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或る夏の、晴れた日の話。 ヨコハマの中心で突如猛獣が咆哮した。
夏の猛暑を優に超える温度の熱波が街を包み、空が歪む。
熱波の中心に居る小さな猛獣は、自らの身体がどれ程ぼろぼろに傷付こうと気にも留めず、意味の無い文字の羅列を叫びながら破壊の限りを尽くす。
人々は混乱状態に陥り逃げ惑うが、街の破壊に巻き込まれて喚く声も段々と小さくなっていった。
そんな中、瓦礫の上に立っている青年が1人。
太宰
青年は、ヨコハマを破壊し尽くす猛獣に目を向けて呟いた。
太宰
太宰
青年……太宰は、額に汗を滲ませながら呟く。そして、猛獣との距離を詰めようと足を動かすが、熱波によって近付けない。
太宰
太宰が猛獣の名を呼びながら触れようとするも、飛来した瓦礫の所為で目を傷め、手を引っ込める。
中也は、自分の名を呼ばれている事に気付いていないのか、手負いの獣の様に唯吠えるのみで太宰を視界に捉えようとすらしない。
太宰
熱波に体力を削られた太宰は、その場に膝をつくが何とか立ち上がり再び中也に近付こうとする。そして、その腕に指先で触れた。
瞬間熱波が止み、中也は力を失って地に足をつける。ごほ、と咳き込んで幾らか血を吐き、其の儘地面に倒れ伏そうとする身体を太宰が抱き留めた。
太宰
太宰は荒覇吐の暴走を止められなかったことを詫びるが、其の声は本人には届いていない様で。
熱波の所為で体力を消耗しきった太宰は、中也を抱いたまま気を失った。
太宰
太宰は、目を覚ますと同時に飛び起きた。そして、自分が今居る場所を確認する。
白い天井、白い床。腕には点滴。 郊外にある小さな個人経営の病院の一室に太宰は入院していた。
ヨコハマが荒覇吐に襲われた日から、既に約1週間が経過していた。
太宰は自身の左眼に当てられた眼帯に気付く。
太宰
森
其処へ、太宰の診察をしていた医師が病室に入ってくる。
太宰
太宰は、森、と呼ばれた其の医師に中也の事を尋ねる。
森
森はそう答えながら、ベッドサイドの椅子に腰を下ろす。
結った髪を解いて小さく溜息を吐いて、目を伏せた。
森
森
森
太宰は其れを訊くと寝台から立ち上がり、病室を出ようとドアに向かう。
森
太宰
森の問いに太宰はそう答える。すると森は一瞬驚いた様に目を丸くして、其れから哀しげに微笑んだ。
森
太宰
太宰は自嘲的に笑ってそう云った。 森は椅子の上で脚を組むと、再び静かに喋り始めた。
森
太宰
森
森
森
太宰
太宰は、森の意図に気付いた。
森
森
太宰
太宰はドアに手を掛け、然して其の儘病室を出て行こうとする。
森
太宰は振り返らず足を止める。
太宰
森
森は優しく微笑んでそう告げた。
太宰は返事をしない儘、目線だけを少し寄越して、其れから病室を出て行った。