤ
幸い痛みは大したことないし、頻度も少ない。
ユウヤ
ユウヤ
そして、気を取り直す。
ユウヤ
付き合って初めてのデートなのに、思い切り水を差してしまった。
ユウヤ
ユウヤ
僕は鼻から新鮮な空気をいっぱい吸い込み、ふぅ~と吐く。
そして一拍置いてから、言った。
ユウヤ
スズ
ユウヤ
ユウヤ
スズ
スズ
ユウヤ
ユウヤ
もちろんデメリットもあるだろうけど、僕にとってはメリットの方が圧倒的に大きく感じられた。
スズ