一宮柊作
ま、まあ一旦落ち着こうじゃないか。……特に紅葉
一宮紅葉
いえいえお父様、私は断じて冷静ですよ
一宮紅葉
ただ、私抜きでなんだか大事な話を進められているような気がしたので
一宮桜華
…取りあえず着席しましょう。話はそれからよ
私と五条さん、そして向かい合うように父母弟が各々素材のいい椅子に腰掛けた。
使用人達が茶と茶菓子を人数分用意してから数分、未だなんとも言えない沈黙が流れている。
一宮柊作
勝手に婚約の話を進めてしまったこと、悪いと思っている。すまない
一宮紅葉
謝罪は後です。まずその“契約”を教えてください
五条悟
じゃあそれは僕から。まあ簡潔に言うと
五条悟
『一宮紅葉の身を僕が絶対的に保身する代わりに嫁にくれ』ってことだね
一宮紅葉
は、はあ!?そんなこと勝手に…っ!
一宮桃李
そうだぞ僕はこんなこと許してない
一宮紅葉
というかそんなの五条家が黙ってないでしょう……
五条悟
五条家としては僕が一生結婚も世継ぎも残さないから
五条悟
紅葉の存在は一筋の光のごとく丁重〜に扱ってくれると思うよ
五条悟
まあ御三家の頭の固いジジイ共はうるさいだろうね
一宮紅葉
だったら……!
五条悟
そのために僕がいるんでしょ?
っな、!不覚にもドキッとしてしまった…。平常心平常心……。
一宮桜華
紅葉、これだけはわかってほしいの。母様も父様もあなたには幸せに生きてほしいってこと
一宮桜華
あなたがこの家を出ていくって言った時、子供が一人でやっていけるはずがないって思ったの
一宮桜華
でもそれ以上に嬉しかった。あなたが死と隣り合わせのこの世界で生きることを選ばなくて
一宮桜華
───普通の女の子として生きることを選んでくれて。
母は途中で言葉を詰まらせながら、涙ぐみながら話した。
初めて知ったのだ。母がこんな風に泣くことを、こんなにも私のことを考えてくれていたことを。
一宮柊作
桜華の言う通りだ。私も最初は迷ったんだ。娘の婚約者を決めてしまうこと、何よりこちらの世界に戻してしまうことを
一宮柊作
五条さんは紅葉と婚約が解消されてからも忙しいのにここへ毎年顔を出しに来てくれてたんだ
一宮柊作
最初は親同士の勝手に決めた婚約だったが本当に紅葉のことを愛してくれていることを知ったんだ
一宮柊作
きっとこの人だったら紅葉を幸せにしてくれるんだろうと思った。
一宮柊作
だがこれは紅葉の人生だ。断ってもいい。自分の思う幸せを手にしてほしい。